労災の時効は何年?請求期限と時効を止める方法を弁護士が解説

2026年06月30日

労災の時効は何年?請求期限と時効を止める方法を弁護士が解説

「労災の請求には期限があると聞いたが、もう間に合わないのではないか」——。療養や手続きに追われているうちに時間が過ぎてしまい、不安を感じている方は少なくありません。

結論からお伝えすると、労災に関わる「時効」には、性質の異なる2つの期限があります。

一つは労災保険の給付を請求する期限、もう一つは会社へ損害賠償を請求する期限です。この2つは年数も起算点(数え始める時点)も異なり、混同すると「まだ間に合うのに諦めてしまう」「期限が近いのに気づかない」といったことが起こりがちです。

時効の話が難しく感じられるのは、「いつから数えて何年なのか」が請求の種類ごとに違ううえに、起算点が事故の日とは限らないからです。だからこそ、誤解したまま「もう無理だ」と諦めてしまう方が後を絶ちません。

この記事では、それぞれの時効が何年で、いつから数えるのか、そして時効の完成を防ぐためにできることを、順を追って解説します。

期限が迫っている、あるいは過ぎてしまったかもしれない方も、まずは落ち着いて全体像を確認してください。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士 春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内法律事務所勤務
当事務所開設
資格
宅地建物取引士
情報処理安全確保支援士
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労災の「時効」には2つの種類がある

最初に押さえておきたいのは、労災に関する時効が大きく2系統に分かれることです。

 ① 労災保険給付の時効② 損害賠償請求権の時効
請求の相手国(労働基準監督署)会社(使用者)
内容療養・休業・障害・遺族などの給付慰謝料・逸失利益など労災保険で不足する損害
根拠労働者災害補償保険法民法(不法行為・債務不履行)

①は、治療費や休業中の補償などを国から受け取るための手続きの期限です。②は、会社に落ち度(安全配慮義務違反など)があった場合に、労災保険ではカバーされない慰謝料などを会社に請求するための期限です。

この2つを区別することが大切なのは、年数も起算点も違ううえに、一方が時効でももう一方は請求できることがあるからです。

たとえば、労災保険の休業給付の一部が時効にかかってしまっていても、会社への損害賠償(人身損害は5年)はまだ請求できる、というケースもあります。逆に、「会社とのやり取りに気を取られているうちに、労災保険給付の請求期限が過ぎていた」ということも起こり得ます。

どちらの話をしているのかを最初に切り分けることが、受け取れる補償を取りこぼさないための出発点になります。

① 労災保険給付の時効は、給付の種類で異なる

労災保険の給付を請求する権利は、一定期間行使しないと時効によって消滅します。時効の期間は給付の種類によって異なり、おおむね次のとおりです。

給付の種類時効起算点(数え始める時点)
療養(補償)給付2年療養の費用を支出した日ごと(翌日から)
休業(補償)給付2年賃金を受けない休業日ごと(翌日から)
葬祭料(葬祭給付)2年労働者が亡くなった日の翌日から
介護(補償)給付2年介護を受けた月の翌月1日から
障害(補償)給付5年傷病が治った(症状固定した)日の翌日から
遺族(補償)給付5年労働者が亡くなった日の翌日から

注意したいのは、療養給付や休業給付の2年という期間が、決して長くないことです。

ケガや病気の治療に専念しているうちに、あるいは会社とのやり取りに時間を取られているうちに、2年はあっという間に過ぎてしまいます。

「落ち着いてから手続きしよう」と後回しにした結果、請求できたはずの分を失ってしまうのは、最も避けたい事態です。

各給付の具体的な金額や計算方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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「日ごと」に時効が進む給付に注意

休業(補償)給付のように毎日発生する給付は、1日ごとに時効が進みます。つまり、2年より前の休業日の分から順に、請求できる権利が消えていきます。

過去の分をまとめて請求しようとして気づいたときには、古い分の一部が時効になっていた、ということが起こり得ます。

受け取れる補償を取りこぼさないために、早めの手続きが大切です。

傷病(補償)年金は時効の問題が生じない

療養開始後1年6か月を経過しても傷病が治らず、一定の重い状態にある場合に支給される傷病(補償)年金は、労働基準監督署長の職権で支給が決定されるため、労働者の側から請求する給付ではありません。

そのため、ほかの給付のような請求の時効の問題は基本的に生じません。

具体例:後遺障害が残ったケースの起算点

たとえば、事故そのものは数年前でも、長く治療を続けたうえで後遺症が残り、症状固定と診断されたのが最近であれば、障害(補償)給付の時効はその症状固定の日の翌日から数え始めます。

「事故から5年近く経っているからもう無理だ」と思っていた方でも、起算点を確認したら十分に間に合っていた、ということは珍しくありません。

 

このように、時効の判断では「いつから数えるか」が結論を大きく左右します。年数だけで諦めず、まずは起算点を確認することが重要です。

後遺障害が残った場合の慰謝料の相場と計算式については、こちらの記事でわかりやすく解説しています。

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② 会社への損害賠償請求権の時効(2020年民法改正に注意)

会社に安全配慮義務違反などの落ち度があった場合、労災保険とは別に、慰謝料や逸失利益などの損害賠償を会社へ請求できます。

この請求権にも時効があり、ここは2020年(令和2年)4月1日施行の改正民法により、被害者に有利な方向へ期間が延長されました。

人身損害の時効は「5年」に延長された

仕事中のケガや病気のように、人の生命・身体が侵害されたことによる損害賠償請求権については、改正により次のように扱われます。

不法行為に基づく請求では、損害および加害者を知った時から5年(改正前は3年)、不法行為の時から20年。安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく請求では、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から20年です。

請求の構成主観的起算点から客観的起算点から
不法行為(民法709条等)知った時から5年不法行為の時から20年
安全配慮義務違反(債務不履行)行使できると知った時から5年行使できる時から20年

人身損害の時効が3年から5年へ延びたことは、被災された方にとって大きな意味があります。

療養が長引いたり、後遺症の程度がなかなか定まらなかったりして、請求の準備に時間がかかるケースは少なくありません。

期間が延長されたことで、落ち着いて損害の全体像を見極めてから請求できる余地が広がりました。

「不法行為」と「安全配慮義務違反」のどちらで請求するか

会社への請求は、不法行為(民法709条等)と、安全配慮義務違反(債務不履行)の2つの構成があり得ます。

改正により、人身損害ではいずれも主観的起算点から5年とそろいましたが、起算点の考え方や立証のしやすさには違いがあります。

どちらの構成で進めるのが有利かは事案によって変わるため、専門家の判断が役立つ場面です。

いつから数え始めるか(起算点)

損害賠償の時効の起算点は、事故の日とは限りません。

後遺症が残った場合は症状固定の時、亡くなられた場合は死亡の時など、損害の内容によって考え方が変わります。

「事故から年数が経っているから無理だ」と早合点せず、まずは起算点を確認することが重要です。

労災保険の時効が過ぎても、会社への請求が残ることがある

労災保険給付(療養・休業は2年)の一部が時効にかかってしまっていても、会社への損害賠償(人身損害は5年)はまだ請求できる、という場合があります。

「労災の手続きが間に合わなかった」と諦めていた方でも、会社への請求という道が残っていないか、確認する価値があります。

改正前に発生した事案は経過措置に注意

2020年4月1日より前に発生した事案については、改正前の民法(不法行為は3年など)が適用される場合があり、改正法の5年がそのまま当てはまるとは限りません。

古い事案ほど時効が完成している可能性があるため、発生時期を踏まえた個別の確認が欠かせません。

会社への損害賠償の具体的な請求方法と流れについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

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時効の完成を防ぐ・先延ばしにする方法

「期限が近いが、すぐには請求の準備が整わない」というとき、時効の完成を防ぐ手段があります。主なものは次のとおりです。

方法効果のあらまし
裁判上の請求(訴訟提起など)手続きが続く間は時効の完成が猶予され、権利が確定すれば時効が更新される(新たに数え直す)
催告(内容証明郵便など)請求の通知をしてから6か月間、時効の完成が猶予される(その間に次の手を打つ)
協議を行う旨の合意(書面)当事者間で協議の合意を書面で交わすと、一定期間、時効の完成が猶予される
相手方の承認会社が支払義務を認めるなど債務の承認があれば、時効が更新される

特に「催告」は、内容証明郵便などで請求の意思を伝えることで、その時点から6か月間だけ時効の完成を遅らせる効果があります。

ただし、これはあくまで一時的な猶予にすぎず、6か月の間に訴訟提起などの本格的な手続きを取らなければ、時効の完成を確定的に防ぐことはできません。「とりあえず内容証明を送ったから安心」と考えてしまうと、結局期限を逃すおそれがあります。

これらの手段は、要件や効果が細かく定められており、タイミングや書面の内容を誤ると効力が認められないこともあります。期限が迫っている場合は、自己判断で動く前に、できるだけ早く専門家へご相談ください。

会社への損害賠償請求に必要な条件・金額・手続きについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

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時効の管理を弁護士に相談するメリット

時効は、複数の請求が並行して進むうえ、起算点の判断が難しく、見落としやすいテーマです。弁護士に相談することで、次のような点で安心して進められます。

  • 労災保険の給付と会社への損害賠償、それぞれの残り期間を整理できる
  • 起算点(症状固定日・死亡日など)を正確に見極められる
  • 期限が近いときに、催告や訴訟提起など適切な手段をすぐ打てる
  • どの請求構成(不法行為・安全配慮義務違反)が有利かを判断できる

「もう時効かもしれない」と感じる段階でも、確認してみると間に合っていることは少なくありません。逆に、まだ余裕があると思っていた給付が、実は日ごとに時効にかかっていることもあります。早めの確認が、結果的に受け取れる補償を大きく左右します。

労災で弁護士に相談するメリットや費用については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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期限が迫っている・過ぎたかもしれないときの対応

「もう時効かもしれない」と感じても、すぐに諦める必要はありません。次の点を確認してください。

  • どの給付・どの請求の話なのか(労災保険の給付か、会社への損害賠償か)を切り分ける
  • 起算点がいつかを確認する(事故日ではなく症状固定日・死亡日などのことがある)
  • 時効を止める手段(催告・協議の合意など)が使えないか検討する

特に労災保険の給付は、会社の協力が得られず手続きが遅れている間にも時効が進みます。

よくある質問(FAQ)

Q. 労災の時効は事故の日から数えるのですか?

A. 給付や請求の種類によって異なります。休業給付は休業した日ごと、障害給付は症状固定の日の翌日、遺族給付は死亡の日の翌日が起算点です。事故の日からとは限りません。

Q. 時効が過ぎると一切請求できませんか?

A. 時効が完成しても、相手が時効を主張(援用)しなければ請求できる場合があります。また、起算点の考え方によってはまだ完成していないこともあります。すぐに諦めず、起算点を確認してください。

Q. 会社への損害賠償と労災給付は、時効が別々ですか?

A. はい。請求の相手も根拠となる法律も異なるため、時効も別々に進みます。一方が時効でも、もう一方はまだ請求できる、ということがあります。

Q. 過去の休業分をまとめて請求したいのですが間に合いますか?

A. 休業給付は日ごとに時効が進むため、古い分から順に時効にかかっていきます。受け取れる分を取りこぼさないよう、早めの手続きをおすすめします。

Q. 時効が近いとき、まず何をすればよいですか?

A. どの請求の時効が近いのかを切り分けたうえで、催告や協議の合意など時効を止める手段が使えないか検討します。催告は6か月の猶予にすぎず、その間に次の手続きが必要です。判断に迷うときは、期限前にご相談ください。

Q. 内容証明を送れば時効は止まりますか?

A. 催告(内容証明など)には、送った時から6か月間、時効の完成を遅らせる効果があります。ただし一時的な猶予にとどまり、その間に訴訟提起などをしなければ確定的に止めることはできません。

Q. 事故から3年以上経っていますが、もう無理でしょうか?

A. 人身損害の損害賠償は、2020年の改正で原則5年に延びています。また起算点が事故の日ではないこともあります。年数だけで諦めず、一度ご相談ください。

まとめ

労災の時効には、労災保険給付の時効(療養・休業・葬祭・介護は2年、障害・遺族は5年)と、会社への損害賠償請求権の時効(人身損害は2020年改正で5年)という、性質の異なる2つがあります。

起算点は事故の日とは限らず、給付や損害の内容によって変わります。

時効が近いときでも、催告や協議の合意などで完成を防げる場合があります。「もう遅いかもしれない」と感じたときこそ、起算点と残り期間を正確に確認することが大切です。

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