介護事故があったときの裁判のポイントについて専門弁護士が解説!

最終更新日: 2022年09月23日

介護事故による裁判までの流れを弁護士が解説!

  • 介護事故で親が骨折してしまい損害賠償を請求したい
  • 介護事故での骨折の責任の所在はどこにあるのか
  • 介護事故での損害賠償の請求の裁判の流れを知りたい

超高齢化社会を迎える日本では、2025年には人口の3分の1が65歳になると予測され、介護のニーズは高まる傾向です。その一方で、介護職員の不足が大きな社会問題となっています。

この問題が、高齢者が集まる介護施設では、転倒による骨折などの介護事故が起きる原因の1つになっている可能性があります。介護施設で利用者が骨折してしまった場合、施設に責任を追及し損害賠償を請求することは可能なのでしょうか?

そこで今回は、介護事故による裁判で争点となる安全配慮義務違反や介護事故による裁判までの流れについて解説します。

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この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

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介護事故による裁判は増加傾向

介護事故による裁判は増加傾向にあります。以下、3つのポイントから解説します。

  • 介護保険制度の制定から20年
  • 2025年の介護問題・団塊世代は75歳
  • 介護事故の中でも転倒事故による裁判が多い

1つずつ、見ていきましょう。

介護保険制度の制定から20年

介護事故による裁判が増加傾向にある1つ目のポイントは、介護保険制度の制定から20年が経過していることです。

2000年にスタートした介護保険制度により、多くの民間事業者が参入してサービスの提供を始めました。それまでは、家族だけが負担していた介護を社会全体で担うようになり、家族の負担がようやく軽減されるようになりました。

65歳以上の被保険者数が約1.6倍に増加する中で、介護サービスの利用者は約3.3倍に増加し、今や介護保険制度は高齢者の介護になくてはならないものとして定着しています。このため、利用者側でも介護保険に関する知識が蓄積し、権利意識が高まってきているのです。

2025年の介護問題・団塊世代は75歳

介護事故による裁判が増加傾向にある2つ目のポイントは、2025年の介護問題・団塊世代は75歳である、ということです。

2025年には後期高齢者の人口は約2,200万人に達し、国民の4人に1人が75歳以上になる計算です。日本の少子高齢化にともない、少数の若い世代が多数の高齢者を支えることとなり、多くの負担がかかるようになります。

介護サービスを利用する高齢者は今後も増え続け、介護保険の財源もひっ迫する予想です。中でも認知症や寝たきりの高齢者が増えると、特別養護老人ホームの需要が高まり、介護費用もふくれ上がる傾向にあります。

利用者は年々倍増するのに対し介護施設の職員が激減する状況では、介護サービスを充分に提供することは困難になり、介護事故が発生しかねません。それに伴い介護事故の裁判が今後もさらに増加することが予想されます。

介護事故の中でも転倒事故による裁判が多い

介護事故による裁判が増加傾向にある3つ目のポイントは、介護事故の中でも転倒事故による裁判が多いということです。

平成30年に行われた厚生労働省の報告によれば、介護施設における最も多い事故は、転倒・転落によるもので全体の60%を占めています。

利用者の大半は、1人でバランスをとって立って歩いたりすることが困難です。車椅子が必要な利用者は、移乗時の転落が起こりやすくなります。また体力面だけではなく、認知面からも転落がおきてしまうことがあるでしょう。

転倒・転落によって一度でも骨折をすると、その後は寝たきりとなったり、そこから合併症となって死亡するケースも少なくありません。

介護施設の職員は、利用者はいつでも転倒・転落の危険があることを認識しておく必要があるでしょう。

介護事故による裁判では安全配慮義務違反が争点

介護事故による裁判では、介護施設の安全配慮義務違反が争点になります。

介護事故において、介護施設が追うべき法的責任には、不法行為責任契約上の安全配慮義務違反があります。

いずれにおいても、責任の有無を判断するにあたっては、「予見可能性」と「結果回避可能性」の有無により決められます。この予見可能性と結果回避可能性が認められたときに、
介護施設は介護事故の賠償責任を負うことになります。

「予見可能性」とは、施設側で事故の発生が予見できた場合をいいます。たとえば、施設側が利用者の身体状況から転落する可能性があること、あるいは過去に転落したことを把握していたようなときは、予見可能性があったといえるでしょう。

「結果回避可能性」とは、施設側が事故の発生を予見していたのに、回避するための適切な措置をしなかった場合をいいます。たとえば、転倒の危険があるのに付添をせずに利用者を1人でトイレに行かせた、見回りもせずに利用者を放置していたような場合には、施設側に結果回避義務違反が認められるでしょう。

「予見可能性」、「結果回避性」の判断には、利用者の状態や過去の転倒の有無、事故現場の状況などを具体的に検討するなど専門家の知識を要することが少なくありません。弁護士などの専門家に問い合わせることをおすすめします。

介護事故による裁判までの流れ

介護事故による裁判までの流れは、以下の3つです。

  1. 介護施設へのヒヤリング
  2. 示談交渉も検討する
  3. 訴訟の提起

1つずつ、見ていきましょう。

介護施設へのヒアリング

介護事故による裁判までの流れの1つめは、介護施設へのヒアリングです。

介護施設において利用者が骨折をしてしまった場合、利用者あるいはその家族が事故の状況・経緯あるいは原因などを充分に説明してもらうことが重要です。

「事故防止の対策は適切だったのか」、「職員の介助は適切だったのか」など具体的に状況判断が出来るような説明ができるように、事前に質問事項をまとめておくことが有効です。

また、介護サービスを提供中に事故が発生した場合には、介護施設は「介護事故報告書」を作成して市町村あるいは都道府県に報告する義務があります。介護施設から説明を受けるときには、この「介護事故報告書」の開示を求め、口頭だけではなく書面でも状況を確認するようにしましょう。

中には施設側で損害賠償や行政指導を免れるために、事故報告を隠蔽する場合もあります。このような事態に備えて、事故現場の写真や目撃証人などの物的証拠を保全しておくことも大切です。

示談交渉も検討する

介護事故による裁判までの流れの2つめは、示談交渉も検討することです。

示談交渉とは、介護施設と事故に遭った利用者またはその家族の間で、トラブル解決に向けた話し合いをすることです。当事者同士で協議をし、事故の損害賠償額が決まれば、その内容を示談書あるいは合意書に記載します。

初めから弁護士に依頼する場合は、内容証明郵便による通知書を介護施設に送付して、損害賠償請求をする旨の意思表示をすると、示談交渉が始まります。

介護施設側に弁護士がいる場合・保険会社から示談金が事前に提示されているような場合は、内容証明郵便による請求を省略するときもあります。

介護施設側の責任の有無や賠償金額に折り合いがつかないような場合は、裁判を検討することになるでしょう。

訴訟の提起

介護事故による裁判までの流れの3つめは、訴訟の提起です。

示談交渉がまとまらなかったり、示談交渉を最初から望まないような場合は、訴訟を提起することによって損害賠償が可能になります。利用者あるいは代理人弁護士である原告が、裁判所に訴状を提出すると、介護施設である被告は訴状に記載された事実内容の認否などを記載した答弁書を提出します。

その後は、答弁書の認否をもとに何処が争点になるのかを明らかにするために争点整理が進められます。そのときに、双方の主張を準備書面で提出し、それを裏づけるための書証を提出していきます。この準備書面と書証の提出だけで、通常は1年から場合によっては2年ほどかかるときもあります。

この段階で双方が合意に達すれば和解となり、和解が不成立に終われば、裁判官による判決が下されます。

判決が出てもどちらかが控訴をすれば、また控訴審が始まります。

控訴審の判決は、1審のように時間はかかりません。訴訟を提起してから判決を得るまでには、一般的には2年以上かかります。

介護事故で裁判を起こす場合は弁護士の介入が効果的

介護事故で裁判を起こす場合は弁護士の介入が効果的です。以下に、介護事故の裁判事例・経験豊富な弁護士に相談がおすすめな理由を解説します。

介護事故の裁判事例

弁護士が介入した介護事故の裁判事例を2つ解説します。

事例1

痴ほう対応型共同生活介護施設において、職員が目を離したすきに利用者が転倒・骨折し、その結果、転倒事故から2年後に亡くなりました。遺族は安全注意義務違反などを主張して、介護施設に対する損害賠償請求を起こしました。

裁判所は、「職員として、利用者が普段とは異なる不安定な歩行をする危険性があり、利用者のもとを離れる際に着座させて待機指示を守れるか事前に確認する必要があったのに、これを怠ったために転倒・骨折が起きた」として施設側の責任を認めました。

つまり、「職員は利用者が普段と異なる不安定な歩行をする可能性があったことを認識でき、しかるべき対処をするべきだったのに、これを怠った」と判断された事例となります。(大阪高裁平成19年3月6日判決)

事例2

介護老人保健施設において、95歳の利用者が自室のポータブルトイレの清掃がされていなかったので、自らこれを処理するために汚物処理場に持っていこうとしたところ、処理場の出入口で足をひっかけて転倒し骨折しました。

この事故について、利用者は施設に対して損害賠償請求を起こしました。裁判所は、「ポータブルトイレの清掃がなされていなかったことが原因で利用者の転倒・骨折が起きた」と施設の定時的清掃義務と転倒・骨折の間に相当因果関係を認め、利用者の損害請求を認めました。(福島地裁白河支部判決平成15年6月3日)

経験豊富な弁護士への相談がおすすめ

経験豊富な弁護士への相談がおすすめな理由は、介護事故で損害賠償請求をするのは、専門的な知識を必要とし、交渉が難航することが予想されるためです。経験豊富な弁護士に相談すれば、過去に解決実績が多数あるため、迅速な解決が期待できます。

また、相談者の心情を理解してもらえるため、不安を解消するために一歩先を読んだサポートをしてくれるでしょう。そのような弁護士事務所であれば、24時間いつでも連絡を受け付けて、相談者の不安に寄り添ってくれるはずです。多数の解決実績がある法律事務所を探して依頼することをおすすめします。

まとめ

今回は、介護事故による裁判で争点となる安全配慮義務違反や、介護事故による裁判までの流れについて紹介しました。

介護保険制度から20年が経過し、利用者側も介護保険の知識を有して権利意識が高まる中、2025年問題により介護の需要と供給が大きく乖離している現状において、介護事故による裁判は増加するばかりです。

今後もさらに増加傾向は加速することが予測されるので、こうした事態に備えて予め準備をしておくことも大切です。

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