開示請求は匿名の相手に対しても行える!流れやポイントを弁護士が解説
最終更新日: 2024年12月16日
- 開示請求は匿名の相手でも可能だろうか?
- 匿名の相手に対する開示請求はどういう手続きをすればよいのか?
- 匿名の相手に対する開示請求は弁護士に相談した方がよいのか?
インターネット掲示板やSNSで誹謗中傷の被害にあった場合、相手に対して損害賠償や削除を求めるために、裁判などのアクションを行うことになります。
そのために必要なのが相手に関する情報です。匿名で利用できるインターネット掲示板やSNSであっても開示請求は可能です。
本記事ではインターネットトラブルの解決に尽力してきた弁護士が、匿名の相手に対する開示請求の仕方や流れについて解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- インターネット上での誹謗中傷は匿名で行われやすいが、発信者情報開示請求によって相手を特定することが可能
- 発信者情報開示請求を行うには、権利侵害の明白性、開示の正当な理由、補充性といった条件を満たす必要がある
- 手続きは法律の専門知識を要するため、弁護士への相談がスムーズな解決に繋がる
開示請求により匿名の相手で特定が可能
誹謗中傷に対する開示請求は、匿名の相手でも可能です。誹謗中傷によって問われる可能性がある刑罰を解説し、発信者情報開示についてご紹介します。
誹謗中傷で問われる罪
誹謗中傷とは、相手に対する悪口を意味する誹謗と、根拠なく相手を悪くいう行為である中傷を併せたものです。
誹謗中傷は、その内容によっては次の罪に該当することがあります。
- 名誉毀損罪(刑法第230条)
- 侮辱罪(刑法第231条)
- 業務妨害罪・信用毀損罪(刑法第233条・刑法第234条)
- 脅迫罪(刑法第222条)
それぞれ次のような犯罪です。
名誉毀損罪
公然と事実を示して他人の名誉を傷つける犯罪が名誉毀損罪です。
たとえば、「◯◯は泥棒をしたことがある」という風に、事実を示して他人の誹謗中傷をすることで、その人の社会的評価を下げるものです。
社会的評価を下げる行為を名誉毀損というため、示された事実が虚偽のものでも名誉毀損罪が成立します。
刑法第230条に規定されており、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される可能性があります。
侮辱罪
事実を示さずに他人を軽蔑する発言や行為をする犯罪が侮辱罪です。
たとえば、「◯◯は馬鹿である」というなど、事実を示さず他人を誹謗中傷することで、その人の名誉感情を侵害するものです。
侮辱罪の法定刑は、従来は「拘留又は科料」だけでした。しかし、昨今のインターネット上での誹謗中傷の増加・悪質化などに鑑み、令和4年7月7日から「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に厳罰化されています。懲役・禁錮・罰金刑が追加されているので注意しましょう。
業務妨害罪・信用毀損罪
業務妨害罪や信用毀損罪などが成立することがあります。
業務妨害とは、虚偽の風説の流布や偽計・威力を用いて業務を妨害する行為です。
風説の流布や偽計によって業務を妨害する場合が偽計業務妨害罪(刑法第233条)、威力によって業務を妨害する行為が威力業務妨害罪(刑法第234条)にあたります。
また、虚偽の情報を流布して他人の信用を損なう行為が信用毀損罪です(刑法第233条)。
刑法第233条・第234条ともに3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が法定刑とされています。
脅迫罪
他人の生命・身体・財産などに危害を加える旨を示して恐怖を与える犯罪が脅迫罪です。
「殺してやる」「殴ってやる」などの言動がこれにあたります。
刑法第222条により、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金が課せられます。
誹謗中傷が、インターネットで起きやすいのは、基本的にはインターネットは匿名で利用できるためです。
発信者情報開示
発信者情報を開示してもらう手段は、従来任意に開示してもらう方法と、発信者情報開示を求めて仮処分・裁判を起こす法的な方法がありました。しかし、任意に開示を求めても応じてくれることはまずありません。
発信者情報開示請求は、サイト運営者とプロバイダに開示請求をする方法です。また、裁判所を通じて1回の裁判手続きでサイト運営者とプロバイダの両方に開示請求ができる発信者情報開示命令という手続きも2022年に新設されました。
発信者情報開示請求については以下の記事で流れやポイントを詳しく解説しました。本記事では、発信者情報開示命令を中心に解説をしていきます。
匿名の相手の開示請求に向けた発信者情報開示命令が行われる条件
プロバイダ責任制限法第5条では、匿名の相手に発信者情報開示命令を行える要件として、次の3つの条件を必要としています。
- 権利侵害の明白性
- 開示を受けるべき正当な理由
- 補充性
詳しく見ていきましょう。
権利侵害の明白性
発信者情報開示命令を行える条件の1つ目は、権利を侵害していることが明白であることです。権利侵害の明白性の条件を満たす必要があります。
プロバイダ責任制限法第5条第1項1号は「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」と規定しています。
開示命令を求める対象となる権利は、名誉権・プライバシー権など種類は様々で、侵害行為の態様も異なるでしょう。
プロバイダ責任制限法では、侵害行為についての判断基準を具体的に定めていません。それぞれの権利の侵害について、過去の判例などを踏まえて判断する傾向があります。
また、権利が侵害されたことが「明らか」というのは、権利の侵害がされていることが明らかなだけでなく、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情がないことまでを意味します。
開示を受けるべき正当な理由
発信者情報開示命令を行える条件の2つ目は、開示を受けるべき正当な理由があることです(プロバイダ責任制限法第5条第1項2号)。
発信者に対して損害賠償や削除の請求を予定している場合には、この要件を満たすといえます。
補充性
発信者情報開示命令を行える条件の3つ目は、補充性があることです。
補充性とは、発信者情報開示請求以外には発信者を特定できない場合であることをいいます。
プロバイダ責任制限法第5条第1項3号は、補充性の要件を満たす場合として次のいずれかに該当することを挙げています。
- プロバイダが当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していない
- プロバイダが保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が、次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって、総務省令で定めるもののみである
- 開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名及び住所
- 当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報
- 当該開示の請求をする者がこの項の規定により開示を受けた発信者情報によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができない
匿名の相手に向けた開示請求の流れ
匿名の相手に発信者情報開示命令によって、開示の相手の情報開示を行うための流れは次の通りです。
- 証拠を保存する
- 裁判所に発信者情報開示命令の申立てをする
- 裁判所で審理
- 裁判所が、サイト運営元にIPアドレス提供命令を、管理者とプロバイダに発信者情報消去禁止命令を行う
- 裁判所が管理者とプロバイダに発信者情報開示命令を行う
こうして開示された情報をもとに相手に対して法的請求をします。
発信者情報開示請求を匿名の相手に行うポイント
発信者情報開示請求を匿名の相手に行う場合のポイントは次の通りです。
早めの始動
発信者情報開示請求を匿名の相手に行う場合のポイントの1つは、早めに始動をすることです。
ログは永久に保存されるわけではなく、一定期間が過ぎると消えてしまいます(目安として3~6か月)。
ログの保存命令を早急に出してもらわないと、開示請求ができなくなるおそれがあるので、始動は急ぎましょう。
証拠を残してから削除請求
削除請求は証拠を残してから行いましょう。
相手に削除請求をすると、相手は法的責任追及を恐れて誹謗中傷内容を削除してしまう可能性があるため、証拠の収集が困難となります。
法的責任を問うためには証拠の存在は不可欠なため、きちんと証拠を残してから削除請求をしましょう。
弁護士への相談
発信者情報開示請求をする場合は弁護士に相談しましょう。
発信者情報開示請求をするために必要な、誹謗中傷に関する権利侵害の有無の判断や、プロバイダ責任制限法など、関係する法律は非常に難解です。
発信者情報開示請求は時間との戦いになることが多く、迅速かつ的確な対応が必要になります。できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
匿名の相手に開示請求を行った後にできること・すべきこと
匿名の相手に開示請求を行った後、何をするかも重要です。
刑事告訴
刑事告訴も可能です。
誹謗中傷行為が犯罪に該当する場合、警察・検察に犯罪事実を申告し処罰を求める刑事告訴を行うことで、刑事事件として取り扱ってもらうことができます。
刑事告訴は被疑者不明でも可能ですが、相手を特定した場合の方がしやすいです。
損害賠償請求
損害賠償請求が可能です。
誹謗中傷行為で被った精神的苦痛に対する慰謝料や、営業妨害行為で失った売上などの補償を求めて、民法第709条の不法行為損害賠償請求を行いましょう。
内容証明を送って示談交渉をして、示談に応じない場合に損害賠償を求める裁判を起こします。
最初から裁判を起こすことも可能ですが、時間や費用がかかるため一般的にはまず示談を試みます。
発信者情報開示請求を匿名の相手に行うときは春田法律事務所に相談
本記事では、インターネットトラブルの解決に尽力してきた弁護士が、匿名の投稿に対しての発信者情報開示について解説しました。
インターネットの掲示板やSNSにおいては匿名で誹謗中傷行為が行われることが多く、刑事告訴や損害賠償請求が必要な場合も多いでしょう。発信者情報開示請求・命令の手続きは、誹謗中傷に関する法律や判例、プロバイダ責任制限法など、難しい知識や経験が必要です。
春田法律事務所は、匿名の誹謗中傷投稿に対する発信者情報開示請求など、インターネットトラブルの解決に注力していますので、まずはご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。