立退料の相場はいったいどのくらい?5つのケースを判例とともに弁護士が解説

最終更新日: 2023年11月24日

立退料の相場

・賃借人に退去してもらうにはどれくらいの立退料を払う必要があるのか?
・転居・移転するにもお金がかかるが、どれくらいの立退料を払ってもらえるのか?
・立退料といってもどのような内訳になっているのか?

建物の建て替えなどを理由に賃借人に物件からの退去、立ち退きをお願いしなければならないことがあります。賃借人としては少なくとも現状と同等の物件への転居・移転をしたいものですから、どれくらいの補償つまり立退料を払ってもらえるかは重大な関心事です。

反対に賃貸人としても、資金は有限ですから、一体どれくらいの立退料を用意しなければならないのか不安に思うかもしれません。

今回は、このような疑問に答えるべく、立ち退き問題の専門弁護士が立退料の相場について判例を紹介しながら解説します。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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立退料の相場の決め方と一般的な内訳

立退料の相場はどのように決まっている?

立退料は計算式が決まっているわけではなく、事案に応じて様々な事情を考慮して妥当な金額が決定されます。

判例上考慮されてきた要素としては、以下のようなものがあります。

  1. 引っ越し費用
  2. 新規契約金
  3. 代替店舗確保に要する費用
  4. 賃料差額1~3年分
  5. 借家権価格
  6. 一定期間の賃料補償
  7. 営業補償
  8. 再開発利益の分配額
  9. 慰謝料など

上記全ての要素が必ず考慮されるわけではありませんし、これらの要素だけが考慮されるわけでもありません。ただ、比較的多くの判例において下記の算定式によって算出される金額が立退料の判断において参考にされています。

立ち退き料=(新規賃料―現行賃料)×1年~3年+引っ越し費用+新規契約金】

引っ越し費用と新規契約金は、どのような立ち退き事案においても発生する費用であることから、ほぼ必ず認められている費用です。家賃差額については概ね1年分から3年分ほどが認められることが多いです。

立退料の内訳について

  • 新規契約金(礼金など)
  • 引っ越し費用
  • 迷惑料・慰謝料
  • 営業補償

新規契約金(礼金など)

賃借人は自らの希望で引っ越しをしている訳ではないので、本来従前の場所に住み続けていれば払う必要のなかった仲介手数料や礼金などの新規契約金は、立退料の内訳に含まれます。

引っ越し費用

こちらも新規契約金と同様、本来不要な支出を賃借人に課すことになりますので、立退料の内訳に含まれます。

迷惑料・慰謝料

未成年のお子さんがいる家庭の場合、通っている学校や最寄り駅等を変えずに引っ越しをする必要もあります。同じ条件の通学距離に引っ越すことは難しく、転校を余儀なくされる場合もあります。また、通勤時間が変わってしまう可能性もあり、新たな土地で生活するための心理的ストレスがかかることもあります。

このように立ち退きのために精神的苦痛を受けることがあります。立ち退きによる慰謝料や迷惑料は法的には認められる可能性は乏しいですが、交渉次第でこれらを立退料の内訳に含めることもあります。

営業補償

テナントでお店を経営している場合、異なる地域に移転することで集客に影響する可能性があります。また、移転のために休業して収入が途絶える期間も生じてしまいます。

このように立ち退きによって減少した収入を補償するための営業補償も立退料の内訳に含まれることは多いです。

店舗の立退料の相場

まずは店舗の立退料の相場とは一体いくらであり、どのような判例があるのか見ていきましょう。

立退料の相場は?

店舗の立ち退きでは、移転先での改装工事費用が必要となってくるので、その分だけ立退料は高額になります。また、移転によって固定客を失うことの損失も補填する場合があります。

店舗の経営状態や立地、規模にもよりますが、少なくとも数百万円の立退料にはなりますし、1000万円以上の立退料が認められている事案も見られます。住居の立ち退きとは異なり、店舗の立ち退きでは財務資料や移転費用の見積りなどを精査した対応が必要となります。

以下判例のケースをいくつか紹介いたします。

高額な立退料が認められた判例

東京地方裁判所判決(H9.11.7判タ981号278頁)は、倉庫、車庫、事務所、社宅を兼ねた建物について、当該建物の借地権価格(1662万円)及び賃借人に生じる営業損害(386万円)を合計した2048万円の立退料を認めました。

東京地方裁判所判決(H14.10.3判例秘書)は、借地権を1億円で譲り受けたこと、新規出店の内装工事費を要することなどを理由として、5000万円の立退料を認めました。

最近の判例に、東京地方裁判所判決(H30.3.7判例秘書)があります。ラーメン屋の立ち退きを求めた事例で、賃貸人において当該建物を使用する必要性が高いことを前提として、賃借人の営業補償(特に得意先損失補償として700万円程度)に加え、移転費用等の補償が必要であるとして1500万円の立退料を認めています。

低額な立退料となった判例

東京地方裁判所判決(H17.7.20判例秘書)は、テナントである美容院の立ち退きについて、70万円の立退料だけで立ち退きを認めました。

このケースでは、賃借人側に家賃の滞納があったことから賃貸借契約が継続困難であるとして、賃貸人有利に判断されたようです。

事務所(オフィス)の立退料の相場

次に、事務所、オフィスの立退料の相場とはどれくらいであるのか見ていきましょう。

立退料の相場は?

事務所の立ち退きについても、概ね店舗の立ち退きにおいて述べたものと同じ算定方式が当てはまります。ただ、事務所の場合は、移転先の内装をそのまま利用することができなくはないので、内装工事や、改装費用は認められにくい傾向にあります。

また、自宅兼事務所として利用している賃借人も多いので、居住用建物の立ち退きの要素も含めて、立退料を算定することもあります。

判例

東京地方裁判所判決(H1.7.10判時1356号16頁)では、建物の老朽化および土地の有効利用に伴い、事務所及び工場の賃貸借契約の更新拒絶をした事案について、6000万円の立退料の提供をもって正当事由を認めています。

東京高等裁判所判決(H2.5.14高民集43巻2号82頁)によれば、周辺では建物の中高層化が進んでいること(地域の実情)、建物が老朽化していて、継続使用のためには大規模な補強工事が必要であることを理由として、2億8000万円の高額な立ち退き料の提供と引き換えに正当事由を認めています。

賃貸マンション、アパート建て替え(取り壊し)の立退料の相場について

次は、賃貸マンション、アパートの立退料について見ていきましょう。

立退料の相場は?

住居の立ち退きでも、前記の算定方式を参考として立退料を検討することは多いです。新規契約金、引っ越し費用に加え、賃料差額を考慮します。

賃貸人の正当事由が相当程度認められる事案であれば、家賃差額がそれほど高額にならない限り、立退料の相場は100万円から200万円ほどになることが多いです。

ただし、入居者の物件利用の必要性が高い場合など賃貸人の正当事由が劣後する場合には、交渉によって更なる上乗せを見込むことも可能となり、500万円を超える立退料が認められることもあります。

判例

住居の立退料については、大家と入居者それぞれの建物使用の必要性、建替えの必要性を考慮して算出することが通常です。

たとえば、大阪地方裁判所判決(S59.11.12判タ546号176頁)は、賃貸人側の居住の必要性が、賃借人のそれを上回るとして、立退料100万円の提供をもって正当事由が認められるとしました。

他方、賃貸人と賃借人の双方の使用の必要性がほぼ同等であった東京地方裁判所判決(H1.11.28判時1363号101頁)においては、500万円の立ち退き料の支払いによって正当事由を認めています。

建替えの必要性に関する判例として、東京地方裁判所判決(H3.11.26判時1443号128頁)は、建物の老朽化が著しく、倒壊の危険がある場合には、立退料の提供なくして正当事由が認めています。

これに対し、老朽化しているものの、緊急性が認められない場合の建て替えであった大阪地方裁判所判決(S59.7.20判タ537号169頁)においては、150万円の立ち退き料の支払いによって、正当事由が認められるとしています。

借地上の持ち家である一軒家(一戸建て)の立退料の相場について

次は、借地上の一戸建ての立退料の相場を見てみましょう。

立退料の相場は?

借地の立ち退き事案において、算定基準は判例によって明確にされているわけではありませんが、一般的には以下が主な考慮要素になるでしょう。

  1. 引っ越し費用
  2. 借地権の補償
  3. 賃料差額
  4. 建物の買い取り

借地上の持ち家の立ち退き事案では、一概にいくら認められるかという目安を提示することは困難なので、事案ごとに立ち退き料を検討する必要があります。

判例

借地上の持ち家の立ち退き事案については、借地人において土地不動産を使用する必要性が、賃借人のそれを上回っていると認められる場合、立ち退き料の提供を必要とせず正当事由が認められることもあります。

たとえば、借地人が、当該持ち家を使っていないこと、借地契約を締結して数十年経過したことなどが考慮されています。借地の賃貸人・借地人双方の必要性が同程度である場合、必要度の比較では、正当事由を決することができないことから、立退料の提供によって正当事由を補完することととなります。

借地上の持ち家の立ち退きに関する判例としては以下のようなものがあります。

東京地方裁判所判決(H1.7.4判時1356号100頁)は、建物朽廃により消滅する可能性のある借地権の保全等を理由とする解約について、700万円の立ち退き料を認めました。

東京地方裁判所判決(H17.5.30判例秘書)は、賃貸人の借地利用の必要性が高く、借地人の借地利用の必要性が格段に高いとはいえないという事実関係を前提に、借地権価格1500万円を参考として700万円の立ち退き料を認めました(なお、700万円の立退料は、賃貸人が申し出た金額であり、これがそのまま考慮されたようです。)。

東京地方裁判所判決(H17.7.12判例秘書)は、かつて従業員寮として利用していた借地について、借地権価格の3分の1程度の金額である2850万円の立ち退き料を認めました。

まとめ

以上、物件の種類ごとに立退料の相場についての考え方や判例を見てきました。参考となる算定方法や考慮要素はありますが、やはり各事案ごとに交渉のポイント、交渉方法は異なってきます。

立ち退きを求めたい側も立ち退きを請求された側も、納得のいく解決のためにまずは、専門弁護士にご相談ください。

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