立退料の相場と計算方法|居住用・事業用別に弁護士が解説
最終更新日: 2026年03月17日

立退きを求められたとき、多くの人がまず気になるのは「立退料はいくらが相場なのか」という点です。
実際には、立退料に明確な基準はなく、物件の種類や立退き理由、移転に伴う費用などをもとに個別に算定されます。そのため、提示された金額が妥当かどうか判断できず、不安を感じる方も少なくありません。
この記事では、立退料の意味や内訳、居住用・事業用それぞれの相場、計算の考え方、交渉のポイントを整理しました。最終的には専門家のサポートを得ることで、納得のいく金額で合意できる可能性が高まります。
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立退料とは?
立退料とは、貸主が借主に立退きを求める際に、立ち退きが認められるための「正当の事由」を補完するために支払う金銭的補償のことです。法律で金額や計算式が決まっているわけではなく、当事者間の交渉によって決まるのが特徴です。
補償の目的は、借主が新しい住居や事業所へ移転するにあたり発生する費用や、生活・営業上の不利益を埋め合わせることにあります。
「正当事由」とは?立退き問題の鍵を握る法的概念
貸主が賃貸借契約の更新を拒絶したり、解約を申し入れたりするためには、単に「建て替えたい」「自己使用したい」といった貸主の都合だけでは足りません。
借地借家法第28条は、「建物の賃貸人による賃貸借の更新拒絶又は解約の申入れは、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」と明確に定めています。
これは、賃借人が生活や事業の拠点としている建物の安定的な利用を保護するための強力な規定です。正当事由の有無やその強弱は、立退きが認められるか否か、そして立退料の金額に直接的に影響します。
「正当事由」を構成する主要な要素と判断基準
裁判所が正当事由を判断する際には、以下の要素を総合的に考慮します。
- 建物の使用を必要とする事情:
貸主がその建物をどうしても使いたいという必要性と、賃借人がその建物を使い続けたいという必要性を比較します。どちらの必要性がより切実であるかが判断されます。例: 貸主が他に居住地がなく、その建物以外に住む場所がない場合(貸主の必要性が強い)。賃借人が高齢で病気を患っており、転居が困難な場合(賃借人の必要性が強い)。
- 賃貸借に関する従前の経緯:
契約締結のいきさつ、過去のトラブルの有無、賃料の支払い状況などが考慮されます。 - 建物の利用状況:
賃借人が建物を適切に使用しているか、契約に違反していないかなどが問われます。 - 建物の現況:
建物の老朽化の程度、耐震性、公共事業による収用などが考慮されます。特に大規模な老朽化や耐震性不足は、貸主側の正当事由を強化する要素となります。 - 財産上の給付(立退料)提供の有無・程度:
これが最も重要な要素の一つです。貸主の正当事由が弱い場合でも、十分な立退料を支払うことで、正当事由が補完され、立退きが認められることがあります。
「正当事由」の判断は非常に複雑で、個別の事情によって結論が大きく異なります。
貸主の主張する正当事由が本当に認められるのか、また、提示された立退料がその正当事由を補完するに足るものなのかを適切に判断するには、専門知識が不可欠です。
少しでも疑問を感じたら、弁護士に相談することをおすすめします。
賃借人にとって「正当事由」が弱い貸主への対応
もし貸主の主張する「正当事由」が弱い、または存在しないと考えられる場合、賃借人は立退きを拒否する強力な法的根拠を持つことになります。
- 安易な合意を避ける:
貸主からの交渉に応じる前に、必ず弁護士に相談し、ご自身の権利を理解してください。 - 具体的な証拠の収集:
賃借人側の使用状況、転居の困難性、代替物件の探しにくさなど、ご自身の状況を示す客観的な証拠を集めておくことが交渉上有利に働きます。 - 弁護士を通じた交渉: 貸主の正当事由の弱点を指摘し、適切な立退料を求める交渉を弁護士に一任することで、有利な条件を引き出す可能性が高まります。
賃貸借契約の基礎知識:立退き問題にどう影響するか
立退き問題に直面した際、ご自身の賃貸借契約がどのような種類であるかを知ることは、適切な対応を考える上で非常に重要です。
契約の種類や、貸主からの解約申し入れ・更新拒絶が法的に有効か否かで、賃借人の立場は大きく変わります。
普通借家契約と定期借家契約の違い
賃貸借契約には主に「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があり、立退きへの影響が大きく異なります。
特徴 | 普通借家契約 | 定期借家契約 |
契約更新 | 原則として自動更新(更新されるのが前提) | 契約期間満了で確定的に終了(更新なしが原則) |
賃借人保護 | 非常に強い | 比較的弱い |
貸主からの解約 | 「正当事由」が必須。立退料を支払うことで補完されることが多い | 原則として期間満了で終了。中途解約は特約による |
立退料の発生 | 貸主都合での立退きには、基本的に必要となる | 原則として不要(期間満了が前提のため) |
もしあなたの契約が普通借家契約であれば、貸主が一方的に契約を終了させることは非常に困難です。
契約書で「定期借家契約」と明記されていなければ、通常は普通借家契約です。ご自身の契約書を必ずご確認ください。
契約期間満了・更新拒絶と「正当事由」
普通借家契約の場合、貸主が契約期間満了後も更新を拒絶したり、期間中に解約を申し入れたりするには、借地借家法が定める「正当事由」が必要です。
この正当事由は厳格に判断され、貸主の一方的な都合だけでは認められません。
貸主の「正当事由」が認められる主な要素:
- 建物の使用を必要とする事情(貸主・借主双方の必要性を比較検討)
- 賃貸借に関するこれまでの経緯
- 建物の利用状況(例:違法な使用がないか)
- 建物の老朽化の程度や耐震性などの現況
- 貸主が提供する立退料の額や内容(「正当事由」を補完する要素)
これらの要素を総合的に判断し、賃借人保護の必要性と貸主の必要性を天秤にかけます。
特に、貸主の必要性が弱い場合や、賃借人の転居が著しく困難な場合などは、高額な立退料を支払うことで初めて正当事由が認められることもあります。
賃貸人からの「解約申入れ」と賃借人の対応
貸主からの解約申入れや更新拒絶通知を受け取った場合でも、それが法的に有効であるかを確認することが重要です。
- 通知の形式: 書面(内容証明郵便など)で行われているか。
- 期間: 原則として期間満了の1年前から6ヶ月前までに行われているか。
- 内容: 正当事由の具体的な説明があるか。
もし通知に不備があったり、正当事由が不明瞭であったりする場合は、安易に承諾せず、専門家である弁護士にご相談ください。
賃借人が合意しない限り、貸主は裁判を起こさなければ強制的に退去させることはできません。
家賃滞納など賃借人側の契約違反と立退き
一方で、賃借人が家賃を滞納したり、契約で禁止されている行為(無断転貸、ペット飼育禁止違反など)を繰り返したりするなどの重大な契約違反がある場合、貸主は契約を解除し、立退きを求めることができます。
この場合、賃借人に落ち度があるため、原則として立退料は発生しない、または極めて限定的になることを理解しておく必要があります。
立退料の内訳
立退料の中には、単なる引っ越し費用にとどまらず、多岐にわたる補償要素が含まれます。
- 引っ越し費用
荷物の運搬費用、引っ越し業者への依頼料。家具や大型家電等が多い場合は高額化します。 - 新居の契約費用
敷金・礼金・仲介手数料・保証料など、新しい物件を借りる際の初期費用。居住用だけでなく、事務所や店舗の場合は保証金が高額になることもあります。 - 事業用移転費用
店舗や事務所を移す場合、内装工事・看板の設置・広告宣伝・設備の移設など、多大の費用がかかることもあります。 - 営業損失の補填
移転準備や休業期間による売上減少。特に店舗の場合は「顧客を失うリスク」まで含めて補償対象にされることもあります。 - 生活上の不利益の補填
例えば通勤時間が増える、生活環境が悪化するなど、金銭で評価しにくい損失についても話し合いの中で加味される場合があります。
- 迷惑料、慰謝料
立ち退きに伴う迷惑料や慰謝料を裁判所が考慮することはありませんが、交渉においては、これらを調整要素として考慮して立ち退き料の金額を計算することはよくあります。
実際、大家都合での立ち退きを求められる賃借人には多大なストレス、負担をかけますので、迷惑料や慰謝料という名目で立ち退き料を計算しますと賃借人の理解を得られやすいでしょう。
こうした要素を一つひとつ積み上げていくことで、最終的な立退料の額が形づくられていきます。
立退料の計算方法
立退き料を算定する際には、いくつかの要素を組み合わせて考えます。
単に「家賃の何か月分」といった目安はあくまで参考値にすぎず、最終的にはケースごとの事情を具体的に積み上げて算定する必要があるのです。
立退料を構成する「借家権価格」とは?
立退料を考える上で、特に事業用物件や、居住用物件であっても立地が良く賃料が市場価格より大幅に安い場合などに重要となるのが「借家権価格」です。
借家権価格とは、賃借人がその物件を利用する権利の経済的価値を指します。
これは、不動産鑑定評価によって算出されることが多く、貸主から見れば「賃借人がいるために自由に売却や利用ができない」という不利益の対価であり、賃借人から見れば「その場所で居住・営業し続けることができる」という権利の価値です。
借地権は「土地を借りる権利」であるのに対し、借家権は「建物を借りる権利」を指します。
立退き問題で焦点となるのは借家権の価値です。
居住用物件と事業用物件での評価の違い:
- 居住用:
主に家賃水準、立地、築年数、周辺の賃貸相場、代替物件の確保の難しさなどが考慮されます。 - 事業用: これらに加え、営業権の価値、顧客基盤、移転による売上減少リスクなどが大きく評価されます。
借家権価格に影響を与える要素と簡易的な算定の考え方
借家権価格は以下の要素に大きく影響されます。
- 物件の立地条件:
駅前一等地や商業施設内など、立地が良いほど借家権価格は高くなります。 - 賃料水準と市場賃料との乖離: 現在支払っている賃料が、周辺の同種物件の市場賃料と比較して大幅に低い場合、その差額が借家権価格として評価される可能性があります。
- 契約期間の残存期間: 残りの契約期間が長いほど、賃借権の価値は高まりやすいです。
- 権利金・敷金の額: 契約時に支払った権利金や敷金が、返還されない性質のものであった場合、その金額も考慮され得ます。
- 事業用物件の場合の営業年数と収益性: 長年営業を続け、地域に根差した店舗であるほど、営業権としての価値は高くなります。過去数年間の収益データが重要です。
簡易的な算定の考え方:
- 差額賃料の何年分:
市場賃料と実際の賃料の差額を〇年分として算定する考え方。 - 不動産鑑定評価:
正確な借家権価格を知るには、不動産鑑定士による専門的な鑑定評価が最も信頼性が高いです。交渉を有利に進めるために、賃借人側で鑑定を依頼することも検討に値します。
提示された立退料が妥当か判断する際、特に重要なのが「借家権価格」の評価です。
この評価は専門家でないと難しいため、貸主から具体的な算定根拠が開示されない場合は、弁護士を通じて不動産鑑定士に相談し、適切な評価額を把握することをお勧めします。
営業損失・休業補償の具体的な算定方法(事業用物件の場合)
店舗や事務所の立退きでは、単なる引っ越し費用だけでなく、移転に伴う営業損失や休業補償が立退料の大きな割合を占めます。
- 逸失利益(売上減少分):
過去数年間の会計帳簿に基づき、移転期間中や移転後の一定期間に発生するであろう売上減少分を算定します。 - 計算の視点:
「(過去の平均売上 – 移転後の予想売上)× 影響期間」 - 固定費補填:
休業期間中も発生する賃料、人件費、リース代などの固定費を補填します。 - 顧客流出リスクの評価:
移転により失われる可能性のある既存顧客からの収益減少分も考慮されるべきです。特に地域に密着した店舗の場合、この要素は大きくなります。 - 税務上の扱い:
事業用物件の立退料は、所得税や法人税の課税対象となる場合があります。税理士に相談し、税金対策も含めて検討することが重要です。
立退料を増額するための交渉術と弁護士の役割
提示された立退料が低いと感じた場合、賃借人として以下の交渉術を実践し、弁護士を活用することで増額の可能性が高まります。
- 内訳の提示要求:
貸主に対し、提示された立退料の具体的な内訳(引っ越し費用、新居の初期費用、営業損失、迷惑料など)を文書で求める。 - 具体的な費用の積算:
ご自身で引っ越し業者、不動産会社、内装業者などから見積もりを取り、移転に必要な実費を具体的に積算し、貸主に提示する。 - 貸主の正当事由の弱点を指摘:
貸主の正当事由が弱い(例:他に空室がある、自己使用の必要性が低い)ことを法的根拠に基づいて指摘し、立退料を増額しない限り、立退きには応じられない旨を伝える。 - 弁護士の介入:
交渉が難航した場合、弁護士に交渉を代理させることで、感情的な対立を避けつつ、法的根拠に基づいた専門的な主張を展開できます。弁護士が介入することで、貸主が裁判を避けるために増額に応じるケースも少なくありません。
当事務所の解決事例にあるように、弁護士が介入することで、当初の提示額を大きく上回る立退料を獲得できるケースは珍しくありません。
特に営業損害や借家権の価値は専門家による主張が不可欠です。不安を抱えたまま一人で悩まず、早期にご相談ください。
立退料の相場は?
賃貸マンション・アパート
一般的な目安は家賃の6か月〜12か月分といわれます。ただし、老朽化による建て替えや修繕が理由の場合は、家賃数か月分でまとまることもあります。
逆に、借主が立退きを強く拒否できる事情がある場合には、より高額の補償が提示されることもあります。
一軒家
賃貸の場合には賃貸マンションやアパートと同様に家賃の6か月〜12か月分を目安として立退料が決められることが多いといわれます。
持ち家の場合であっても、再開発や土地区画整理事業などにより立ち退きを求められることもあり、一軒家の場合には土地の価格や移転補償などの要素をふまえて立退料が計算されることが多いです。
店舗
店舗の立退きでは、補償額が最も高額になる傾向があります。単なる移転費用だけでなく、営業権の価値や売上減少の補償が交渉の中心になるからです。
小規模な飲食店でも数百万円規模、大型店舗や老舗の商店街の店舗では家賃の1〜3年分、時には数千万円規模に達することも珍しくありません。
事務所
事務所は店舗ほど営業権補償が大きく評価されない一方で、コピー機やサーバーなど移設に費用がかかるケースもあります。
相場としては家賃の6か月〜1年分程度に収まることが多いといえるでしょう。
弁護士のサポート内容
立退き交渉は、感情的な対立を伴いやすく、当事者同士だけではまとまりにくいことが多いものです。そこで弁護士を活用することには次のようなメリットがあります。
- 適正な立退料の算定
過去の判例や同種事例を参考に、妥当な金額の目安を提示してもらえます。 - 交渉代理
相手方との直接交渉を避けられるため、心理的負担を大きく軽減できます。 - 法的トラブルの予防
合意書や和解契約の内容を整えることで、後日の紛争を防げます。 - 裁判対応も視野に
交渉が決裂した場合でも、裁判手続きまで見据えて有利に準備を進められます。 - 早期かつ円満な解決
専門家が間に入ることで、感情的なもつれを解消しやすく、時間や費用の無駄を防げます。
立退料は数百万円単位に及ぶことも多く、交渉の成否によって負担額が大きく変わります。
不安を抱えたまま話し合いを進めるよりも、早めに弁護士へ相談する方が結果的に有利になるケースがほとんどです。
春田法律事務所の解決事例
FAQ(よくある質問)
Q:立退料に法律上の基準はありますか?
明確な基準はなく、借地借家法の「正当事由」と補償のバランスで決まります。判例や事例を参考に実際の損害内容をふまえて交渉する必要があります。
Q:提示された金額が低すぎる場合、どうすれば良いですか?
賃借人が任意に退去に応じない限り、賃貸人は裁判をして勝訴しなければ強制的に賃借人を追い出すことはできません。提示された内容に納得できない場合にはすぐに応じず、必要な移転費用や営業損失を具体的に試算し、増額を求めることを検討しましょう。弁護士に相談すれば、適正額の根拠を提示しながら交渉してもらえます。
Q:立退きを拒否することはできますか?
貸主に「正当事由」がない場合は拒否可能です。ただし、裁判になった場合には立退料の額や立退きを求めるに至った事情等に応じて退去に応じるべきか否かが最終的に判断されます。
Q:事業用物件の立退きでは、どんな費用を請求できますか?
引っ越し費用に加え、改装費・設備移設費・営業損失・広告費などについても請求できることが多いです。
Q:弁護士費用はどのくらいかかりますか?
事務所や案件の難易度によりますが、着手金と成果報酬の形が一般的です。立退料の増額が期待できる場合、費用以上のメリットが得られるケースも多いです。
まとめ
立退料は法律で一律に決められたものではなく、個別事情に応じて交渉で決まる補償です。居住用・事業用いずれの場合も、相場の目安はありますが、提示額が適正かどうかは状況によって異なります。
損をしないためには、過去の判例や具体的な費用をもとに冷静に判断することが欠かせません。もし提示額に納得がいかない場合や、交渉が難航している場合は、早めに弁護士へ相談することが解決への近道になります。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。
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