立退き問題を徹底解説!理由から流れ・リスクまで弁護士がポイントを解説
最終更新日: 2024年11月21日
- 建物の老朽化で所有する賃貸物件を取り壊したい。賃借人をどのように立ち退かせたらよいのか?
- 契約違反の賃借人を立ち退かせたいが、いかなる場合も立退き料は必要なのだろうか?
- スムーズに賃借人を立ち退かせたいとき、弁護士に相談した方がよいのだろうか?
いろいろな理由で、所有する賃貸物件から賃借人を立ち退かせたいケースもあることでしょう。
ただし、賃借人を立ち退かせるには、様々な条件を満たす必要があります。
そこで今回は、賃貸物件のトラブル解決に尽力してきた専門弁護士が、立退きが必要となるケース、立退きの手順等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 賃借人が契約違反したという理由がない限り、立ち退かせるには立退き料が必要
- 賃借人がなかなか立ち退かない場合は、最終的には強制退去で解決を図る
- 不動産問題に詳しい弁護士のアドバイスやサポートを受け、立退きに関する手続きを進めよう
立退きとは何か?わかりやすく解説
立退きとは、賃貸人が建物の建て替えや取り壊し等を理由に、賃借人へ賃貸借契約期間の更新拒絶、または解約を申し入れて、賃貸物件からの退去を求める方法です。
基本的には賃貸人と賃借人が話し合いを行い、納得のうえで立退きの手続きを進めていきます。
賃貸借契約書の中には、賃貸人の都合で退去を要求する場合の他、家賃滞納・無断転貸等の契約違反による退去の要求でも、立退きの用語を用いている場合があります。
賃貸人の都合で、賃借人に対し契約期間の更新拒絶や解約を要求するならば、「正当な事由」が必要です(借地借家法第28条)。
立退きが必要となる5つの理由
立退きが必要となる理由は、賃貸借契約期間が迫っている他、賃貸物件の老朽化で放置すれば耐久性に重大な問題が生じる等の深刻なケースもあります。
また、賃借人の賃貸借契約の違反も、立退き対象として契約書に明記されている場合があります。
契約期間の満了
賃貸借契約期間が満了するとき、賃貸人は立退きを要求できる場合があります。
賃貸借契約をしたとき、「普通借家契約」「定期借家契約」のどちらで契約していたかを確認しましょう。
- 普通借家契約:一般的な賃貸住宅の契約で更新が前提となっている。更新拒絶のときは正当事由が必要。
- 定期借家契約:期間が満了すれば正当事由なしに解除できる契約。
定期借家契約を締結し、賃借人に賃貸物件を貸していた場合、賃貸人は無条件で契約を終了させ、退去を要求できます。
建物の老朽化
建物の老朽化で耐久性が落ちてしまい、倒壊の危険や地震が起きた場合の耐震性等に問題があるならば、賃借人へ立退きを求める正当事由が認められる可能性が高いです。
ただし、次のようなケースならば正当事由として認められないでしょう。
- 耐久性や耐震性、耐火性に問題がないのに、建物が古くなったという理由だけで立退きを求めた
- 建物の外部から補強が可能なのに、建物の老朽化による立退きを求めた 等
自然災害による建物の損壊や焼失は、賃貸借契約の終了事由に当たります。
入居者の契約違反
賃借人の賃貸借契約違反が発覚した場合、立退きを要求できる正当事由が認められる可能性があります。
賃借人が約束を破ったわけですから、賃貸人は立退き料無しに退去を要求できる他、損害賠償を請求できる場合もあります。
裁判になった場合、賃借人の契約違反として退去の要求が認められやすいケースは次の通りです。
- 家賃を3か月以上滞納している
- 無断で賃貸物件を増築、改築した
- 賃貸人の許可なしに第三者へ転貸している
- 騒音や異臭等、賃貸人や隣室の賃借人に重大な迷惑行為をしている
- 賃貸物件を売春宿や覚せい剤の密売に使う等、犯罪に利用している
- 賃貸物件でペットの飼育を禁止しているのに、無視してペットと同居している 等
ただし、賃借人の契約違反が、賃貸人との信頼関係を破壊したとまではいえないとき、裁判で賃借人に退去を命じる判決は得られない可能性が高いです。
賃貸人が住居として利用
賃貸人やその家族が賃借物件を住居として利用するときも、正当事由として認められる可能性があります。
当然ながら「自分が賃借物件に住みたくなった。」という理由だけでは、賃借人に立退きは求められません。
正当事由として認められやすい、賃貸人およびその家族の事情は次の通りです。
- がん等の治療のため通院中の病院が賃借物件の近くにある
- 賃借物件が介護を必要とする両親の家に近い
- 経済的余裕がなくなり、やむなく賃貸住宅を住居として利用したい 等
ただし、裁判では賃貸人の事情や、賃借人の事情を総合的に考慮し、ケースバイケースで立退きが認められるかどうかを判断します。
立退き料の支払い
立退き料を支払う場合、賃借人の損害を十分に補償する金額が用意されているのであれば、正当事由が認められやすくなります。
賃貸人にやむを得ない理由がある他、深刻な事態と言えないものの賃貸人の都合により退去を要請するケースでは、立退き料を支払い解決するのが一般的です。
次のようなケースでは立退き料が必須で、かつ、賃借人に新たな賃貸物件の紹介や斡旋が望ましいといえます。
- 新たに若者向けの賃貸物件として建て替えをしたい
- 建物を取り壊し、更地にして売却したい
- 賃貸物件を子どもや親に使用させたい
- 賃貸経営が赤字となり廃業したい 等
賃借人が生活の拠点を失う事態となる以上、賃貸人には手厚い補償が求められます。
立退き交渉の流れ
賃借人に立退きを要求する場合、立退きの理由によっては異なるステップを踏んだ後、手続きを進めていく必要があります。
立退きの理由をよく考慮し、冷静に賃借人との交渉を行わなければいけません。
書面による通知
書面で、賃借人の立退きを望んでいると伝えます。メールやSNS、電話等で事前に、立退きに関する手紙を送付すると伝えておいてもよいでしょう。
基本的には次のような内容を記載します。
- 賃貸人の氏名・住所・電話番号・メールアドレス等
- 立退きを要求する正当事由
- 話し合いを持つ日
- 希望する立退き日
- 立退きの条件:立退き料の話し合いや、新たな賃貸物件の紹介や斡旋等
賃借人の契約違反で退去を要求するケース以外は、「退去を拒否したら裁判所に訴訟提起する」「強制退去を進める」という文言は避け、任意の話し合いで解決したい旨を強調します。
口頭での説明
賃借人が話し合いに応じたら、改めて立退きを行う理由について説明し、理解を求めます。
ただし、退去すれば賃借人は生活の拠点を失う事態となります。すぐに立退きへ同意するとは限りません。
賃借人の意見・希望も聴きながら何度か話し合いの機会をつくり、立退きの条件を調整していく必要があります。
なお、賃借人の契約違反があり、今のところ賃貸人との信頼関係を破壊する事態になっていない場合は、「今後、問題行動が発覚したら退去してもらう。」と、口頭で注意しておいた方がよいでしょう。
連帯保証人への連絡
賃借人に連絡がつかない場合は、連帯保証人に立退き交渉を進めていると伝えます。
連帯保証人なら賃借人に連絡を取れる場合があり、賃貸人と話し合うよう説得をお願いできます。連帯保証人は、賃借人の親や兄弟姉妹を連帯保証人としているケースが多いです。
賃借人の家賃滞納が原因で退去を望んでいるなら、連帯保証人に家賃の支払いを求めれば、請求に応じる可能性があります。
立退き料の交渉
立退き料について、賃借人と交渉を行います。
立退き料自体は、法律で「賃借人に〇万円以上の金額を支払わなければいけない。」と定められていません。
賃貸人が立退き料を提示し、賃借人が同意すれば交渉成立です。
ただし、賃貸人が一方的に立退料の金額を決定できません。賃借人が金額に納得しない場合、更なる調整を行います。
また、立退き料の交渉の他、生活の拠点を失う賃借人に、新たな賃貸物件の紹介・斡旋等を行う配慮も望ましいといえます。
退去手続き
賃貸人と賃借人による立退き交渉がまとまったら、交渉内容を書面に残しましょう。書面は2通作成し、双方が1通ずつ大切に保管します。
主に次の内容を記載します。
- 双方が賃貸契約解除に合意した旨
- 立退き料の金額および支払い日、支払い方法
- その他に取り決めた立退き条件:新たな賃貸物件の紹介や斡旋等
- 賃貸物件の明け渡し日
- 残存物の取り扱い
- 賃貸人が返還する敷金の金額
なお、賃借人の立退き後、賃貸物件を取り壊す場合は、原状回復義務は発生しない場合が多いでしょう。
賃貸人と賃借人がそれぞれ交渉で取り決めた内容に従い、手続きを進めていきます。
立退き交渉が決裂・拒否した場合の流れ
賃貸人と賃借人が話し合っても、交渉がまとまらなかった場合、裁判所に訴えを提起して賃貸物件の明け渡し請求、強制執行の申立てを検討しましょう。
ただし、正当事由がない場合や諸事情によっては、賃貸人の請求が認められない場合もあります。
明け渡し請求訴訟
交渉がうまくいかなかった場合、賃貸人は賃貸物件の所在地を管轄する裁判所へ、「明け渡し請求訴訟」を提起できます。
管轄する裁判所とは、地方裁判所または簡易裁判所(財産上の価額140万円以下ならば訴えが可能)です。
ただし、訴訟を提起したとしても賃貸人の主張が必ず通るわけではありません。
たとえば、賃借人の契約違反が原因で立退きを求めるとき、賃貸人との信頼関係が破壊されている他、契約違反の内容によっては次の状況の有無も判断されます。
- 家賃滞納:3か月以上の長期にわたり滞納が継続しているかどうか
- 無断で賃貸物件の増築・改築:原状回復が可能かどうか
家賃滞納が3か月未満であったり、原状回復が可能な軽微な改築等の場合、賃貸人の主張を退ける判決が言い渡される可能性もあります。
強制執行
明け渡し請求訴訟により、賃借人に賃貸物件の明け渡しを求める判決が出ても、なお居座る状態であれば、賃貸人は裁判所に強制執行の申立てが可能です。
裁判所が申立てを認めた場合、賃借人に催告書を送付し、記載された期日までに退去するよう要求します。
賃借人が期日までに退去しなかった場合、執行官による強制執行が開始され、専門業者により賃貸物件内の家財道具が撤去されます(強制退去)。
立退きにおけるリスク
賃貸物件は賃貸人の所有であるものの、賃借人に対して一方的な立退きの強制は認められません。
立退きを強行すれば、逆に賃貸人が損害賠償請求を受けたり、刑事告訴されてしまったりするおそれがあります。
違法行為となる場合も
賃貸人が賃借人を立ち退かせたいからといって、賃借人に無理な要求や、恐怖を感じさせるような対応があったならば、ペナルティを受けてしまうこともあります。
- 賃借人宅へ1日に何度も電話やメール、直接訪問して立退くよう要求する
- 賃貸物件のドアに「立退け!」と貼り紙をする
- 賃貸人が賃貸物件内へ強引に侵入し、家財を撤去する 等
強引な対応により賃借人の財産を破損させたり、賃借人が精神的苦痛を受けたりした場合は、賃貸人が損害賠償請求を受ける可能性もあります。
また、賃借人に対し「さっさと出ていけ!さもないと賃貸物件ごと押し潰す。」という暴言を吐けば脅迫罪、無断で家屋へ侵入した場合は住居侵入罪に問われるおそれがあります。
時効にかかる場合も
立退きには明確な時効は存在せず、法律には「立退き要求から〇年で請求権を失う」という規定もありません。
ただし、立退きのときに未払いの家賃回収を図りたいならば、5年で時効が完成するおそれもある点に注意しましょう。
家賃回収は退去後に行われるケースも多いですが、賃貸人が未払い家賃の存在に気付いた時点で、すでに5年が経過している可能性もあります。
賃借人の未払い家賃の回収で揉めそうなときは、回収をしない代わり敷金の返還に応じない、または立退き料の軽減を提案する等、柔軟な話し合いで解決を図りましょう。
立退きをスムーズに進めるためのポイント
賃借人と立退き交渉で揉めてしまい、裁判による解決を図る場合、賃貸人は裁判費用や弁護士費用を含め、100万円以上の負担が必要となる可能性もあります。
立退き交渉で合意に達した方が、あまり時間をかけずに費用も軽減できることでしょう。
和解交渉による解決
賃借人に賃貸人の主張ばかりを伝えるのではなく、賃借人の希望も踏まえて交渉していきましょう。
次のような柔軟な対応で解決を図っていきます。
- 賃借人の希望する立退き料が、賃貸人の提示した金額より多い場合、金額を調整する
- 賃借人に未払い賃料があれば、賃料を回収する代わりに敷金での相殺や、立退き料の軽減で対応する
- 現在の賃借物件の近傍にあり、間取りの広さや家賃も同等の賃貸物件の紹介、斡旋を行う 等
賃借人にある程度金銭面で譲歩したり、賃借人のニーズに合わせた賃貸物件を紹介したりすれば、自主的な退去に応じる可能性が高まります。
弁護士への相談
立退き交渉を進める前に、不動産トラブルに詳しい弁護士へ相談してみましょう。
弁護士は立退きに関する賃貸人の不安や疑問をヒアリングし、次のようなアドバイスを行います。
- 賃借人の自主的な退去を促すコツ
- 立退き料の相場に関する説明
- 交渉決裂のとの対応の説明:裁判、強制執行の手順
- 弁護士に交渉を任せる有効性
立退き交渉を弁護士に任せれば、賃貸人・賃借人が直接交渉するよりも、理性的な話し合いが可能です。
また、交渉がうまくいかなくとも、弁護士はスムーズに訴えの提起や強制執行の申立てを実行できます。
立退きを求められたらすべきこと
あなたが立退きを求められた賃借人側なら、賃貸人から言われるがまま退去に応じるのではなく、弁護士と相談してから要求を受け入れるかどうか判断しましょう。
立退きの条件が適切かどうか、弁護士とよく話し合った方が無難です。
弁護士への相談
賃貸人から立退きに関する書面を受け取ったら、慌てず不動産トラブルに詳しい弁護士へ相談してみましょう。
弁護士は賃借人の不安や悩みをヒアリングし、次のようなアドバイスを行います。
- 賃貸人の立退き理由が正当事由に当たるか
- 立退き料をはじめ、賃借人に有利な立退き条件で話し合うコツ
- 明け渡し請求訴訟に進んだ場合の対応措置
- 弁護士に交渉を任せる有効性
弁護士にサポートを依頼すれば、賃貸人の立退き条件の内容を分析したうえで、あなたの立場にたった主張を行い、更なる相手の譲歩を引き出します。
立退き料の請求
賃貸人に立退き料を請求しましょう。賃貸人から提示するケースが多いのものの、立退き料に不満があれば、遠慮なく希望の金額を主張して構いません。
立退き料の目安は一般的に家賃の6か月分と言われています。それに満たない金額ならば、安易に立退き交渉へ合意しない方がよいでしょう。
家賃の6か月分でも、引越し費用を賄う金額として不足する場合、立退き料の上乗せも主張可能です。
弁護士に交渉を任せれば、理性的に賃貸人との話し合いが進められます。
立退きに関するお悩みは春田法律事務所にご相談ください
今回は賃貸物件の立退き問題に携わってきた専門弁護士が、立退きを支障なく進めるためのポイント等について詳しく解説しました。
立退き交渉が不成立となれば、最終的に裁判で解決する必要があり、非常に手間と費用がかかります。賃借人が納得して、自主的な退去に応じるような取り決めが求められます。
春田法律事務所では初回相談を無料で提供しています。立退きに関する悩みがあれば、まず気軽に弁護士と相談し、有益なアドバイスを受けてみましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。