介護施設・高齢者施設における感染症対策

最終更新日: 2023年06月13日

現在の情勢

日本国内での新型コロナウイルス感染症の影響により、休業する介護事業所が増加しています。

その多くは、高齢者が日帰りで食事や入浴などのケアを受ける短期入所(デイサービスなど)の施設のようです。

特別養護老人ホームなどの入所型の施設と比べ、人の出入りが多い通所型の施設における感染対策が困難であることが理由の一つとして指摘されています。

もっとも、介護の現場においては、サービスの形態を問わず、事業者側・利用者側ともに、自らが感染するのでは、自らが感染させてしまうのではとの不安を抱えていらっしゃるでしょう。

厚生労働省は、「介護事業所等における新型コロナウイルス感染症への対応等について」として、ホームページ上で、自治体・関係団体向けの事務連絡を掲載しています。

また、各自治体も、介護事業者に向け、新型コロナウイルス関連情報を掲示しています。

感染拡大防止に関する事項や感染が確認された場合・疑われる場合の対応など重要な情報が記載されていますので、ぜひご覧になってください。

介護施設が特に対策をとるべき感染症(インフルエンザ、ノロウイルス)

上記のとおり、新型コロナウイルスの影響が大きい現在ですが、介護施設・高齢者施設では、それ以前にも、インフルエンザやノロウイルス等の感染症への対策を講じてきました。

まずは、介護施設・高齢者施設において特に注意が必要な感染症について説明します。

集団感染を起こす可能性のある感染症として、インフルエンザやノロウイルス感染症などがあります。

インフルエンザは、咳やくしゃみなどの飛沫感染を主たる感染経路としますが、汚染された手などを介して、鼻などの粘膜への接触により感染することもあり得ます。

ノロウイルスは、激しい嘔吐や下痢、腹痛を特徴とする感染性胃腸炎で、手指や食品(カキなどの二枚貝)などからの経口感染が主たる感染経路です。

このほかに、感染への抵抗力が低下した人などに発生しやすい感染症として、MRSA感染症(黄色ブドウ球菌による感染症などがあげられます。たとえば、無菌室が必要なほどに抵抗力が低下した場合や、重度の火傷を負った場合には重症化のリスクが高くなります。

さらには、血液や体液を介して感染するB型肝炎、C型肝炎などにも注意を払う必要があります。

厚生労働省による感染対策マニュアル

では、介護施設・高齢者施設において、これらの感染症に対する感染予防対策、拡大防止対策はどのように講じられているのでしょうか。

2019年(平成31年)3月に、厚生労働省が、平成30年度老人保健健康増進等事業として実施された「高齢者施設等における感染症対策に関する調査研究事業」(実施主体:株式会社三菱総合研究所)において、「高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版(2019年3月)」が取りまとめられたことを公表しました。

そこで、介護施設・高齢者施設における感染症対策として、このマニュアルに記載された内容を簡単にご紹介いたします。

感染症は、1.病原体(感染源)、2.感染経路、3.宿主の3つの要因が揃うことで生じることから、これらのうち、1つでも取り除くことが重要です。

つまり、感染症対策は、1.病原体(感染源)の排除、2.感染経路の遮断、3.宿主抵抗力の向上の3点が中心となります。

なかでも、感染拡大を防止するという観点からは、2の完成経路を遮断することが極めて重要です。

マニュアルでは、病原体を持ち込まない、持ち出さない、拡げないをテーマに、以下のような対策を講じるよう呼びかけています。

  • 施設内に入る際、ケア前後の手指消毒、流水による手洗い
  • 咳やくしゃみがある場合等のマスク着用
  • 血液・体液・分泌物・嘔吐物・排泄物等を扱うときの手袋、マスクやエプロン、ガウンの着用
  • 居室の環境整備

介護施設・高齢者施設は、感染症に対する抵抗力の弱い高齢者が、集団で生活をする場ですので、感染症が広がりやすい状況にあることを、職員、スタッフら事業者側が十分に理解したうえで、上記マニュアルを参考にした適切な対策が求められています。

特に、平時から予防を心掛けること、万が一に備えて、マニュアルを作成し、感染症が発生した場合を想定した研修やシミュレーションを行うなどの対策を講じておくことが望ましいでしょう。

感染症が発生した場合に介護施設がとるべき対応

では、実際に、高齢者施設・介護施設にて感染者が出てしまった場合には、どのような対応をすべきでしょうか。

この点についても、上記マニュアルを紹介いたします。
具体的には、以下の5点を行うことが重要であると記載されています。

発生状況の把握

感染症や食中毒が発生した場合や、疑わしい状況が生じた場合には、症状が出ている利用者(入居者・入所者)の状況や、施設側がとった措置などを正確に記録しておく必要があります。

感染拡大の防止

感染源となり得る嘔吐物、排泄物などの処理を徹底すること、感染経路の遮断に努めます。

医療処置

行政への報告

介護事故同様、報告が必要な場合には、各市町村指定の報告書用紙にて、市町村等の高齢者施設主管部局に報告し、あわせて保健所への報告も行います。

関係機関との連携

医師、保険所、地域の中核病院のインフェクションコントロールドクター(ICD)、感染管理認定看護師(ICN)などと連携を図ります。普段からの連携体制を構築していくことが重要です。

以上、介護施設・高齢者施設における感染症対策について、ご説明いたしました。

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