立ち退きで精神的苦痛を感じたら?相談先と慰謝料請求・与えた側が問われる罪について解説
最終更新日: 2024年01月07日
- 立ち退きを要求され、うつ状態になったら慰謝料を請求できるだろうか?
- 立ち退きの辛さを誰に相談すればよいのだろう?
- 立ち退きで精神的にひどい扱いを受けたら、立ち退きを要求した側を罪に問えるのか?
賃貸住宅や店舗、オフィス等を借りている人(賃借人)に退去してもらうため、貸している側(賃貸人)が立ち退きを求める場合があります。
賃借人はこれまでの生活の拠点または仕事場を失うため、重大な影響を受けるおそれがあるでしょう。精神的苦痛を受け、うつ病になってしまう場合も想定されます。
そこで今回は、多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、立ち退きで精神的苦痛を受けた場合の相談先、慰謝料を請求できるケース等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 立ち退きで受けた精神的苦痛の相談先には、弁護士や法テラス等がある
- 弁護士に相談すれば法的アドバイスや、慰謝料請求のサポートもできる
- 立ち退きで精神的苦痛を与えた側は、傷害罪や暴行罪に問われる可能性がある
立ち退きによる精神的苦痛を感じたら?
賃借人に家賃滞納等の契約違反がなくても、貸している建物の建て替えや建物を賃貸人自身が利用したいため、賃貸人の都合で立ち退きを求めるケースがあります。
この場合、賃借人が「住み慣れた場所や周囲の人々に別れを告げなければならない。」「新たな仕事場がなかなか見つけられない。」と、精神的に追いつめられてしまう事態も想定されます。
そのようなときには賃借人だけで悩みを抱え込まず、法律の専門家やいろいろな団体に相談してみましょう。
法的なアドバイスや、精神的苦痛に対する慰謝料請求のサポートが得られます。
立ち退きの精神的苦痛を相談できる先
立ち退きにより精神的な苦痛を受けたら、次のような法律の専門家や団体に悩みや今後の対応を相談してみましょう。
- 弁護士
- 法テラス
- 各種協会
- 消費生活相談窓口
それぞれの専門家や団体の対応等について説明します。
弁護士
立ち退きに関する交渉、訴訟に詳しい弁護士へ相談してみましょう。
弁護士は様々な法的な助言や、精神的な苦痛も含めどれ位の慰謝料が請求できるかなどをアドバイスします。
相談のときは、どのような理由で立ち退きが要求されているのかを弁護士に説明し、賃貸人側から渡された立ち退き通知書等を法律事務所に持参しましょう。
弁護士は立ち退き要求の内容に応じ、様々な解決策を提案します。
なお、法律事務所の相談料は概ね30分5,000円ですが、初回相談無料の良心的な事務所もあります。
法テラス
法テラスの正式名称は「日本司法支援センター」であり、多くの方々が身近で法律相談を受けられるように設立された、法務省所管の法人です。
立ち退きで精神的苦痛を受けたとき等の相談窓口として利用できます。
電話やメールで立ち退きトラブルに関する相談をしてみたいという場合、「法テラス・サポートダイヤル」を利用しましょう。
なお、経済的に余裕のない方々が立ち退きトラブルを相談したい場合、「民事法律扶助制度」を利用しましょう。
民事法律扶助制度では、弁護士の無料法律相談が受けられます。1回の相談時間は30分、1つの問題につき3回まで相談可能です。
しかし、次のような制約に注意が必要です。
- 日本司法支援センターと契約している弁護士のみが相談対応
- 日本に住所を有する個人が対象(在留資格のない外国人は対象外)
- 収入および資産が一定額以下、民事法律扶助の趣旨に適する内容であること
各種協会
賃貸住宅に関する公益社団法人が、立ち退きトラブルの相談を受け付けている場合があります。
公益社団法人「全国賃貸住宅経営者協会連合会(略称:ちんたい協会)」では、賃貸物件賃貸人の賃貸経営の助言や、賃借人の立ち退きトラブルのアドバイスにも対応しています。
立ち退きをはじめ賃貸住宅に関する様々な悩みの相談があれば、「安心ちんたいコールセンター」を利用しましょう。
ただし、ちんたい協会は立ち退きトラブルの問題解決に向けて積極的に行動するわけではなく、相談員は一般的な情報提供等を行うにとどまります。
立ち退きトラブル等の解決を進めたい場合は、弁護士等と対応を話し合いましょう。
消費生活相談窓口
消費生活相談窓口でも立ち退きトラブル等の相談に対応しています。
たとえば、独立行政法人「国民生活センター」は、国民生活の安定及び向上に寄与するため、消費者紛争への法による解決のため助言・紛争解決等を行います。
立ち退きに関しての苦情や問合せは、まず「消費者ホットライン:電話番号188」へ行いましょう。ホットラインでは、相談者の住んでいる地域の「消費生活相談窓口」を案内します。
なお、賃貸人と立ち退きの慰謝料等で揉めている場合は、国民生活センターによる「ADR(裁判外紛争解決手続)」の利用も可能です。
ただし、ADRはあくまで賃貸人と賃借人の和解を目指す方法であり、交渉が決裂したら当事者は弁護士をたて、立ち退きトラブルの解決を図ることになるでしょう。
立ち退きによる精神的苦痛を弁護士に相談するメリット
立ち退きで精神的苦痛を受けた場合、速やかに弁護士への相談を検討しましょう。
弁護士に相談すれば、賃借人は非常に有益なアドバイスやサポートが得られます。
法的なアドバイスを受けられる
賃借人は立ち退き通知書を受け取ったあと、冷静に通知書の内容を確認したうえで、弁護士に相談しアドバイスを受けてみましょう。
弁護士は賃借人の精神的苦痛の状態や問題解決の希望をヒアリングし、立ち退きに関する書類をチェック後、主に次のアドバイスを行います。
- 賃借人の事情(精神的苦痛の分も含める)に応じた立ち退き料の算定
- 立ち退き料が請求可能な内容の賃貸借契約なのか
- 立ち退きの内容が正当な事由にあたるかどうか
- 賃借人の立ち退き期限は十分な猶予期間であるかどうか
- 賃借人の契約違反はないか 等
弁護士に賃貸人との交渉を依頼すれば、賃借人の希望が通るようにサポートを開始します。
親身になって対応してくれる
賃借人と賃貸人が直接交渉すると、つい感情的になり交渉が進まなくなる可能性もあるでしょう。
また、立ち退き問題でうつ状態になっている賃借人は、更なる苦痛によって精神状態が悪化する可能性もあります。
弁護士が賃借人の代理人となれば、本人の希望を主張しつつ、賃借人の有利になるように交渉し解決へと導きます。
弁護士は賃借人の側に立ち、たとえば「現在の賃貸物件と同じ設備・間取りで、仕事場からも近い新たな物件をみつけたものの、新たな物件の敷金が高い。」「立ち退きが原因となり、賃借人はうつ病に苦しんでいる。」という状況を賃貸人側に伝えます。
さらに、「新たな物件の敷金や、うつ病の治療費を立ち退き料に加えてもらいたい。」と交渉し、賃貸人からの譲歩を得る働きかけも行います。
慰謝料請求できる可能性も
賃貸人から立ち退き料が提示されても、金額が適正か否かよく確認しなければいけません。
- 賃貸物件の立ち退き料は家賃の何か月分なのか
- 引越し費用もしっかりと考慮されているのか
- 敷金の返還はあるか
その他、住み慣れた生活の場を奪われる不安でうつ病になった場合、立ち退き料に慰謝料を加算できる可能性があります。
慰謝料分を含める場合は、うつ病の治療内容・費用に関する資料の提示が求められます。弁護士のサポートを受けながら、賃借人は迅速に証拠を収集しましょう。
立ち退きの精神的苦痛で慰謝料を請求できるケース
立ち退きトラブルでうつ病を発症した場合は、立ち退き料に慰謝料分を加えて交渉できますが、裁判による慰謝料の請求も可能です。
いずれの場合でも、精神的苦痛を受けた客観的証拠が求められます。
うつ病を発症している証拠
賃借人側は立ち退きトラブルで精神的に疲れてしまった、という主張だけで慰謝料を請求しても、まずよい結果は得られません。
もしも賃貸人との話し合いで、賃借人の慰謝料額を立ち退き料に加算する取り決めがまとまれば、問題は解決するでしょう。
しかし、賃貸人が賃借人の慰謝料を認めない場合や、裁判で慰謝料請求を図る場合は、客観的な証拠が必要です。
この場合、精神的ストレスでうつ病や腹痛、胃痛を発症した等の内容を明記した医師作成の「診断書」が客観的な証拠となります。
慰謝料は実際の医療費や入通院日数等を考慮して算定されます。
不法行為の成立
裁判により慰謝料を請求する場合、賃貸人側に不法行為が成立していなければいけません。
法律では「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」と明記されています(民法第710条)。
不法行為の成立を主張するには、賃貸人の立ち退き要求がどのように行われたのか、それにより賃借人が精神的苦痛を感じてどのような事態となったのか、を裁判で証明する必要があるのです。
そのため、法律的な知識を有し、立ち退きトラブルに関する経験豊かな弁護士のサポートが必須となります。
立ち退きの精神的苦痛を与えた側が問われる罪
立ち退き要求がどのように行われたのかで、賃貸人側が刑事罪に問われる可能性もあります。
悪質な立ち退き要求で賃借人に精神的苦痛を与えた場合、「傷害罪」や「暴行罪」成立が想定されます。
傷害罪
立ち退き要求のときに、賃貸人側が暴力を振るったわけではなくても、嫌がらせ行為を行えば「傷害罪」に問われる可能性があります。
たとえば、賃借人宅へ向けて連日連夜ラジオの大音量を鳴らし続け、賃借人に精神的ストレスを与え、うつ病や慢性頭痛症等を生じさせたというケースが該当します。
つまり、傷害罪は被害者に外傷を与える他、その生理的機能を害する場合にも成立するのです。
傷害罪で有罪になると、賃貸人側は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処されます(刑法第204条)。
暴行罪
賃貸人側の嫌がらせ行為が「暴行罪」に問われる可能性があります。
たとえば、賃借人と口論になった際に胸倉を掴んだり、手で押したりするようなケースです。
暴行罪で有罪になると「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金、または拘留若しくは科料」に処されます(刑法第208条)。
立ち退きの精神的苦痛によるトラブルは弁護士に相談を
今回は立ち退き問題の解決に豊富な実績を有する専門弁護士が、立ち退きトラブルで精神的苦痛を受けた場合の対応について詳しく解説しました。
賃借人が精神的苦痛により深刻なうつ病となれば、その後の立ち退きの話し合いにも支障が出てしまいます。
弁護士のサポートを受けながら立ち退き問題の解決、精神的苦痛への慰謝料請求を進めてみてはいかがでしょうか。