家賃滞納で立ち退きは可能?賃貸人が知るべき条件・手順・注意点を専門家が解説
2024年11月09日
- 賃借人の家賃支払いが滞っている。立ち退きの要求は可能だろうか?
- 賃借人に立ち退き要求を進めている。立ち退きが認められないケースはあるのか?
- 立ち退きを進める場合、前もって弁護士に相談した方がよいのだろうか?
賃借人の家賃支払いが滞り、対応に困っている賃貸人も多いでしょう。
賃借人に立ち退き要求をする場合は、一定の条件を満たす必要があります。
そこで今回は、立ち退き問題の解決に尽力してきた専門弁護士が、立ち退きが可能な条件、立ち退きの手順等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 家賃滞納で立ち退きが認められるのは、3か月以上滞納が継続している場合である
- 悪質な違反行為があれば賃貸借契約を解除し、立ち退きを要求できる場合がある
- 専門弁護士からアドバイスを受けて、立ち退き交渉を進めた方がよい
家賃滞納で立ち退き要求は可能か
賃貸物件を貸す(借りる)場合、賃貸人と賃借人は賃貸借契約を締結します。
契約後、賃借人は賃貸物件を使う権利を得ますが、賃料を支払わなければなりません(債務)。
賃借人が家賃を滞納すれば「債務不履行」となり、賃貸人は賃貸借契約を解除し、立ち退きの要求ができます。
ただし、一定期間家賃滞納が継続していなければ、賃貸人からの立ち退き要求が認められない場合もあります。
家賃滞納で立ち退き要求できる条件
賃貸人が賃借人の家賃滞納を理由に立ち退き要求できるのは、一定期間の滞納、悪質な違反行為の存在、信頼関係の破綻が認められるケースです。
賃借人の行為が賃貸借契約違反に当たるのか、賃借人に改善の余地は見込めないか、慎重に検討する必要があります。
3か月以上の滞納
賃借人が家賃を3か月以上滞納している場合、裁判で賃貸人の立ち退き要求が認められる可能性は高いといえます。
裁判官は「3か月以上も家賃を滞納していては、今後の支払いも期待できない」と、判断する傾向があります。
その場合、賃借人は裁判所から賃貸物件の明け渡しを命じられるでしょう。賃借人が退去しないまま賃貸物件に居座れば、賃貸人は強制執行の申し立てが可能です。
悪質な違反行為
賃借人に重大な違反行為があれば、賃貸借契約を解除し、立ち退き要求ができます。
- 賃貸物件を麻薬の密売や売春等、犯罪に利用していた
- 無断増築や改築を行い、賃貸物件の原状回復が困難
- 賃貸物件内で爆音や異臭を生じさせ、住宅の住人や周辺住民に多大な迷惑をかけている 等
重大な違反行為が発覚した場合、家賃を毎月払っていても、立ち退きを要求できる可能性が高いといえます。
信頼関係の破綻
複数回にわたり契約違反を注意し改善を求めても、賃借人が無視し続けている場合、信頼関係は破綻したとして、立ち退き要求できます。
ただし、次のような場合は信頼関係が破綻したとまでは言えないでしょう。
- 賃借人が家賃滞納を賃貸人に詫び、支払いのためお金を工面していると告げている
- 賃借人が騒音・悪臭の発生を謝罪し、改善を試みている
- 無断増築や改築はしたが、原状回復が可能である
上記のような場合は、賃貸人は賃借人の事情を考慮し、立ち退き要求を待った方がよいでしょう。
家賃滞納で立ち退き要求できない場合
賃借人が家賃を滞納したからといって、必ず立ち退き要求が認められるわけではありません。
賃借人側にやむを得ない事情があり、家賃の支払いを猶予した方がよいばあいもあるでしょう。
また、家賃を支払うよう強引に賃借人に迫った場合、逆に賃貸人がペナルティを受ける事態もあり得ます。
3か月未満の滞納
賃借人の家賃滞納が3か月未満の場合、立ち退きを要求しても裁判所が認めない可能性が高いといえます。
裁判官は「家賃滞納は確認できるが、まだ賃借人が滞納分を支払う可能性はある」と判断する傾向があります。
家賃滞納が3か月未満の場合は賃借人と交渉し、支払いを求めた方がよいです。
同時に、交渉がうまくいかず滞納期間が3か月以上となった場合に速やかに訴訟提起できるよう準備を進めておきましょう。
入院
賃借人が病気やケガのため医療機関に入院中の場合は、基本的に立ち退き要求は認められません。
賃貸人は賃借人側から「入院中なので仕事ができず、収入を得られなくなった」「医療費がかさみ家賃の支払いに回すお金はない」と報告を受けるかもしれません。
入院はやむを得ない事態で、通常、家賃の支払いを猶予する必要があるでしょう。ただし、入院を理由に家賃滞納が長引けば、立ち退きを要求できる場合もあります。
失業
賃借人が失業し一時的に収入を得られなくなった場合も、基本的に立ち退き要求は認められません。
就職のため賃借人が活動している間は、家賃の支払いを猶予する方がよいでしょう。
ただし、いつまで経っても仕事が決まらず、家賃滞納が長引くときは、立ち退きの要求が可能です。
自力救済
賃貸人が賃借人の家賃滞納に苛立ち強引な行動をとると、不法行為責任を追及されたり、刑事告訴されたりするおそれがあります。
次のような行動は控えましょう。
- 賃貸物件の玄関や外壁に「家賃を支払え!」と貼り紙をする
- 賃借人へ1日に何度も電話やメールを送信したり、何回も自宅を訪問したりして、支払いを要求する
- 賃借人宅へ強引に侵入し、家財を撤去しようとする
執拗な退去要求で賃借人が精神的苦痛を受けると、賃貸人は損害賠償請求を受ける可能性があります。
また、「家賃を支払わなければ、お前の家財道具を全部没収して滞納分に充てる」と威圧すれば、脅迫罪に問われる場合もあるでしょう。
家賃滞納から立ち退きへの流れ
家賃滞納を理由として立ち退きを要求する前に、まずは滞納の事実を賃借人に通知し、自主的な支払いまたは退去を促しましょう。
それでも賃借人との交渉がうまくいかなかったときは、裁判により解決を図ります。
家賃支払い通知
まず賃借人に対し、電話やメール・手紙等で家賃滞納・支払いについて通知します。
通知の段階では威圧的にならず自主的な支払いを促しましょう。
- 「前月分の家賃を滞納しているので、〇月〇日までに支払いをお願いします」
- 「滞納分の家賃は直接、貸主〇〇の指定口座に振り込んでください」
通知後賃借人が支払いに応じた場合は、賃貸借契約を継続していきます。
家賃請求
家賃の支払いを通知しても賃借人の返答がなく、家賃滞納を継続している場合は、賃借人宅を訪問し、家賃支払いを請求しましょう。
そのとき、同居の家族から「賃借人である夫が入院していて、連絡できない状態だった」と事情が聴けたときは、家賃支払いを猶予した方がよいです。
賃借人本人と直接話し合えた場合は、家賃を支払える状態か確認しましょう。
賃借人の口調から家賃支払いに応じそうもないと感じたときは、立ち退き要求のための準備を進めていきます。
内容証明郵便
立ち退きを要求する前段階として、賃借人に「内容証明郵便」を送付します。
内容証明郵便は、郵便の内容・差出人・宛先を郵便局が証明するサービスです。家賃支払い・立ち退きを強制するような効果はありません。
送付する書面には、次のような内容を記載しましょう。
- 家賃の支払い期日を定め、滞納分を請求する
- 期日までに支払いをしない場合は、契約を解除する旨予告する
内容証明郵便を送れば、契約解除の予告通知書を送付した証明になります。
賃貸物件の明渡請求訴訟や強制執行申立を行うときの有力な証拠として提出可能です。
任意の明け渡し
賃貸物件の明け渡しを訴える前に、賃借人に自主的な立ち退きを要求した方がよいでしょう。
賃貸人が賃借人と話し合うときは、次のような譲歩を行い、任意の明け渡しを促す方法もあります。
- 未払い家賃を免除する
- 立退料を支払う
中には、「家賃滞納をしている賃借人が悪いのに、なぜ未払い家賃を諦め、立退料までこちらが負担するんだ!」と、納得いかない賃貸人もいるでしょう。
しかし、裁判をして強制退去させるためには、裁判費用や弁護士費用等で総額100万円以上を賃貸人が負担しなければなりません。
賃借人の自主的な退去を実現した方が、費用を安く抑えられる可能性もあるのです。
民事訴訟
賃借人が任意の明け渡しに応じない場合は、賃貸物件の所在地を管轄する裁判所に訴えを提起しましょう。
訴えの提起先は、地方裁判所または簡易裁判所(賃貸物件の財産価額:140万円以下)です。
賃貸人が原告、賃借人は被告となり、裁判所でお互いの主張や証拠を提出し、審理を進めていきます。
原告の主張が認められれば、裁判所から被告に明け渡しを命じる判決が下されます。
賃借人が判決日の翌日から2週間以内に控訴せず、賃貸物件に居座り続けている場合、賃貸人は強制執行申立が可能です。
強制執行
賃借人が明け渡し判決に従わないときは、賃貸人は裁判所に強制執行の申立てを行えます。
裁判所が申立てを認めた場合、賃借人に退去を催告する書面を通知します。
指定期日までに退去しなければ、裁判所は執行官を賃借人宅に向かわせ、賃貸物件内の家具や家財を撤去します。
なお、賃借人が強制執行に激高して威嚇や妨害を行おうとした場合、執行官は警察に応援を要請する等して対応します。
家賃滞納による立ち退きをスムーズに進める4つのポイント
賃借人の立ち退きを円滑に進めたいのであれば、賃貸人は感情的になるのを抑えて、焦らず理性的に交渉や手続きを進めましょう。
法律のプロである弁護士に交渉の窓口となってもらい、穏便に問題解決を図るのもよい方法です。
冷静な交渉
賃貸人は交渉のポイントを押さえ、賃借人との話し合いを進めましょう。
- 立ち退きの理由を明確に伝える:家賃滞納が賃貸借契約違反で退去を求める旨
- 賃借人側の事情聴取:家賃滞納の理由を聴き、立ち退きの猶予を判断する
- 譲歩内容を決める:賃借人に自主的な退去を求めるため「立退料〇円までなら支払ってもよい」と事前に決めておく
賃貸人が自分の要求だけを主張するのではなく、賃借人の都合も聴いて交渉すれば、賃借人が家賃支払いや自主的退去に応じる可能性も高まります。
文書の活用
賃借人には、文書で立ち退き要求と条件提示をしましょう。
口頭で賃借人に立ち退きを要求し同意が得られたとしても、後日「そんな話は知らない」「数日前の話しなど忘れた」と、立ち退きを拒否するかもしれません。
そのため、賃貸人は立ち退き要求と条件を文書で提示し、賃借人の決断を促します。
文書の提示により、賃借人は「もう交渉の余地はないかもしれない、自分は決断を迫られている」と感じ、自主的な退去に前向きとなる可能性があります。
交渉決裂時の代替案
賃借人が自主的な退去に応じず、交渉が決裂した場合の対応も、考えておきましょう。
交渉がうまくいかない場合は、基本的に裁判で解決を図ります。しかし、訴訟になると費用総額が100万円を超えるケースもあり、賃貸人にとって重い負担となる場合もあります。
費用負担が気になる場合は次のような方法で、解決を図ることも可能です。
- 賃貸物件を売却する
- 賃借人が退去するタイミングを待つ
家賃滞納中の賃借人が住み続ける賃貸物件でも売却は可能です。ただし、売却価格を大幅に下げないと買い手がつかない可能性があります。
賃借人が引越しを準備しているようであれば、立ち退き要求は控えた方がよいでしょう。
弁護士への相談
賃貸人が賃借人との話し合いに不安を感じるときは、事前に賃貸借契約の問題に詳しい弁護士へ相談しましょう。
弁護士は家賃滞納の現状をヒアリングし、次のようなアドバイスを行います。
- 家賃の支払い、自主的な退去を促すポイント
- 家賃滞納の通知から強制執行(強制退去)までの流れ
- 現在の家賃滞納の状況で、明渡請求訴訟や強制執行申立ができるか
- 弁護士を代理人にたてるメリット
賃借人との交渉の段階で弁護士をたてれば、交渉役を任せられるので、話し合いで円滑に問題が解決できる場合もあります。
家賃滞納で立ち退きしてほしいなら今すぐ弁護士にご相談を
今回は立ち退き問題に詳しい実績豊富な弁護士が、立ち退き交渉や手続きを進めるポイント等について詳しく解説しました。
家賃滞納による立ち退き要求を進めるときは、冷静な交渉と法律に則った対応が求められます。
賃借人の家賃滞納に悩んだら、まずは弁護士と相談し、交渉のポイントや以後の対応について話し合いましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。