大家都合で退去の立ち退き料はいくら?専門弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月03日

大家都合で退去する場合の立ち退き料は?借り手側が押さえるべき交渉のポイント・流れ・相場を解説

  • 自分に非が無いにもかかわらず、大家から退去を求められ困っている
  • せめて立ち退き料を払ってもらいたいが、いくらくらいになるのか不安
  • 退去で揉めてしまうと裁判で解決することになるのだろうか

大家都合で退去するのであれば、しっかりと補償をしてもらいたいものです。よく立ち退き料について「家賃の6か月分から12か月分」などとざっくりとした相場を言われることがありますが、しっかりとした根拠のない話ですので参考程度に聞いておくべきでしょう。

今回は、立ち退きに関する紛争に数多く携わってきた弁護士が、立ち退き料の内訳や交渉の流れ、交渉をするときの注意点や相場について詳しく解説します。

本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。

  • 大家との話し合いに納得できれば、合意した立ち退き料で賃貸借契約を解除できる
  • 賃借人側の債務不履行や、大家側の経済力の有無によっては希望の立ち退き料が得られない可能性もある
  • 立ち退き料は居住用賃貸物件か店舗か等でも金額が変わってくる

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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大家都合で退去する場合の立ち退き料とは?内訳は?

まだ賃貸期間中なのに大家都合で退去を求められり、今度の更新はしないと通知されることがあります。しかし、借地借家法という法律によって借主の立場は保護されてますので、大家が自由に借主を退去させることはできません。

そのように保護されている借主に退去してもらう条件として支払われるのが立ち退き料です。ここでは立ち退き料の内訳について説明します。

引越し費用

賃貸物件から立ち退くときは、まず引越し事業者へ依頼し、物件内に置いていた家具・残置物等を別の場所に移転させなければいけません。その費用は、実際に引越しを行ってみないと正確な金額が把握できないはずです。

そのため、この引越し費用は退去に伴い必ず発生しますので立ち退き料の中に含めて請求することができます。

仲介手数料・礼金

現在の賃貸物件から立ち退き、新たな賃貸物件を契約する場合、不動産仲介会社に支払う仲介手数料、新たな大家に支払う礼金が必要です。

仲介手数料と礼金についても退去に伴い必要となる費用で、ほとんどのケースで立ち退き料に含めて請求されています。

一方、敷金に関しては賃貸借契約から生じた賃借人側の債務を担保する金銭なので、解約のときに原則として全額返還されるはずです。そのため、敷金は立ち退き料にカウントしません。

賃料差額

近年家賃相場は上昇傾向にあるため、特に10年以上も入居している場合には近隣の家賃相場よりも安い賃料のままになっている可能性が高いです。そうすると、退去をして引越しをすることになると今よりも高い家賃を支払うことになってしまいます。この家賃の差額についても立ち退き料に含めて補償してもらうケースも多くあります。

この賃料差額については、現行賃料と新賃料の差額の1年分から3年分ほどの金額を立ち退き料に含めて補償することが多いです。

慰謝料・迷惑料

大家側の都合で賃借人が立ち退く事態となっているため、賃借人には金銭的負担だけでなく精神的負担も与えることになります。

そのため、上記のような実際に発生する出費の補償に加えて、慰謝料ないし迷惑料の名目で数十万円から100万円ほどの金額を立ち退き料に上乗せしてもらうこともあります。

店舗やオフィスの場合の休業補償

店舗やオフィスとして使用している物件の退去を求められた場合、移転のために一定期間の休業を余儀なくされます。これによって生じる休業補償も立ち退き料に含められます。

この休業補償の算定方法は色々な考え方がありますが、営業しなければ発生しない経費もあれば休業中も発生する経費もありますので、売上だけをベースに考えることはなく、経費や営業利益なども見ながら算定、交渉していくのが通常です。経営状態にもよりますが、数百万円から数千万円の休業補償になるケースもあります。

参考:借地借家法|e-GOV法令検索|法務省

大家都合の退去で立ち退き料交渉の相場

立ち退き料に関する明確な算定方法はないものの、裁判所の判例を参考にすると、立ち退き料交渉の相場がわかるはずです。

居住用賃貸物件の場合

裁判実務においては、新規契約に必要となる費用、引っ越し費用、家賃差額の1年分から3年分ほどを立ち退き料の補償額として認める運用が多く取られています。

ただ、実際の裁判例をみると、賃料5万円〜10万円程度の老朽化した賃貸住宅の場合であっても、200万円程度の立ち退き料を認めた判決がありますので、事案によって金額は大きく変わるようです。

例えば、金額の根拠に関しては、「引越し料相当額+賃料の2年分程度」の金額を立ち退き料とするのが妥当とした判決もあります(平成28年7月14日東京地方裁判所判決)。

店舗やオフィスの場合

店舗の場合、立ち退き料は高額化する傾向があります。

たとえば、賃料10万円前後の小規模店舗(飲食店・理髪店等)でも、1,000万円〜1,500万円程度の立ち退き料を妥当とする判決が見られます。

また、事務所・オフィスの場合は賃料共益費合計20万円〜50万円の場合、500万円〜1,400万円程度の立ち退き料を認める判決が多いです。

概ね「賃料共益費合計の約2年分」にあたる金額を立ち退き料とするのが妥当とした判決もあります(平成24年8月28日東京地方裁判所判決)。

大家都合で退去して立ち退き料を受け取るまでの流れ

大家側の都合で立ち退きを要求されたとしても、まずは冷静に話し合う姿勢が大切です。賃貸借契約の期間満了の6か月前まで大家から更新拒絶の通知がなされるので、通知到達後は速やかに交渉を行う必要があります。

こちらでは立ち退き交渉のプロセスと、裁判となった場合の対応を解説します。

交渉開始

まず、大家側の更新拒絶・解約申入れには、借地借家法上、正当事由が必要です。

正当事由に該当するのは、例えば、次のような事情です。

  • 建物の老朽化が進み、建物の取り壊しが必要
  • 大家が建物敷地の高度利用 ・有効活用をしたい
  • 大家やその親族が使用したい

あくまでこのような事情があって、それだけでは法律上の正当事由を満たさない場合に正当事由を補完するための材料として提供されるのが立ち退き料です。ですから、何ら正当事由を基礎づける事情がなくても立ち退き料さえ支払えば大家都合で退去させられるということではありません。

賃借人としては専門弁護士の助言も得つつ、大家側にどの程度の正当事由があるのかを検討することから始め、その上で引越しによって発生する経済的な負担を見積り、最低限どれくらいの金額の立ち退き料が必要となるのか算出します。

そして、その金額以上の立ち退き料を支払ってもらうための交渉を大家側と行っていくこととなります。もちろん大家側にも予算がありますから、借主が必要な立ち退き料がその予算を超える場合には交渉決裂となります。

交渉決裂の場合は裁判へ

交渉してもお互いの溝が埋まらなかった場合、大家側が裁判所へ訴えて裁判が開始されます。裁判で審理される内容は次の通りです。

  • 更新拒絶の正当事由の有無
  • 立ち退き料はどの程度の金額が必要か

ある程度の正当事由を基礎づける事情があり、立ち退き料次第では正当事由が認められるようなケースでは、判決に進む前に裁判所が和解を勧めるのが通常です。

そこで調整がついて和解が成立すればそれで裁判は終結しますし、調整がつかなければ判決へと進みます。大家の請求を認める判決の場合は、幾らの立ち退き料の支払いを条件として物件を明け渡せという内容の判決となります。

判決後

判決により大家側の訴えが認められた場合、命じられた立ち退き料を賃借人に支払えば立ち退きを強制執行することができます。

とはいえ、ほとんどの場合には賃借人は判決に従って立ち退きますから、物件に居座って強制執行まで必要になるケースは稀です。

大家都合の退去における立ち退き料交渉をするときの注意点

賃借人が立ち退き料を要求するとき、希望する金額を満額で受け取れるわけではありません。ケースによっては立ち退き料が支払われない場合、支払われても低額となる場合もあります。

債務不履行

賃借人が賃料を滞納していたり、契約書で明記している使用目的に違反したり(例:カフェを営むための賃貸借契約のはずが性風俗店だった等)した場合、大家から債務不履行を理由として、賃貸借契約を解除される可能性があります。

この場合には賃借人が大家との信頼関係を破壊した行為とみなされ、大家は立ち退き料を支払わずに賃貸借契約の解除、強制退去を実現できます。

ただし、賃料の滞納が軽微(例:1か月程度の滞納等)であるなら、直ちに契約を解除されることはないでしょう。賃料の場合は、概ね3か月分滞納したケースが債務不履行による解除へ該当しやすいと言われています。

大家の経済状況

全ての大家が十分な経済力を有しているわけではありません。

たとえば、大家が経済的に困窮して、その物件に住まざるを得なくなったなどの理由で立ち退きを要求される場合も想定されます。

このようなケースでは、賃借人側が希望の立ち退き料を得られず交渉は難航し、結局は低額な立ち退き料で妥協しなければいけない事態も想定されます。

賃貸物件の将来性

賃貸物件の将来性によっても、立ち退き料に影響が出る場合はあります。

たとえば大家が地方でかつ郊外の古い賃貸物件を有効利用したい場合、人気の立地というわけではないので、有効利用できない不利益が少なく、交渉はなかなか進まない場合もあるでしょう。

しかし、古い賃貸物件であっても都市部でかつ人気の立地に位置しているならば、当該物件を有効利用できない不利益が大きいため、立ち退き料を多めにしてでも、なるべく早く賃借人に退去してもらいたいはずです。

将来性の高い物件が立ち退き対象となっている場合、賃借人側は立ち退き料交渉を有利に進められる可能性があります。

まとめ

今回は多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、立ち退き交渉の流れや、立ち退き料の目安について詳しく解説しました。

立ち退きを要求されると、自分の生活や業務に重大な影響が出ることになります。そのため、賃借人側も感情的にならないよう冷静な交渉が求められます。

立ち退き要求があった場合、弁護士に相談し迅速な問題解決を目指しましょう。

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