婚前契約(夫婦財産契約)と夫婦財産関係

婚前契約(夫婦財産契約)と夫婦財産関係

2019年08月15日

近時、日本においても婚前契約が注目され始めています。「婚前契約」は、英語ではprenuptial agreementやantenuptial agreementといいますが、日本の民法でこれにあたるものとして「夫婦財産契約」があります。

夫婦「財産」契約というように、民法上は、専ら夫婦間の財産関係に関して取り決めをすることを想定されています。このような財産関係についての婚前契約は、婚姻中にも役立つものですが、とりわけ二人の財産関係を清算する離婚の場面で大いに効力を発揮します。

今回は、婚前契約のうち夫婦間の財産関係について、婚前契約にどのようなことを盛り込むべきかについてご説明いたします。

1 民法が定めている夫婦財産制

民法は、婚前契約を交わさなかった場合には、夫婦間の財産関係は民法の規定に従うものとしています。そして、民法の定める夫婦間の財産関係に関する規定は以下の3つだけです。

①婚姻費用の分担(民法第760条)

夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

②日常の家事に関する債務の連帯責任(民法第761条)

夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

③夫婦間における財産の帰属(民法第762条)

1 夫婦の一方が結婚前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

①は、家賃や食費、水道光熱費などの生活費の分担方法について定めたものです。
②は、日常生活における取引で負担する債務について夫婦の連帯責任を定めたものです。
③は、別産制を定めたものです。

以下では、専ら夫婦間の財産の帰属について、どのような取り決めが考えられるか、タイプごとにご説明します。

2 基本的に法定の財産制に従う場合も婚前契約は作成するべき?

民法では、結婚前から有する財産と婚姻後に自分名義で得た財産については特有財産で、それ以外は共有財産とされています。

この民法の定める法定財産制に従うのであれば、婚前契約を作成する必要はないのではないかと思うかもしれません。しかし、離婚の際には、共有財産を分割することになりますが、その財産が結婚前から有する財産なのか、自分の名義で得た財産なのかというように、それが共有財産なのか特有財産なのかという点が激しく争われます。

ですから、民法の定める法定財産制に従う場合であっても、婚前契約によって何が特有財産であるのかを明らかにしておくと、万が一離婚することになった場合も無用な争いを回避することができます。

3 婚前契約で財産関係はどのように決めたらよいのか?

結婚前に得た財産も婚姻後に得た財産も全て共有財産とするのでしたらとてもシンプルですが、夫婦間で自分固有の物が一切ないという生活は考えにくいでしょう。

他方、夫婦で共同生活を営む以上、完全な別産制というのも考えにくいでしょう。

そこで、実際に婚前契約を作成する場合は、共有財産も特有財産も認めることになりますが、ご自身たちのスタンスは、完全な共有制、完全な別産制いずれに近いのかを考え、そこから何を各自の特有財産として、何を共有の財産とするのか考えていくと良いでしょう。

(1) 共有制を基本的なスタンスとする場合

婚姻後は、女性は家庭に入り、専ら男性の収入で生活していくカップルについては共有制とすることが考えられます。

外で仕事をして収入を得るのは夫だけれども、妻も家事、育児など家の中の仕事をしているのだから、婚姻後に買ったものは基本的に共有の財産とするのがフェアだと考えるカップルには、共有制が合っているといえます。

もっとも、各自の財産が一つもないということは現実的に考えにくいですから、共有財産とはならない例外を婚前契約で定めておくとよいでしょう。

また、共有の財産については、各自が自由に使用できるとして良いのですが、他方が無断で売却したり、譲渡したりすることがないよう、処分する場合には他方の同意が必要としておくべきです。
例えば、以下のような定めをすることが考えられます。

・夫が妻のために買ったプレゼントは妻の特有財産とする
・相続や贈与によって取得したものは各自の特有財産とする
・共有財産を処分するときは、事前に他方の書面による同意を要する。

以上のように、共有制に近い夫婦間の財産関係を婚前契約で定めた場合、離婚の際には、例外として定められた特有財産以外の全ての財産が財産分与の対象になるため、財産分与の対象が明確です。

(2) 別産制を基本的なスタンスとする場合

ともに十分な収入、財産がある経済的に自立したカップルの場合、結婚前から有する財産も、結婚後に取得した財産も、各自の特有財産とする別産制を基本とすることが考えられます。もっとも、共有財産が一つもないということは現実的に考えにくいですから、家財道具は共有財産とするなど例外を婚前契約で定めておくとよいでしょう。

また、他方の特有財産を勝手に処分することができないのは当然ですが、使用については、事前に同意を得て使用することができる、あるいは事前に他方が反対しない限り使用することができるなどと定めることも考えられます。一方、共有財産については、各自が自由に使用することができるとして良いでしょうが、他方に無断で売却したり、譲渡したりすることがないよう、処分する場合には他方の同意が必要としておくとよいでしょう。
例えば、以下のような定めをすることが考えられます。

・家具、家電など生活用品については共有財産とする。
・生活費口座の預貯金は共有財産とし、それによって購入したものは共有財産とする。
・その他、共有の財産とすることを書面で合意した財産については共有財産とする。
・特有財産は、事前の同意を得て他方も使用することができる。
・共有財産を処分するときは、事前に他方の書面による同意を要する。

以上のように、別産制に近い夫婦間の財産関係を婚前契約で定めた場合、離婚の際には、婚前契約に定められた共有財産のみが財産分与の対象になるため、財産分与がシンプルになります。

4 最後に

以上、婚前契約において夫婦間の財産関係をどのように定めるのかについてご説明しました。婚前契約は夫婦間の揉め事を減らし、円満な夫婦関係を永続させる効果がありますが、万が一離婚することになった場合にも揉め易いポイントを事前に明確にしておくことで無用な争いを回避できるという大きな効果があります。

婚姻中も、離婚の際も夫婦間で一番揉めるのは財産関係です。婚前契約を作成する際には、まずは結婚後の夫婦の財産関係について、どのようなスタンスをとるのかよく話し合いましょう。そして、ご自身たちに合った夫婦財産関係を婚前契約に盛り込むためには、婚前契約に詳しい弁護士にご相談ください。

この記事を書いたのは

代表弁護士春田 藤麿
愛知県弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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