発信者情報開示請求を逃れることはできるの?専門弁護士が徹底解説!
最終更新日: 2023年12月02日
- 発信者情報開示請求とはどのようなもの?
- 発信者情報開示請求をすると言われたが逃れることはできる?
- 発信者情報開示請求をされたらどうなるの?
近年、SNSや掲示板での名誉権やプライバシー権の侵害、BitTorrentによる著作権侵害などで発信者情報開示請求がなされるケースが増えています。発信者情報開示請求について詳しくはわからない方もおられるでしょうし、発信者情報開示請求を逃れたいと思う方もおられるでしょう。
今回は、発信者情報開示請求の基礎知識を確認した上で、発信者情報開示請求を逃れることができるのかについて専門弁護士が徹底解説します。
発信者情報開示請求を逃れることは可能?
発信者情報開示請求を逃れることは可能なのかについて検討する前に、まずは発信者情報開示請求とはどのようなものなのか簡単に確認しておきましょう。
- 発信者情報開示請求とは
- 発信者情報開示請求の流れ
- 意見照会を拒否または無視した場合
発信者情報開示請求とは
SNSや掲示板、ファイル共有ソフトなどインターネットを利用して名誉権、プライバシー件、著作権などの権利を侵害された場合、権利を侵害された人は加害者(発信者)に対して損害賠償請求などの民事の責任追及や、捜査機関に捜査・起訴を求める刑事告訴をします。
しかし、そのような法的責任追及をするためには、加害者(発信者)がどこの誰なのか特定することが必要となります。
この特定を可能とするのが発信者情報開示請求で、プロバイダに対して、発信者の氏名や住所等を開示するよう請求することができます(プロバイダ責任制限法第4条1項)。
発信者情報開示請求は専門性が高く一般の方では手続きが難しいため、ほとんどの場合、弁護士に依頼をして行われています。
発信者情報開示請求の流れ
発信者情報開示請求の大まかな流れは下記表のとおりです。
全体で半年から10か月ほどの期間を要することが多いです。現行法では下記表1と4のとおり2度の裁判手続が必要ですが、今年10月から施行される改正法では両者を1度に行うことができるようになりますので、開示までの期間が短縮される見込みです。
1 | SNSや掲示板の管理者に対して発信者のIPアドレスを開示請求(仮処分申立) |
2 | 裁判所がIPアドレスの開示を決定 |
3 | 管理者がIPアドレスを開示 |
4 | プロバイダに対して当該IPアドレスを使用した発信者の氏名、住所の開示請求(訴訟) |
5 | 裁判所が発信者の氏名、住所の開示を決定 |
6 | プロバイダが発信者の氏名、住所を開示 |
意見照会を拒否または無視した場合
発信者情報開示請求を受けたプロバイダは、氏名・住所を開示しても構わないか契約者にその意見を確認するために、「発信者情報開示請求に係る意見照会書」を送付します。
これに対して開示に同意をすれば発信者情報は開示されますので、請求者は裁判をしなくても済むことになります。
一方、開示を拒否した場合や回答をせず無視した場合、権利侵害の事実が明白な場合には、プロバイダが任意に発信者情報を開示することもあります。プロバイダが開示を拒否した場合には、請求者は裁判をして発信者情報開示してもらうことになります(前記表の4)。そして、裁判所が開示を認めれば、発信者情報が開示されます(前記表の5・6)。
このように発信者情報開示を拒否、無視したとしても、最終的には裁判で開示されてしまう可能性があります。
発信者情報開示請求を逃れることができるケース
ここまで発信者情報開示請求の基礎知識について確認しました。次に発信者情報開示請求を逃れることができる6つのケースについてご説明します。
- 相手の請求よりも先に投稿を削除できた場合
- アクセスログの保存期間経過の場合
- 削除して相手が満足した場合
- 発信者特定困難な場合
- 開示請求が通らない、認められない場合
- 事前に示談できた場合
相手の請求よりも先に投稿を削除できた場合
1つ目は、発信者情報開示請求を受ける前に投稿を削除できた場合です。
SNSや掲示板に誹謗中傷するような投稿やプライバシーを侵害するような投稿をした後、当該投稿はまずかったと思い、直ぐに削除したという場合があります。また、相手から訴える、発信者情報開示請求をすると言われて慌てて投稿を削除したという場合もあります。
相手がスクリーンショットなどで投稿を保存する前に削除した場合には、相手は投稿を特定することができないため、発信者情報開示請求をすることができません。自分の投稿を削除できない場合に管理者に投稿の削除を求め、削除された場合も同様です。
このように速やかに投稿を削除した場合には、発信者情報開示請求を逃れられる可能性があります。
アクセスログの保存期間経過の場合
2つ目は、プロバイダのアクセスログの保存期間が経過している場合です。
先ほどご説明しましたとおり、発信者情報開示請求をする場合、プロバイダから発信者の氏名や住所を開示してもらう必要があります。
しかし、プロバイダのアクセスログの保存期間は3か月から6か月ほどです。そのため、発信者情報開示請求をする弁護士は依頼を受けたら直ぐにプロバイダに対してアクセスログの保存を求めます。
弁護士に依頼するのが遅くなりプロバイダのアクセスログの保存期間が経過してしまっている場合には、発信者情報開示請求を逃れることができます。
削除して相手が満足した場合
3つ目は、投稿を削除したことで相手が満足した場合です。
誹謗中傷などの投稿をして相手が訴えると言ってきたので、直ぐに投稿を削除したところ、発信者情報開示請求は来なかったというケースは多くあります。
このように、投稿が削除されたことでひとまず満足して、費用も手間もかかる発信者情報開示請求まではしないということはよくあります。
また、直ぐには投稿を削除しなかったけれども、プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いた段階で削除したところ、それ以上発信者情報開示請求の手続きは進められなかったというケースもあります。
このように問題となっている投稿を削除することで発信者情報開示請求を逃れられることはよくありますので、発信者情報開示請求を逃れたい場合には、直ぐに投稿を削除しましょう。
発信者特定困難な場合
4つ目は、発信者情報開示請求をしても発信者の特定が困難な場合です。
発信者情報開示請求ではプロバイダの契約者情報の開示まではできますが、実際に端末を利用して投稿やファイル共有ソフトの利用をした人まで特定できるものではありません。
そのため、不特定多数の人が出入りして利用する、例えば漫画喫茶などのパソコンで投稿などをした場合には発信者の特定をすることができません。
このような場合には発信者情報開示請求を逃れることができます。
開示請求が通らない、認められない場合
5つ目は、裁判で開示請求が通らない、認められない場合です。
プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書が届くと、それに対して回答書を返送します。開示すべきではない理由について、法的観点から説得的な説明を記載することで、その内容を見た請求者がその後の発信者情報開示請求訴訟の提起を断念するケースがあります。
一方、プロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起したものの、前記回答書の内容を踏まえたプロバイダ側の主張を容れて、裁判所が発信者情報開示を認めないケースもあります。
このように意見照会書への回答書の内容次第で開示請求が通らない、認められないことがありますので、裁判に証拠として提出されることも想定した法的主張の展開が必要です。
事前に示談できた場合
最後に、発信者情報開示請求前に示談ができた場合です。
誹謗中傷の対象とした相手と面識があるという場合があります。この場合、投稿について謝罪をしたうえで、示談することができればその後の発信者情報開示請求や民事、刑事の法的責任追及を回避することができます。
ご自身が投稿者であることを自ら相手に知らせることになりますが、最終的には発信者情報開示がされてしまうケースであれば、このように先手を打った方が相手に誠意は伝わりやすく示談も成立しやすいでしょう。
AVの発信者情報開示請求を逃れることできる?
ここ数年、AV(アダルトビデオ)のメーカーによる発信者情報開示請求が増えています。ビットトレントなどのファイル共有ソフトでAVをダウンロードしていたところ、ある日、プロバイダから発信者情報開示請求の意見照会書が届いたというご相談は多くあります。このようなAVに関する発信者情報開示請求は逃れることができるのでしょうか。
結論としては、著作権侵害(公衆送信権侵害、送信可能化権侵害)を理由とした発信者情報開示請求の場合は逃れることはできません。トレントソフトでAVをダウンロードしますと自身もアップロードする主体となってしまい、著作権を侵害してしまうことは明らかだからです。この場合は民事裁判や警察沙汰になる恐れがありますので、早急に弁護士に依頼をして示談しましょう。
一方、著作権侵害ではなく俳優の肖像権侵害やパブリシティ権侵害を主張して発信者情報開示請求がなされることがあります。この場合は、それらの権利侵害が成立しないことを専門弁護士が法的に説明した回答書を作成し、プロバイダへ送付することで相手会社が発信者情報開示請求を断念することがあります。
このようにAVに関する発信者情報開示請求の場合、主張されている権利侵害の内容によって逃れることができるケースと逃れることができないケースが分かれてきます。プロバイダへ回答書を出す前に必ず専門弁護士に相談をしましょう。
発信者情報開示請求を逃れるのに失敗したら
最後に、発信者情報開示請求を逃れるのに失敗して、結局、発信者情報が開示されてしまった場合に、その後どうなるのかについてご説明します。
- 民事手続で損害賠償
- 弁護士費用の請求
- 刑事手続で刑事罰
- 示談が難航する
民事手続で損害賠償
民事での損害賠償請求がなされます。
名誉権、名誉感情、プライバシー権などを侵害した場合には、慰謝料を請求されます。慰謝料は10万円から50万円ほどが相場ですが、内容が酷く精神的苦痛が大きいと評価されるような場合には100万円を超えることもあります。
また、ファイル共有ソフトで著作権を侵害した場合には、著作権法114条1項に損害賠償額の推定規定があり、損害賠償額は数百万円、数千万円となる場合もあります。
弁護士費用の請求
民事の損害賠償請求では、慰謝料に加えて弁護士費用も請求されることが通常です。発信者情報開示請求に要する弁護士費用は50万円から100万円ほどかかることが多いです。
多くの訴訟では弁護士費用は損害賠償金額の1割が認められるのみですが、発信者情報開示請求は、専門性が高く、弁護士に依頼しなければ行うことが困難なため、弁護士費用の全額の賠償を命じる判断をした裁判例もあります。
刑事手続で刑事罰
民事の損害賠償請求以外にも、捜査機関に刑事告訴をして刑事罰を求められることもあります。起訴され、有罪判決を受けますと罰金刑や懲役刑を受け、前科が付きます。
また、捜査機関や裁判官が必要と判断すれば逮捕・勾留され、20日以上もの長い期間、身柄拘束される可能性があります。このように逮捕・勾留された場合には仕事や学校など日常生活への支障は避けられません。
発信者情報開示請求を受けるケースでよく問題となる犯罪について以下の表にまとめておきます。
名誉棄損罪(刑法第230条1項) | 3年以下の懲役・禁固又は50万円以下の罰金 |
侮辱罪(刑法第231条) | 1年以下の懲役・禁固又は30万円以下の罰金、拘留、科料 |
著作権侵害(著作権法第119条1項) | 10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科 |
示談が難航する
以上のように、民事、刑事の厳しい責任追及を受けることになります。
示談をすることができればいずれの責任追及も解決することができますが、発信者情報開示請求を逃れようとした不誠実な態度をとったということで、示談交渉が難航することは必至です。
権利侵害が事実であれば、逃れようとはせず当初から謝罪をして示談を求めていくことが得策です。
まとめ
以上、発信者情報開示請求の基礎知識から、発信者情報開示請求を逃れることができるのか、逃れることに失敗した場合の法的責任についてご説明しました。
発信者情報開示請求が成功するかどうかは、違法な権利侵害の事実が認められるかどうかに寄ります。この点の法的判断を踏まえて、発信者情報開示請求に対してどのような対応をすべきかが決まります。
発信者情報開示請求を受けるかもしれない、発信者情報開示請求を受けてしまったという方は、正しい対処法を判断するために、一日も早く、専門弁護士にご相談ください。