大家都合で退去する場合の立ち退き料は?借り手側が押さえるべき交渉のポイント・流れ・相場を解説
最終更新日: 2023年04月04日
- 自分に非が無いにもかかわらず、大家から退去を求められ困っている
- せめて立ち退き料を払ってもらいたいが、いくらくらいになるのか不安
- 退去で揉めてしまうと裁判で解決することになるのだろうか
大家(賃貸人)側の都合で、借りていた住居や店舗から退去を求められたという賃借人がいるかもしれません。
退去を認めれば生活の本拠や仕事場を失う事態となってしまいます。せめて他に引っ越すための費用や新たな借家を探すために、相応の立ち退き料を受け取りたいものです。
そこで今回は、立ち退きに関する紛争に数多く携わってきた弁護士が、立ち退き料の内訳や交渉の流れ、交渉をするときの注意点や相場について詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 大家との話し合いに納得できれば、合意した立ち退き料で賃貸借契約を解除できる
- 賃借人側の債務不履行や、大家側の経済力の有無によっては希望の立ち退き料が得られない可能性もある
- 立ち退き料は居住用賃貸物件か店舗か等でも金額が変わってくる
大家都合で退去する場合の立ち退き料とは?内訳を紹介
大家側の都合で賃貸住宅や店舗から立ち退きを要求されると、賃借人にはいろいろな不測の事態が起きる可能性もあります。
そのため、賃借人は立ち退き料についてしっかりと交渉する必要があるでしょう。こちらでは立ち退き料を決めるとき、考慮すべき様々な費用について解説します。
引越し費用
賃貸物件から立ち退くときは、まず引越し事業者へ依頼し、物件内に置いていた家具・残置物等を別の場所に移転させなければいけません。その費用は、実際に引越しを行ってみないと正確な金額が把握できないはずです。
そのため、賃借人である自分が引越しする場合、必要になると予測される費用を大家に請求する必要があります。
仲介手数料・礼金
現在の賃貸物件から立ち退き、新たな賃貸物件を契約する場合、不動産仲介会社に支払う仲介手数料、新たな大家に支払う礼金等が必要です。
いずれも立ち退きをしなければ負担する必要のない費用なので、立ち退き料に仲介手数料・礼金分の金額を加算します。
一方、敷金に関しては賃貸借契約から生じた賃借人側の債務を担保する金銭なので、解約のときに原則として全額返還されるはずです。そのため、敷金は立ち退き料にカウントしません。
賃料差額
新たな賃貸物件に移る場合、立ち退きをする物件よりも賃料が高額化する可能性もあります。そのため、賃借人側の生活保障を考慮し、賃料の差額も立ち退き料に加えるのが一般的です。
賃料差額については、現行賃料と新賃料の差額の1~2年分を計算して補償することが多いと思われます。
ただし、たとえば立ち退きをする物件が1K・月額賃料3万円であるにもかかわらず、新たな賃貸物件が2LDK・月額賃料10万円の場合、大家側は新たな物件が今の物件と違いすぎるということを指摘するでしょう。
そのため、立ち退きをする物件と築年数、間取り、広さ、立地条件が同程度の新たな賃貸物件でないと、立ち退き料の請求に含めることが難しいと考えられます。
慰謝料・迷惑料
大家側の都合で賃借人が立ち退く事態となっているため、賃借人の金銭的負担のみならず精神的な負担も考慮し、一定の上乗せ金額が認められる傾向にあります。この金額は慰謝料または迷惑料とも呼ばれます。
ただし、大家側が立ち退きをかなり強引に進めるような事実がある場合、不法行為に該当する可能性があるでしょう。
このような紛争が裁判にまで発展した場合も、立ち退き料とは別に慰謝料が認定されることもあります。
店舗やオフィスの場合の営業補償
立ち退きを要求されたのが店舗やオフィスならば、自分の事業の拠点を失い、休業を余儀なくされ、収入が途絶える事態となります。
立ち退きを要求されなければ得られたであろう営業利益等も、立ち退き料に加算することができます。
移転費用
立ち退きにより店舗やオフィスを移転する場合、店舗等でこれまで使用していた重い機材・什器の搬入も必要となるでしょう。専門の運搬事業者のサポートが想定されるので、居住用の物件と比較して、引越し費用が高額化するおそれもあります。
また、移転によって破棄せざるを得なくなった賃借人側の資産や機器等もあれば、その補償分を立ち退き料に加算します。
営業利益
立ち退きをする場合、新たな店舗・オフィスで仕事を再開するまでのいろいろな営業に関する補償も、請求の対象です。
主に次のような補償があげられます。
- 収入
- 固定経費:従業員の給与や賞与、福利厚生費、水道光熱費等
- 得意先の損失
- 改装工事費用
従業員がいる場合、休業手当相当額の補償も立ち退き料の対象となります。
また、新たなオフィス・店舗に移転しても、そのままの内装で使用できるとは限りません。内装工事も必要となる場合は、この費用も忘れずに大家側へ提示します。
大家都合で退去して立ち退き料を受け取るまでの流れ
大家側の都合で立ち退きを要求されたとしても、まずは冷静に話し合う姿勢が大切です。
賃貸借契約の期間満了の6か月前まで大家から更新拒絶の通知がなされるので、通知到達後は速やかに交渉を行う必要があります。
こちらでは立ち退き交渉のプロセスと、裁判となった場合の対応を解説します。
交渉開始
まず大家側の更新拒絶・解約申入れには、立ち退きに必要な「正当事由」が必要です。
正当な事由に該当するのは、主に次のようなケースです。
- 建物の老朽化が進み、建物の取り壊しが必要
- 大家が建物敷地の高度利用 ・有効活用をしたい
立ち退き料とは、あくまでも正当事由を補完するための手段であり、単にお金を払いさえすれば、更新拒絶・解約申入れをしてよいわけではないのです。
ただし、大家側が立ち退きをいきなり要求してきても、賃借人が納得できる内容ならば、解約申入れに合意して構いません。
一方、当然ながら賃借人も自分で算定した立ち退き料を大家へ提案できます。相手側の要求ばかりではなく、賃借人が納得できる条件を提示し、お互いが歩み寄れる努力を行いましょう。
ただし、立ち退き料に関する明確な算定方法はなく、当事者の合意によってその金額が決定されます。
交渉決裂の場合は裁判へ
当事者が交渉してもお互いの溝が埋まらなかった場合、基本的に大家側が裁判所へ訴えて裁判が開始されます(賃貸物件明渡請求訴訟)。
なお、交渉を継続したいならば、裁判所で「民事調停」という形で和解を目指しても構いません。
賃貸物件明渡請求訴訟のとき、裁判所で審理される内容は次の通りです。
- 更新拒絶の正当事由の有無
- 立ち退き料はどの程度の金額が必要か
ただし、通常、裁判所側から判決前に和解を勧められるケースがほとんどです。そこで当事者双方が妥協し、納得すれば和解成立となります。
立ち退き料を含めた判決
判決により大家側の訴えが認められた場合、命じられた立ち退き料を賃借人に支払えば立ち退きを強制執行することができます。
ただし、賃借人が判決に従い立ち退くケースがほとんどなので、強制執行まで行われるケースはまれです。
一方、賃借人側の主張が認められた場合、明渡請求が棄却され、大家の更新拒絶は認められません。
大家都合の退去における立ち退き料交渉をするときの注意点
賃借人が立ち退き料を要求するとき、希望する金額を満額で受け取れるわけではありません。ケースによっては立ち退き料が支払われない場合、支払われても低額となる場合もあります。
債務不履行
賃借人が賃料を滞納していたり、契約書で明記している使用目的に違反したり(例:カフェを営むための賃貸借契約のはずが性風俗店だった等)した場合、大家から債務不履行を理由として、賃貸借契約を解除される可能性があります。
この場合には賃借人が大家との信頼関係を破壊した行為とみなされ、大家は立ち退き料を支払わずに賃貸借契約の解除、強制退去を実現できます。
ただし、賃料の滞納が軽微(例:1か月程度の滞納等)であるなら、直ちに契約を解除されることはないでしょう。賃料の場合は、概ね3か月分滞納したケースが債務不履行による解除へ該当しやすいと言われています。
大家の経済状況
全ての大家が十分な経済力を有しているわけではありません。
たとえば、大家が経済的に困窮して、その物件に住まざるを得なくなったなどの理由で立ち退きを要求される場合も想定されます。
このようなケースでは、賃借人側が希望の立ち退き料を得られず交渉は難航し、結局は低額な立ち退き料で妥協しなければいけない事態も想定されます。
賃貸物件の将来性
賃貸物件の将来性によっても、立ち退き料に影響が出る場合はあります。
たとえば大家が地方でかつ郊外の古い賃貸物件を有効利用したい場合、人気の立地というわけではないので、有効利用できない不利益が少なく、交渉はなかなか進まない場合もあるでしょう。
しかし、古い賃貸物件であっても都市部でかつ人気の立地に位置しているならば、当該物件を有効利用できない不利益が大きいため、立ち退き料を多めにしてでも、なるべく早く賃借人に退去してもらいたいはずです。
将来性の高い物件が立ち退き対象となっている場合、賃借人側は立ち退き料交渉を有利に進められる可能性があります。
大家都合の退去で立ち退き料交渉の相場
立ち退き料に関する明確な算定方法はないものの、裁判所の判例を参考にすると、立ち退き料交渉の相場がわかるはずです。
居住用賃貸物件の場合
裁判実務においては、新規契約に必要となる費用、引っ越し費用、家賃差額の1~2年分を立ち退き料の補償額として認める運用が多く取られています。
ただ、実際の裁判例をみると、賃料5万円〜10万円程度の老朽化した賃貸住宅の場合であっても、200万円程度の立ち退き料を認めた判決がありますので、事案ごとに認定する正当事由によって金額は大きく変わるようです。
金額の根拠に関しては、「引越し料相当額+賃料の2年分程度」の金額を立ち退き料とするのが妥当とした判決もあります(平成28年7月14日東京地方裁判所判決)。
店舗やオフィスの場合
店舗の場合、立ち退き料は高額化する傾向があります。
たとえば、賃料10万円前後の小規模店舗(飲食店・理髪店等)でも、1,000万円〜1,500万円程度の立ち退き料を妥当とする判決が見られます。
また、事務所・オフィスの場合は賃料共益費合計20万円〜50万円の場合、500万円〜1,400万円程度の立ち退き料を認める判決が多いです。
概ね「賃料共益費合計の約2年分」にあたる金額を立ち退き料とするのが妥当とした判決もあります(平成24年8月28日東京地方裁判所判決)。
まとめ
今回は多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、立ち退き交渉の流れや、立ち退き料の目安について詳しく解説しました。
立ち退きを要求されると、自分の生活や業務に重大な影響が出ることになります。そのため、賃借人側も感情的にならないよう冷静な交渉が求められます。
立ち退き要求があった場合、弁護士に相談し迅速な問題解決を目指しましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご不明な点があるときやもっと詳しく知りたいときは、下にある「LINEで無料相談」のボタンを押していただき、メッセージをお送りください。弁護士が無料でご相談をお受けします。