立ち退きの強制執行とは?流れ・必要書類・回避策を徹底解説!
最終更新日: 2024年12月03日
- 裁判所から賃貸物件の明け渡しを命じられても賃借人が退去しない。どうすればよいのだろう?
- 賃貸人から立ち退きを要求された。なんとか強制撤去だけは避けたい。
- 強制執行に関する問題は弁護士に相談した方がよいのだろうか?
裁判所から、賃貸物件の明け渡しを命じる判決が言い渡されたにもかかわらず、賃借人が賃貸物件に居座っているケースがあります。
このようなケースであっても賃貸人の自力救済は認められません。賃借人を退去させるには、強制執行の申立てが必要です。
そこで今回は、不動産トラブルに詳しい専門弁護士が、立ち退きの強制執行の流れ、強制執行にかかる費用等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 強制執行を実行するには、法律に従い適切な手順を踏む必要がある
- 強制執行に関する費用は、100万円以上かかる可能性がある
- 強制執行を受ける側の賃借人は、速やかに弁護士へ相談した方がよい
立ち退きの強制執行とは何か?
立ち退きの強制執行とは、賃貸物件からの立ち退きを拒否する賃借人に対し、裁判所の力を借りて強制的に退去させる方法です。
強制執行が開始されると、賃貸物件内の賃借人や同居人の強制退去はもちろん、室内の家具・家電の全てが撤去されてしまいます。
ただし、賃貸借契約の解除後であっても、賃貸人が許可なく賃借人の住居に立ち入り、実力を行使して追い出す方法は認められません(自力救済の禁止)。
一方的に賃借人を強制退去させると、賃貸人は不法行為による損害賠償請求を受けたり、刑事告訴されたりする可能性があります。
そのため、立ち退きの強制執行を実現するには、まず法律に従った手続きを進めなければいけません。
立ち退きにおける強制執行までの流れ
賃借人に対する強制執行は、様々な手順を経たうえでようやく申立てが可能となります。
賃借人が賃貸人の要求に応じたり、裁判所の判決に従って立ち退きを済ませたりした場合、強制執行の申立ては不要です。
家賃支払い通知の送付
賃借人の家賃不払いが長期化している場合は、家賃の支払い通知を送付しましょう。
指定した期日に家賃が振り込まれていれば、賃貸借契約を継続します。
なお、家賃滞納が3か月以上であるなら、裁判所は賃貸人の主張を認め、判決で賃借人に立ち退きを言い渡す可能性が高いです。
一方、賃貸人側のやむを得ない理由で、立ち退きを要求する場合、次のような内容の通知を送付します。
- 立ち退き希望日
- 正当な事由
- 賃貸借契約を更新しない旨
- 立退料を支払う用意がある旨
- 賃借人と立ち退きについて交渉する日
なお、賃借人の重大な契約違反を理由とした立ち退き要求なら、立退料の支払いは不要です。
連帯保証人への連絡
賃借人に通知をしても反応がない場合や、無視されている場合は、連帯保証人と連絡を取ります。状況に応じて次のような要求を行いましょう。
- 家賃滞納の場合:代わりに未払賃料を支払うよう要求する
- その他の契約違反の場合:損害の賠償や、賃借人に契約違反をやめるよう説得させる
- 賃貸人側のやむを得ない理由の場合:賃借人に至急連絡を取るよう要求する等
連帯保証人は賃借人の親や兄弟である場合が多いので、賃借人との連絡も取りやすいでしょう。
なお、賃借人が「家賃保証会社」と契約していた場合は、家賃保証会社に滞納家賃の支払いを要求すると、速やかに未払い賃料の回収ができます。
内容証明郵便の送付
賃借人が家賃を支払わない、契約違反を改めない、交渉を拒否し続けているという場合は、内容証明郵便を利用しましょう。
「〇月〇日までに、賃貸人の要求に従わなければ、契約を解除し、立ち退きのための訴訟を提起する。」と記載し、賃借人に内容証明郵便を送付します。
内容証明郵便とは、賃貸人の記載した郵便物の内容、発送日、賃借人の受取日付等を郵便局が証明するサービスです。
内容証明郵便を送付すれば、立ち退きを裁判所に申し立てるとき、賃借人に督促していた証明となります。
契約解除
内容証明郵便を送付しても賃貸人の要求に応じない場合は、賃貸借契約を解除します。賃借人には契約を解除した旨を文書で通知しましょう。
契約を解除後、賃貸人は裁判所に明け渡し請求訴訟を提起します。
家賃滞納の場合、まだ滞納期間が3か月未満のときは賃借人と交渉を行いつつ、内容証明郵便の送付や訴訟の準備も進めていきます。
滞納期間が3か月以上となったら、契約を解除し、訴訟を提起しましょう。前もって訴訟の準備をしていた方が、スムーズに裁判手続きへ移行できます。
明け渡し請求訴訟の提起
賃貸人が賃貸物件の所在地を管轄する地方裁判所に、明け渡し請求訴訟を提起できます。
なお、賃貸物件の財産上価額が140万円以下の場合、簡易裁判所に訴えの提起が可能です。
請求訴訟を提起し、およそ1か月後に第1回目の期日が開かれます。賃貸人は原告・賃借人は被告となります。
第2回目以降は1か月に1回のペースで期日が開かれ、原告・被告は互いに主張書面(準備書面)、併せて証拠となる書面(書証)も提出しなければいけません。
和解
裁判官が、原告・被告に和解案を提示する可能性もあります。
原告・被告の主張や書証が出揃ったとき、または尋問手続が終わったとき、和解案を勧めるケースが多いです。
原告・被告双方が和解案に合意した場合、和解調書が作成されて裁判は終了です。和解が不調に終われば、判決で問題の解決を図ります。
判決
原告・被告の尋問の結果を踏まえた最終準備書面の提出で弁論は終結し、判決の期日が指定されます。審理の終結から判決期日までの期間は、概ね1〜3か月程度です。
裁判所が原告の主張を認めた場合、被告に賃貸物件の明け渡しを命じる判決が下ります(原告勝訴)。
被告が判決の内容に納得しないならば、判決日の翌日から2週間以内に控訴が可能です。
なお、被告人が期限内に控訴しないばかりか、依然として賃貸物件に居座り続けている場合は、賃貸人は強制執行の申立てが可能です。
強制執行
賃借人が判決に従わず賃貸物件から退去しない場合、賃貸人は裁判所に強制執行を申し立てます。
強制執行の申立てには、明け渡し請求訴訟のときに取得した和解調書、または判決書が必要です。
裁判所が賃貸人の申立てを認めた場合、賃借人に催告書が送付されます。催告書で明記された期日までに立ち退きをしない場合、執行官により強制執行が開始されます。
強制執行のときに賃借人が抵抗したり、執行官や専門業者を威嚇したりするケースもあるでしょう。その場合、執行官は警察官に応援を要請する等して、柔軟に対応していきます。
立ち退きで強制執行に必要な書類
強制執行の申立てには、次の3つの書類を必ず準備しなければいけません。
- 債務名義:裁判所が賃貸物件の明け渡しについて認める内容を記載した文書。和解調書や判決書が債務名義に該当する。
- 送達証明書:立ち退きを拒否している賃借人に対し、債務名義が送達された旨を証明する文書。裁判所に申請し取得できる。
- 執行文:裁判所により強制執行が可能であることを証明する文書。裁判所に申請し取得できる。
3つの種類を揃えたら、強制執行の申立書を作成後、収入印紙・切手等を添付し、裁判所に提出しましょう。
立ち退きでの強制執行にかかる費用
明け渡し請求訴訟や強制執行に必要な費用総額は、100万円以上となる可能性があります。
基本的に、費用を負担するのは賃貸人側です。なお、裁判費用の他、弁護士費用も忘れずに考慮しておきましょう。
強制退去執行
強制退去を執行する費用はマンションの場合なら40〜60万円程度、一軒家の場合なら100万円程度かかる可能性があります。
費用の内訳は次の通りです。
- 執行官に対する予納金:6~7万円程度
- 解錠技術者報酬:5万円程度
- 執行補助者、作業員報酬:15~50万円程度
- 運搬用車両:5~10万円程度
- 残置物保管費用:10~20万円程度
強制退去執行の費用、荷物の撤去等に関する費用は賃借人へ請求できます。ただし、賃借人の資産状況から判断すると、請求は不可能なケースが多いでしょう。
内容証明書
内容証明郵便に関する費用は、基本の郵便料金の他に別途費用が必要となります。
一般書留料+内容証明の加算料440円(2枚目〜:260円増)を負担します。もちろん、賃借人に内容証明郵便を何度も送付すると、その都度費用を負担しなければいけません。
ただし、賃借人との交渉のとき、内容証明郵便を送付すれば、相手方にプレッシャーを与える効果もあります。
内容証明郵便を送付し、賃借人の自主的な立ち退きが実現できたなら、以後の裁判費用や強制退去執行の費用は不要です。
裁判
明け渡し請求訴訟の費用は次の通りです。
- 印紙代:1万円前後(賃貸物件の固定資産評価額を基準に算定)
- 予納金:6,000円程度(裁判所からの書類の送付に必要な切手代)
一方、賃借人による妨害工作の危険がある場合、「占有移転禁止の仮処分」を検討しなければいけません。
想定される妨害工作としては、賃借人が第三者へ転貸し、賃貸物件の入居者を頻繁に変更する方法があげられます。
明け渡し請求訴訟の提起後、賃借人が妨害工作を行うと、入居者を変えるたびに被告も変更しなければいけません。これでは、訴訟手続きが全く進まなくなります。
そこで、訴訟の相手方となる人物(被告)を固定する方法として、占有移転禁止の仮処分を行うのです。
占有移転禁止の仮処分を申し立てる場合は、担保金を法務局に預けなければいけません。
担保金は、家賃の3〜6か月が相場とされています。たとえば、家賃10万円のマンションでは、30〜60万円の担保金が必要です。
ただし、担保金は訴訟手続きの終了後、賃貸人へ返還されるので安心してください。
弁護士
弁護士に相談したり、弁護士を代理人にする場合は、弁護士費用が必要です。
弁護士費用は各法律事務所が自由に料金を設定できるので、費用に差が出てしまいます。費用の目安は次の通りです。
- 相談料:無料~5,500円(30分)
- 着手金:22~33万円程度
- 成功報酬:22万円〜55万円程度
着手金とは、弁護士に代理人を依頼したとき、必ず支払わなければいけないお金です。交渉や裁判が失敗しても、成功しても着手金は返還されません。
成功報酬は、交渉に成功または裁判で勝訴した場合、弁護士に支払う必要がある費用です。法律事務所の中には「経済的利益の〇%に相当する額」と設定し、金額を明確にしていないところもあります。
また、弁護士の旅費や出張費等の「日当」も請求される可能性があります。
立ち退きで強制執行を回避する方法
あなたが賃借人である場合、賃貸人の立ち退き要求を拒否し続けていると、いずれ強制執行に向けた準備や手続きが開始されてしまいます。
強制的な退去、家財道具の撤去を受ける前に、賃貸人と交渉して穏便に問題の解決を図った方がよいでしょう。
任意退去
賃貸人から立ち退きを要求された場合、自主的な退去を真剣に検討しましょう。
契約違反を理由とした立ち退き要求でない限り、賃貸人は立退料を支払う必要があります。
提示された立退料の金額で、無理なく退去が可能かどうかをよく考えてみましょう。立退料については、明確に法定されていません。
一般的には、「移転先の住居の6か月分の賃料+引越し代」で算定するケースが多いです。
賃貸人との交渉に合意したならば、忘れずに「合意書」を作成し、取り決めた内容を書面化しておきましょう。
合意書を2通作成し、賃借人と賃貸人が1通ずつ大切に保管すれば、取り決めた内容を忘れてしまう心配もありません。
交渉のポイント
賃貸人との交渉のときは、率直に不安な点や要望を賃貸人へ伝えましょう。
- 引越しの前には、新たな住居の決定、近所へのあいさつ、市区町村役場の手続きも必要なので、立ち退き日までに退去できるか不安だ
- 現在の住居より、新たな住居の家賃が高いと重い負担となるかもしれない
- 引越すことによって勤務先から遠くなったり、子どもの学区が変更となったりする事態は避けたい 等
賃貸人は賃借人の要望を受け入れ、近隣の賃貸物件の紹介・斡旋や、立退料の増額を申し出る可能性もあります。
弁護士への相談
賃貸人との交渉に不安を感じる場合は、まず弁護士に相談してみましょう。
弁護士は賃借人の事情をヒアリングし、次のようなアドバイスを提供します。
- 賃貸人から提示された立退料は十分な金額か
- 賃借人に有利な立ち退き条件を引き出すポイント
- 立ち退き要求を受け入れた後に行う手続き
- 立ち退きを拒否した場合のリスク
- 弁護士を交渉役とするメリット
弁護士に交渉役を依頼した場合は、あなたに代わり賃貸人との話し合いを任せられます。
法律の知識が豊富で、交渉経験が豊かな弁護士なら、あなたの納得できる条件で交渉がまとまることでしょう。
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春田法律事務所は立ち退き交渉の実績が豊富です。立ち退き問題に悩んだら、まずは気軽に弁護士と相談し、アドバイスを受けてみましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。