【弁護士監修】立ち退きとは?賃貸人・賃借人が押さえておくべき知識や流れを徹底解説

最終更新日: 2023年11月29日

【弁護士監修】立ち退きとは?賃貸人・賃借人が押さえておくべき知識や流れを徹底解説

  • 賃貸人から立ち退きを求められ困っている
  • 賃借人に立ち退きを求めたが、断られ困っている
  • 立ち退き問題を上手に解決する方法はないものだろうか

立ち退きを要求された賃借人も、立ち退きを要求した賃貸人も、互いに歩み寄る姿勢を示さなければ、交渉が平行線のままとなります。

何とか互いの妥協点を見つけ、穏便に立ち退き問題を解決したいものです。

そこで今回は、多くの賃貸借に関する交渉や訴訟に携わってきた弁護士が、立ち退きの手順や立ち退き料の相場、立ち退きをスムーズに進める方法等について詳しく解説します。

本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。

  • 立ち退きを要求する場合には正当な事由が必要で、かつ立ち退き料についてもしっかり考慮する
  • 立ち退きを要求するときに、ケースによっては立ち退き料は発生しないことがある
  • 立ち退きを迅速に進めるには弁護士のサポートや交渉のときに決めた内容の書面化が必要

立退料に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

詳しくはこちら

立ち退きとは

立ち退きとは、賃貸人が賃貸物件から退去してもらいたいとき、賃借人と話し合い、必要に応じて立ち退き料を支払い、退去させる方法です。

この立ち退きが問題となるのは「普通借家契約」です。この契約を締結していると、基本的に契約が更新され、賃借人の同意を得ずに、賃貸人が一方的に契約を終了させるのは難しくなります。

賃貸人が契約を終了させるには、少なくとも「正当事由」が必要となります。

なお、「定期借家契約」とは契約期間の満了で賃貸借関係が確定的に終了する契約です。この契約ならば、賃貸人が契約終了の1年前から6か月前までに契約解除の通知を行うと、原則として賃借人を退去させることができます。

出典:借地借家法|e-GOV法令検索|法務省

立ち退きのために押さえておくべき知識

賃貸借契約の種類が普通借家契約であった場合、賃貸人側は立ち退きに正当な事由があるのか、賃借人は立ち退き要求されても了承できるのか、よく検討する必要があります。

正当事由

賃貸人が賃借人に契約更新を拒絶したり、中途解約を申し入れたりしたい場合、正当事由がなければ立ち退きは認められません(借地借家法第28条)。

この正当事由に該当するのは主に次のようなケースです。

  • 賃貸物件の老朽化に伴う取壊し
  • 賃貸物件の建替え
  • 賃借人が賃貸物件をゴミ屋敷にした
  • 賃借人が長期間にわたり家賃滞納をしている

賃貸物件としてそのまま利用させると、倒壊するおそれや地震等のときに十分な耐震性が期待できない等のやむを得ない場合、または賃借人の方に賃貸借契約を継続できなくさせるような違反があった場合、正当な事由として認められる可能性が高くなります。

更新拒絶

正当事由があったとしても、直ちに賃借人に対して退去は要求できません。

退去を要求された賃借人側には新たな賃貸物件探し・荷造り・手続き等、様々な手間や費用がかかります。短期間で立ち退きを要求しても、賃借人から反発を招きトラブルに発展する可能性もあるでしょう。

そのため、賃貸借契約満了の1年前から6か月前までに、更新拒絶の通知を行う必要があります。なお、賃貸人側の都合で更新拒絶を行う場合は、賃借人と誠実に交渉し、立ち退き料等を含めた配慮が求められます。

立ち退きの流れ

賃貸物件から立ち退きを要求されると、賃借人側に様々な不測の事態が起きるリスクもあります。賃貸人側は自分の都合だけを考えず、賃借人に配慮して立ち退き交渉を進める必要があります。

解約通知

立ち退きに正当事由がある場合、賃貸借契約満了の1年前から6か月前までに、賃貸人側から賃借人側へ賃貸借契約の解約通知(更新拒絶通知)を行います。

解約通知書では特に決まった書式がないものの、主に次のような内容を記載する必要があります。

  • 契約当事者:賃貸借契約の当事者を明記
  • 契約内容:どのような契約だったかを明記
  • 通知書提出日:解約通知書の提出日
  • 契約締結日:賃貸物件の契約日
  • 解約予定日:賃貸借契約の解除予定日
  • 解約理由:理由を簡潔に明記

通知書を受け取った賃借人は、内容に漏れや、誤りがないか必ずチェックしましょう。

交渉

賃貸人側は自分の都合ばかりを主張せず、賃借人の主張・要望をしっかり聴いたうえで、交渉を進める必要があります。

以下のポイントに留意し交渉を行いましょう。

交渉のポイント

内容

立ち退きの理由を説明

賃借人側に立ち退きの正当事由(例:倒壊のおそれがあるため等)を告げ、立ち退きの予定時期を伝える

賃借人側の事情も聴く

・賃借人の移転の不安(例:どこに引っ越ししたらよいかわからない、引っ越し費用の余裕がない等)を聴く

・不安の解消に努める(例:移転先の候補や家賃を代わりに調べる等)

解決案の提示

・賃借人側に配慮した立ち退き料を提示する(例:立ち退き料「賃料6か月分+引越し代」分、等)

・その他、立ち退き前に賃借人が移転先へ支払う敷金・礼金等の初期費用分を、立ち退き料の一部から前払いするよう工夫し、賃借人の費用負担の軽減に努める

・解決案の内容は口頭で行うと、当事者の記憶も曖昧になるので、文書で提示する

事前に代替策も検討

交渉が不調に終わった場合の代替策を考慮しておく

次のような対応が想定される

・立ち退きを求める裁判を起こす

・賃借人が自主的に物件を退去するまで待つ

・賃貸人が賃貸物件を第三者へ売却し、賃貸借の関係から離脱する 等

 

裁判

立ち退き交渉が決裂した場合は、基本的に賃貸人側が裁判を起こし(賃貸物件明渡請求訴訟)、問題の解決を図ります。

訴訟の際、裁判所で争点となる内容は主に次の通りです。

  • 賃貸人に正当事由はあるのか否か
  • 立ち退き料の金額はどれくらいが妥当か

内容によっては賃借人側の主張が通り、立ち退きは認められない旨の判決が下る可能性もあります。

なお、賃借人側とまだ交渉の余地は残っていると感じる場合は、裁判所で調停を行い、和解を目指す方法もあります。

立ち退き料の相場と決め方

賃貸人側が、賃借人側に提示する立ち退き料は、「居住用物件なら賃料の一律〇か月分+引越し費用」「店舗なら賃料の一律〇〇か月分」という形が一般的です

賃貸借契約の内容や、賃貸人・賃借人それぞれの経済事情等も踏まえ、立ち退き料を算定します。

居住用賃貸

居住用の賃貸物件の立ち退きを要求する場合は、賃借人が生活の本拠を退去する事態となります。

そのため、賃借人側が重大な契約違反を行った事情の無い限り、賃貸人側に正当事由があっても手厚い立ち退き料の提示が必要です。

裁判例としては、賃料5万円〜10万円程度の老朽化した賃貸住宅であっても、立ち退き料は200万円程度とした事案もままみられます。

たとえば、築44年のアパートで賃料7万4,000円の賃貸借契約を締結していた場合、立ち退き料は200万円と算定されています(平成29年1月17日東京地方裁判所判決)。

店舗・テナント

店舗やテナントの立ち退きの場合、生活の拠点を退去するわけではないものの、営業利益や経営者・従業員の損失等も考慮する必要があります。

主に次のような補償を踏まえ、立ち退き料を算定します。

  • 店舗やテナントの収入
  • 従業員の損失:立ち退きしなければ得られたであろう給与、休業手当
  • 固定経費:福利厚生費、水道光熱費等
  • 改装工事費用:新店舗で営業する前の改装費用
  • 得意先の損失

店舗やテナントの場合、考慮する損失補償は賃借人である経営者の他、従業員等も含まれるので、立ち退き料は高額化する傾向があります。

裁判所の判示した立ち退き料は、賃料10万円前後の小規模店舗(飲み屋・理髪店等)では、1,000万円〜1,500万円程度となる事案も少なくありません。

たとえば、老朽化したビルで賃料8万8457円を支払い営業していた居酒屋の立ち退き料は、1156万1,000円と算定した判決があります(平成30年7月20日東京地方裁判所判決)。

事務所・オフィス

事務所・オフィスも店舗やテナントとの場合と同様、立ち退きにより発生し得る損失を補償する金額が算定されなければいけません。

事務所・オフィスを移転するとき、これまで使用していた重い機材・什器の運搬等も必要となります。

賃料・共益費合計20万円〜50万円ならば、500万円〜1,400万円程度の立ち退き料を命じる判決が多いです。

たとえば、東京地方裁判所では賃料・共益費合計の約2年分にあたる金額が妥当、と判断しています(平成24年8月28日東京地方裁判所判決)。

立ち退き料は発生しないケース

立ち退き料は、いかなる場合でも発生するわけではありません。賃借人側に非がある場合や当時の契約内容等によっては、立ち退き料が発生しないケースもあります。

債務不履行

債務不履行とは、賃貸借契約を締結していたのに、契約当事者が契約内容を守らない状態のことです。この場合は賃貸人側から契約解除を通知されるおそれがあり、立ち退き料も期待できません。

賃借人が債務不履行に該当するケースは、主に次のような内容があげられます。

  • 家賃の滞納が長期化している
  • 賃貸物件を破壊するような行為があった
  • カフェの店舗として契約したのに性風俗店を経営していた

ただし、賃料の滞納が1か月程度であれば、まず契約は解除されません。賃料に関する債務不履行は3か月分以上の滞納があった場合、解約または更新拒絶の可能性があります。

定期建物賃貸借契約

定期建物賃貸借契約(定期借家契約)とは、契約期間の満了で賃貸借関係が確定的に終了する契約です。

契約更新がないので正当事由は不要、立ち退き料も賃借人へ支払う必要がありません。合意した契約期間満了で当然に契約関係を終了できます。

定期建物賃貸借契約は賃借人にとって不利な契約と言えますが、賃料は普通借家契約よりも安く設定されている賃貸物件が多いです。

賃借人側も契約締結前に定期建物賃貸借契約か、それとも普通借家契約かをよく確認する必要があるでしょう。

ただし、契約のときは次のような厳格な要件が適用されます。

  • 建物の賃貸借契約である
  • 契約の更新がない旨を明記する
  • 期間の定めを明記する
  • 書面によって契約する
  • 賃貸人が期間の満了で賃貸借は終了する旨を、明確に記載した書面を交付し説明する

このような要件を欠いたため、賃借人が定期建物賃貸借契約である事実を知らなかったときは、退去のときに立ち退き料を支払わなければならない可能性もあります。

一時使用目的の賃貸借

一時使用目的を定めた賃貸借契約も、正当事由は不要で立ち退き料も賃借人へ支払われない可能性があります。

一時使用目的(短期的な使用)で契約を締結する場合、過剰に賃貸人側が有利となるおそれはあるでしょう。

そのため、この契約には厳格な要件設定があります。

  • 法令または契約で建物の取壊し予定が明記されている
  • 賃貸人に賃貸建物を取り壊す義務がある
  • 一定の期間経過後、建物を取り壊す予定である
  • 取壊しの事実(特約)
  • 建物を取り壊すべき事情について書面化している

つまり、近々取り壊す予定である事実を賃借人に口頭で告げても、一時使用目的を定めた賃貸借契約を締結したとはいえません。

要件を欠いた契約の場合、やはり賃借人に立ち退き料を支払わなければいけない可能性があります。

合意解約

賃借人が立ち退き料は受け取らない旨を承知し、解約しても構いません。

たとえば、賃借人が賃貸人から借りている建物の老朽化等の現状を把握し、退去を望んでいるケースがあげられます。

合意解約をした賃借人の中には、賃貸人に「退去を命じられたら当然、解約するもの。」と信じ込まされ、合意してしまった可能性もあります。

賃貸借に関する知識のない賃借人からすれば、「合意契約書」のような書面が送付され、安易に書類へ署名・押印してしまう場合もあるでしょう。

このような場合であっても、賃借人が賃貸人から騙されたり脅されたりして、合意解約をさせられたと主張して退去を拒否することによって立ち退き料を支払ってもらうよう交渉できます。

とはいえ、合意契約書を作成してしまうと、一般的にはその効力を否定するのは困難であるため、賃貸人から明渡訴訟を提起されてしまうと敗訴する可能性は非常に高いのが実情です。

立ち退きを進める上でのポイント

立ち退き交渉は賃貸人にも賃借人にも、大きな負担となります。そのため、交渉前に次のような対応を検討しておく必要があります。

弁護士に相談する

賃貸人の場合は交渉前に弁護士と相談し、どのような手続きをとれば交渉が難航せず、スムーズに立ち退きを進められるか、よく話し合いましょう。

立ち退き交渉を進めるにあたり、どのような対応をとれば違法・不当(例:賃借人を詐欺・強迫する等)となるのか、どのような提案なら賃借人の合意を得やすいか等がわかるはずです。

一方、賃借人の場合は解約通知等が送付されたら、なるべく速やかに弁護士へ相談しましょう。賃貸人に正当事由があるのか、立ち退き料はどれくらいが妥当かもアドバイスしてくれます。

法律の専門家である弁護士に代理人となってもらえれば、交渉も有利に進められるはずです。

交渉内容は書面に残す

賃貸人・賃借人で合意した交渉内容は書面化した方が確実です。時間がある程度経過すると、口約束ではお互いの記憶が曖昧となります。

合意契約書(合意書)を作成し、双方が大切に保管しておくと、事後のトラブルも回避できます。主に次の内容を明記します。

  • 契約した賃貸物件の立ち退き料の有無、金額
  • 契約した賃貸物件の明け渡し予定日
  • 立ち退き料の支払い方法、支払日
  • その他:敷金返還請求権を放棄する旨や、原状回復費用を請求しない等

原状回復の扱い方

立ち退きを要求する場合には、賃借人の負うはずだった原状回復義務(例:破損した壁紙の補修費等)をどうするかも検討する必要があります。

たとえば、賃借人が賃貸物件をゴミ屋敷にした等、賃借人側に責任がある場合は原状回復のための費用を請求するべきです。

しかし、賃貸人側の都合で立ち退きを要求した場合は、賃借人側は予想外の事態に戸惑い、十分な費用を準備できない可能性もあります。そのため、原状回復の費用を支払うか否かでトラブルが発生するおそれもあります。

賃借人側との合意次第ではあるものの、賃貸人が円滑に立ち退きを進めたいならば、原状回復請求の放棄も検討した方がよいでしょう。

まとめ

今回は多くの賃貸借に関する交渉や訴訟へ携わってきた弁護士が、立ち退き料の目安や立ち退き交渉のポイント等について詳しく解説しました。

立ち退き交渉が決裂すると、訴訟に発展し問題が長期化するおそれもあります。

問題を長引かせないために、賃貸人・賃借人双方の冷静な対応が必要です。

立ち退きに関する問題が起きた場合、弁護士へ相談し迅速な問題解決を目指してみてはいかがでしょうか。

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