特養の利用料の滞納が続いたら強制的に退所させられる?利用者と特養の立場で解説

2022年03月15日

特養の利用料の滞納が続いたら強制的に退所させられる?利用者と特養の立場で解説特養(特別養護老人ホーム)は公的な介護施設の1つで、民間の施設と比べて料金が安く、施設が倒産するリスクが少ないことも魅力です。

特養に一度入居した利用者は、原則として終身にわたり入居できます。ただし、金銭的に問題があり、利用料を滞納したら退所させられてしまうのではないかと不安を感じている利用者もいるでしょう。また、利用料の滞納が続いている利用者を退所させられないか考えている特養もあるかもしれません。

そこで今回は、介護業界に詳しい専門弁護士が、利用者と特養双方の立場から、特養の利用料の滞納が発生したときにどう対処すればいいか解説します。

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この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

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特養の利用料の滞納が続くと強制退所の理由になる

特養の利用料の滞納が続くと、強制退所の理由になる恐れがあります。ここでは、それについて以下の2つのポイントを解説します。

  • 滞納が発生する理由
  • 1回滞納があった程度では強制退去の理由にならない可能性が高い

それでは、1つずつ解説します。

滞納が発生する理由

滞納が発生する主な理由を2つ、表にまとめます。

利用者本人に支払い能力がない

  • 利用者が、特養利用料を支払えるか事前に十分計算していない
  • 途中から、入居当初の預貯金や年金だけで払えないことが判明
  • 安易な考えで入居を決めてしまった利用者が陥りやすい、滞納理由

家族が利用者の年金を使ってしまった

  • 利用者の家族も利用者の年金を生活に使っているときに、起こりやすい
  • 特養職員が関与できず、早期解決が困難なことがある

 

入居後にトラブルとならないよう、利用者や利用者家族が継続して利用料を支払うことができるか、事前に確認することが必要です。

1回滞納があった程度では強制退去の理由にならない可能性が高い

結論から言えば、利用者が用料金を1回滞納したとしても、強制退去の理由にならない可能性が高いと考えられます。

その滞納が重大な違反であると認められないと、滞納を理由にした強制退去は認められません。しかし、1回滞納滞納した程度では、銀行のトラブルで利用料金が口座から引き落とせなかったなどやむを得ない理由も考えられるため、重大な違反であると認められない可能性が高いと考えられます。

具体的にどの程度滞納が続けば重大な違反となるかについて、具体的に法律で定まっているわけではありません。ただ、日本弁護士連合会が公表している介護保険サービス契約のモデル案(改訂版)には、以下のような記載があります。

(利用料の滞納) 第9条 甲が、正当な理由なく乙に支払うべき利用料の自己負担分を3ヶ月分以上滞納した場合には、乙は甲に対し、1ヶ月以上の期間を定めて、期間内に滞納額の全額の支払いがないときは、この契約を解除する旨の催告をすることができます。

そのため、3か月以上の滞納が目安にされることが多いようです。ただ、最終的には利用している特養の契約書を十分に確認することが必要です。

特養の利用料の滞納が発生しても強制的な退所を回避する方法【利用者】

ここでは、利用者が利用料を滞納しても強制退所を回避する方法を4つ解説します。

  • 特養職員にまず相談
  • より安価なサービスを利用
  • 軽減・助成制度の活用
  • 生活保護の受給

それでは、1つずつ解説します。

特養職員にまず相談

利用者が強制退所を回避する1つ目の方法は、特養職員に相談することです。

職員は様々な解決方法を知っている可能性が高いため、より安く利用できるサービスや料金の支払い方法など、いいアイデアを提案してくれるはずです。また、日頃から利用者と面識のある職員であれば、利用者に寄り添って冷静な判断ができます。

滞納になりそうなときには、早い段階で特養職員に相談しましょう。

より安価なサービスを利用

利用者が強制退所を回避する2つ目の方法は、より安価なサービスを利用することです。

安いサービスを利用することで、金銭的な負担を減らすことができます。たとえば、今利用している特養以外にも近隣に複数の特養が存在し、その特養の方が安価であれば転居を検討しましょう。ただし、特養は人気であることが多く、待機期間が長引くことが多いことには留意しなければばりません。

また、入居期間が短ければ、退去するときに入居一時金の一部が返還される可能性がありますので、それを元手に新たな施設に転居することも手段の1つです。

軽減・助成制度の活用

利用者が強制退所を回避する方法3つ目の方法は、軽減・助成制度の活用です。

たとえば、低所得者を対象とした介護保険サービスである特定入所者介護サービス費は、特養利用者でも活用できます。

他にも、独自の軽減・助成制度を提供している自治体もあります。

これらの制度を活用することで、利用者の負担が減らせるでしょう。ただし、制度の利用条件として収入や資産の制限が設けられていることもあります。そのため、軽減・助成制度を活用したいときには、住んでいる自治体の担当部署に制度の有無や詳細を確認するようにしましょう。

生活保護の受給

利用者が強制退所を回避する4つ目の方法は、生活保護の受給です。

年金だけでは生活費が不十分で、かつ親族などに頼れる方がいなければ、生活保護の受給も視野に入れましょう。年金受給者でも生活が苦しいと認められれば、生活保護が認められるかもしれません。

ただし、生活保護を受けると日常生活における様々な面で制限を受けることになります。また、生活保護は最終手段であるため、安易に選択できないことも覚えておく必要があります。それでも生活保護の受給を検討される方は、市町村の担当窓口で一度相談にしてみましょう。

特養の利用料の滞納が続いている利用者にどう対処すればいい?強制的に退所させる方法も解説【特養】

特養に利用料の滞納が続いている利用者がいるときには、まずは任意催促を行い、それでも支払いがなければ法的手続きを取る流れが原則です。また、滞納が続くときには、契約解除も検討する必要があります。

ここでは、特養が利用料の滞納が続いている利用者への対処方法を3つ解説します。

  • 任意督促
  • 債務名義取得
  • 強制執行・退去

それでは、1つずつ解説します。

任意督促

利用者への対処方法の1つ目は任意督促です。

利用料を滞納している利用者には、まず口頭で利用料の支払いを求めます。それでも滞納が続く利用者には、書面で支払いを督促することが一般的な流れです。

書面で督促を行うときは、「普通郵便」、「簡易書留」、「内容証明郵便」などの方法がありますが、特によく使われるのは「内容証明郵便」です。

以下の表に、内容証明郵便のメリットをまとめました。

支払いをより強く催促できる 見慣れない書面で催促することで、滞納している利用者により強いプレッシャーをかけて催促できる
裁判の証拠になる 内容証明郵便は督促状を送った記録が残るため、裁判では証拠として活用可能
日付を証明できる 内容証明郵便は、相手に督促を通知した日付を公的に証明することも可能
債権の時効を中断できる 内容証明郵便を滞納している利用者に送ることで、特養は利用者に通知した日から6か月間時効を延ばせる

 

債務名義取得

利用者への対処方法の2つ目は債務名義取得です。

任意督促を行っても何も進展がないときには、法的手段を取ります。法的手段には、以下の3つの方法が存在します。

  • 民事調停
  • 支払督促
  • 訴訟

それぞれ、1つずつ解説します。

民事調停

法的手段の1つ目は、民事調停です。

これは、調停委員(裁判所が指定)が申立人と相手方の双方の意見を聴き、まとめるための手続きです。意見がまとまれば、両者の言い分をまとめた調停調書を作成します。ただし、民事調停は法的拘束力が弱く、調停が成立しないこともありえます。

支払督促

法的手段の2つ目は、支払催促です。

支払催促とは、裁判所を通じて支払いを催促するものです。滞納している利用者に対して計2回催促を行います。このとき、利用者から異議申し立てが行われなければ、申立人は債務名義として強制力をもった仮執行宣言付支払督促を取得できます。

訴訟

法的手段の3つ目は、訴訟です。

訴訟は、これまで解説した2つの法的手段よりも、さらに確実に回収できる方法です。また、支払いを求める金額が60万円以下であれば、少額訴訟手続きができます。

少額訴訟手続きは、簡易裁判所で手続きを行い、通常の訴訟より迅速かつ簡単に行える訴訟手続のことです。相手方が出頭したときは、その場で和解を成立させて支払いまで進めてもらえることもありえます。

強制執行・退去

利用者への対処方法の3つ目は強制執行・退去です。

申立人は、債務名義を取得後強制執行を行えます。対象の財産には、「預貯金」「土地」「不動産」など、複数の種類があります。

申立人は相手側の財産を調査し、自ら把握しなければいけません。たとえば、預貯金の銀行が分かったときには、裁判所に口座の差し押さえの申し立てを行います。

その後、裁判所の命令により、銀行からの金銭回収が可能になります。ただし、差し押さえが禁止されている財産(公的年金)もあるため、事前に把握することが大事です。

退去を求めるときは、契約解除後に居住部分や建物の明渡しを求めます。相手側が応じないときは民事訴訟を行い、明渡しの判決を出してもらいます。

それでも相手方が退去に応じないときは、強制執行を申し立てを行って、それが認められれば強制執行を行ってもらいましょう。

ただし、強制執行はできる限り取るべき手段ではないため、最終手段として考えておきましょう。

まとめ

今回は、利用者と特養双方の立場から、特養の利用料の滞納が発生したときにどう対処すればいいか解説しました。

利用者の立場では、1回滞納した程度では、退所させられない可能性が高いことを解説しました。ただし、滞納がよくないことは確かです。自分に非がある原因で滞納したときには、その原因を解決して二度と滞納せずに済むよう心がけましょう。

特養の立場では、滞納を続けている利用者にどう対処すればいいか解説しました。なるべく利用料を払ってもらって退所せずに解決する方法を模索するべきですが、それが不可能であれば、強制執行・退去も視野に入れなければなりません。ただし、強制執行・退去は最終手段として考えておきましょう。

利用者と特養のいずれの立場においても、特養利用料滞納と退所に関するトラブルが難航したときには、当弁護士事務所にご相談ください。介護業界に詳しい専門弁護士に相談することで、迅速な解決が期待できるでしょう。

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