婚前契約を結婚後に変更・取消しをすることはできるのか?

婚前契約を結婚後に変更・取消しをすることはできるのか?

2019年11月13日

1 はじめに

婚前契約を交わして結婚した後に、婚前契約の内容について変更をしたい、あるいは婚前契約の全部又は一部を取り消したいと思うことがあるかもしれません。

また、結婚後に夫婦間で財産関係などについて新たに契約を交わしたいと考えることもあるかと思います。
このような婚姻後契約(postmarital agreement)を締結することは自由とも思えますが、日本の民法との関係では注意すべき点があります。

そこで、今回は、婚姻後契約についてご説明いたします。

2 夫婦間契約の取消権(民法第754条)との関係

⑴ 条文について

民法第754条は、「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」と規定しています。
そのため、婚姻後契約を締結したとしても、夫婦の一方はいつでも自由にそれを取り消せることになり、契約した意味がなくなってしまうのではないかとも思えます。

本条文の「夫婦間でした契約」は、売買や贈与に限らず全ての契約が対象とされています。
本条文の趣旨は、婚姻中は妻が夫に威圧されて、または夫が妻の愛に溺れて自由な意思に基づかない契約がなされやすいことや、夫婦間の契約の履行は愛情や情誼に委ねられるべきで、そこに法的拘束力を持たせて裁判による履行の強制を許すことは家庭の不和をもたらすことから、夫婦間での契約は取り消すことを可能にしたというものです。

このような法律の趣旨に対しては違和感を覚える方も多いのではないでしょうか。
フランス民法にそのまま倣った規定であり、実際、独立対等な現代の夫婦関係にはそぐわず、戦後の民法改正時からその廃止の声が上がっていました。
裁判例においても本条はその適用を制限する方向に解釈がなされてきました。

⑵ 条文の解釈

最高裁判所は、本条文の「婚姻中」とは形式的に婚姻が継続していることではなく、形式的にも実質的にもそれが継続していることを意味すると解釈しています。

そのため、婚姻関係が実質的に破綻している場合には、形式的に婚姻関係が継続していたとしても本条文の「婚姻中」には該当しないことになります。

そして、実際に取消権が行使されるのは、夫婦関係が破綻した状態にある場合がほとんどですから、結局、本条の取消権が認められることはほとんどないことになります。

3 民法第755条との関係

民法第755条は、「夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。」と規定しています。
この条文からは夫婦財産に関する契約は、婚姻前にしか締結できないのではないかと思えます。

しかし、本条文が婚姻前に限定しているのは、婚姻した後には夫婦間取消権(民法第754条)があるからです。
そして、民法第754条は前記のとおりその適用が制限的に解釈されています。
そうすると、婚姻後に夫婦財産に関する契約を締結するのも可能と考えることができそうです。

実際、長い夫婦関係の中で夫婦の財産状況は自ずと変化しますから、婚前契約が実態に沿わなくなることは十分にありえます。
そう考えると、夫婦財産に関する契約が婚姻前にしか認められないというのは実際上の不都合が大きいでしょう。

なお、本条が対象としているのは夫婦財産に関する契約つまり、婚姻を前提に発生する夫婦の財産上の権利・義務に関する契約です。
ですから、家事・育児に関する取り決めや、不貞行為をした場合の慰謝料に関する取り決めは本条の対象外ですし、夫婦間の贈与契約、消費貸借契約なども本条の対象外となります。

なお余談ですが、アメリカの「統一婚前契約法」(UNIFORM PREMARITAL AGREEMENT ACT(UPAA))では婚前契約は書面でなすことを求めていますが、日本の民法は、そのような規定を設けていませんので、口頭での婚前契約も認められます。
ですから、婚姻前に口頭で交わしていた婚前契約の内容を結婚後に書面にしたという場合は、あくまで婚姻前に契約をしたことになります。

4 婚姻後契約の内容

以上の検討を踏まえると、日本においても婚前契約を婚姻後に修正、変更することは認められる余地がありそうです。
次は、婚姻後契約の内容についてみてみましょう。

⑴ 夫婦財産制の変更

例えば、当初は婚姻後に得た財産について各自の特有財産として、共有財産は日常生活に必要な限りで認めるという夫婦財産制を婚前契約に定めていたけれども、実際に結婚生活を送ってみたところ、やはり共有財産制が適していると考えた場合には、婚前契約の内容を変更する婚姻後契約を交わすことになります。

また、婚前契約では婚姻後に取得した財産は全て共有財産とすると規定していたところ、一方が不倫をしたのでその制裁をして、共有財産を他方の特有財産とし、離婚時には財産分与の対象とはしないという内容の婚姻後契約も考えられます。

このように婚姻後の夫婦関係の変化に応じて夫婦財産に関する契約内容を変化させることは認めるべきだと思います。

⑵ 離婚条件の変更

 慰謝料の金額や、財産分与の条件について婚前契約で定めている場合であっても、婚姻後に結婚前に定めていた離婚条件を変更したいと考えることもあるでしょう。

そのような場合にも、婚姻後契約によって婚前契約の内容を変更することを認めて良いのではないかと思います。

5 婚姻後契約の作成手続き

コラム婚前契約書を作成する上での留意点①においてもご説明しましたとおり、婚前契約においてはその作成プロセスの公平・公正が強く求められます。
この点は婚姻後契約においても同じで、とりわけ家族になった結婚後は一層、各当事者が自由な意思に基づいて、十分に納得の上で契約することが求められます。

したがって、婚姻後契約を夫婦間だけで作成することは、その作成プロセスが非常に不透明になりますので、少なくとも一方が弁護士に依頼をして作成することが必須でしょう。

6 期限、条件

婚姻後契約ではありませんが、婚前契約の中に、結婚後一定年数を経過したら権利・義務が発生したり、消滅したりする規定を設けたり、ある条件が成就したら権利・義務が発生したり、消滅したりする規定を設けることができます。

⑴ 期限

婚姻後3年以内に離婚した場合には財産分与、慰謝料などの離婚給付はゼロとするという契約をした場合、婚姻後3年を経過すると離婚給付についての権利・義務が発生することになります。

また、婚姻後10年を経過したときは、婚前契約(又はその一部の条項)は効力を失うものとすると規定した場合には、その時点で婚前契約(又はその一部の条項)が定める権利・義務が消滅することになります。

このように婚前契約には、婚姻期間に応じて権利や義務を発生させたり、消滅させたりする条項を盛り込むことができますので、その契約内容によってはこのような期限を設けることも検討すべきでしょう。

参照:コラム経営者、資産家のための婚前契約

⑵ 条件

例えば、婚姻後に妊娠・出産をして妻が会社を退職・休職した場合は、家事・育児に対する対価として夫の給与の30%は妻のものとするという契約、不倫をしたら慰謝料100万円を支払うという契約、無断で借金をしたら全ての財産管理を他方に任せるという契約のように、婚姻後のある条件が成就した場合に、権利・義務を発生させる条項は婚前契約によく盛り込まれます。

7 最後に

以上、婚姻後契約についてご説明しました。
婚姻後契約には、民法の解釈上のハードルがあります。

しかし、長い婚姻生活の中で夫婦の考え方や、夫婦を取り巻く環境は自ずと変化するにもかかわらず、婚姻前に締結した婚前契約に縛られることが妥当でなくなることは容易に想像できます。
そのため、婚前契約の内容について婚姻後に変更を認めることは必要でしょう。

もっとも、夫婦関係は外部からはわからない関係ですから、夫婦間での契約はその作成プロセスが不透明になりがちです。
ですから、婚前契約を作成するときもそうですが、婚姻後契約を作成する際には、より一層、第三者である弁護士が関与することは必須といえるでしょう。

この記事を書いたのは

代表弁護士春田 藤麿
愛知県弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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