リフォーム工事で着工前後の契約解除とキャンセル料を専門弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月10日

リフォーム工事で着工前後の契約解除とキャンセル料を専門弁護士が解説

リフォーム工事の請負契約は、一定期間契約関係が継続するがゆえに、途中で契約解除に至る事例が珍しくありません。そして、注文者からリフォーム工事契約が途中で解除されると、必ずと言っていいほど問題になるのがキャンセル料です。このキャンセル料を巡って、注文者と施工業者の間で熾烈な争いが起きることがあります。

このリフォーム工事契約のキャンセル料とは、そもそも拒否することができるのでしょうか。また、拒否できないとしても減額の余地はあるのでしょうか。

今回は、リフォーム工事契約において発生するキャンセル料の法的根拠と内訳などを説明しつつ、具体的事例を基に詳しく説明していきます。

建築・リフォームに強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

詳しくはこちら

リフォームの契約解除によるキャンセル料の法的根拠

キャンセル料が発生するには、当然、法的根拠が必要です。まずは、リフォーム工事におけるキャンセル料を発生させている法的根拠について説明します。

キャンセル料の民法上の根拠

リフォーム工事契約は、リフォーム(改修・改装)を「仕事の結果」とする請負契約(民法第632条)ですが、請負契約の解除について、民法には以下のような規定があります。

民法第641条:請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。

このように注文者においていつでも請負契約を解除できるとしている趣旨は、請負は注文者のための仕事(リフォーム)をするものであって、注文者にその仕事が必要なくなったときは完成させても無意味であること、そして施工者も損害賠償が得られるのであれば特段の不利益はないことにあります。

このように、請負契約においては、注文者の方から請負契約を「いつでも」解除できるとされています(以下、この解除を「任意解除」と呼びます。)。通常、契約の解除といいますと、相手方に債務不履行が必要ですが(民法第541条)、民法第641条を根拠とする任意解除は、相手方の債務不履行は不要です。

ただし、注文者は、いつでも請負契約を解除できる代わりに、契約解除により損害を被る施工者に損害賠償をしなければならないのです。この損害賠償がキャンセル料に関係しています。

キャンセル料は契約書の必須事項

建設業については、住宅を含む社会インフラを開発し、維持・管理する責務の重大性に鑑みて、国土交通省所管の下で「建設業法」という法律が制定されています。

そして、リフォーム工事契約を含む建設工事の請負契約の締結にあたり、「各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行」することを原則として定め(同法第18条)、当該契約の当事者の間で契約書面を作成し、交付することを義務付けています(同法第19条第1項)。

リフォーム工事契約のキャンセル料は、この契約書面に含めなればならない事項の1つとされています(同条項第6号)。

建設業法第34条第2項を受け、国土交通省の中央建設業審議会が、「建設工事の標準請負契約約款」という、請負契約の基準となるものを作成し、その実施を勧告しています。同約款の第24条第1項には下記のとおり、リフォーム工事契約のキャンセル料について、民法第641条と同様の内容が定められています。

発注者は、工事が完成するまでの間は、必要があると認めるときは、書面をもって受注者に通知して工事を中止し、又はこの契約を解除することができる。この場合において、発注者はこれによって生じる受注者の損害を賠償する。

以上から、リフォーム工事契約のキャンセル料は、法律の規定に基づき、契約書に必ず条項を設けなければならない事項で、リフォーム工事契約の解除によって請負人(受注者)が被った損害を賠償するものであることが分かります。

リフォーム工事のキャンセル料の内訳について

リフォーム工事の契約解除をした際のキャンセル料の法的根拠についてご理解いただけたかと思います。では、施工者としてはキャンセルによってどのような損害を受けるのでしょうか。以下ではキャンセル料の具体的な内訳について説明します。

  • キャンセル前に購入した材料代
  • リフォーム工事業者の利益
  • キャンセル前に入った作業員の人件費
  • 消費者契約法による取消しやクーリングオフによるキャンセル料の制限

キャンセル前に購入した材料代

キャンセル前に購入した材料代は、リフォーム工事契約の解除によって無駄になったため、損害賠償としてキャンセル料の対象となるものの代表例でしょう。

しかし、仮に、当該材料を他の仕事のために転用したり、また、他のリフォーム業者に転売したりした結果、利益を得た場合でも、当該材料代は損害と言えるのでしょうか。

この場合、当該材料からすでに利益を享受していますから、これに加えて当該材料代を損害として賠償してもらうことになるとある種の二重取りが生じてしまいますから、この部分を損害として計上することは適当ではありません。

このように、ある原因によって損害が生じたものの、同一の原因によって利益を享受した場合、当該利益分を差し引いて損害賠償額を算定することを損益相殺といいます。

リフォーム工事業者の逸失利益

では、リフォーム工事業者の逸失利益についてはどうでしょうか。

施工者はもともと、リフォーム工事契約の締結により、報酬請求権を取得しているため、当該報酬額および費用の差額について、正当な法的利益を有しています。

しかし、契約解除によって、注文者は、自己都合で当該契約関係からの離脱を選択することができます。他方で、施工者は、仕事の完成させることにより得られたであろう利益を一方的に奪われることになります。このような結果は当事者間の公平に反します。

そのため、施工者の利益も、契約解除にともなう損害賠償としてキャンセル料の対象に当たります。

裁判例でも、「請負人は、注文者の側の一方的事情により請負契約を工事中途で解除されるのであるから・・・工事完成により得べかりし利益をも損害として請求することができるものと解すべきである」と判断したものがあります(東京高裁昭和60年5月28日判例時報1158号200頁)。

着工前・着工後の人件費

たとえば、A宅のリフォーム工事のため、Bが作業員を募ったものの着工前に契約解除になった場合、その人件費は無駄になりますから、損害賠償としてキャンセル料の対象になります。

しかし、同じ作業員に、A宅のリフォーム工事の代わりに他の工事に着工してもらった場合、当該人件費はいずれにしても必要な支出だったことになり、損害賠償の対象外になります。

また、A宅のリフォーム工事の着工後に契約解除になった場合、部分的に完成した仕事については工事代金を請求することができますので、それに要した人件費は損害賠償の対象外になります。

消費者契約法による取消しやクーリングオフによるキャンセル料の制限

当該リフォーム工事が消費者契約に該当する場合、一切返金しない旨規定されている契約書もしばしば見受けられます。

しかし、消費者契約法によれば「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの」については、その超過部分の金額について無効となります(消費者契約法第9条第1号)。

リフォームの着工前・着工後の契約解除とキャンセル料相場の考え方

さて、ここまででリフォーム工事の契約解除と損害賠償金、キャンセル料について基本的なことをお分かりいただけたかと思います。次は、実際にどのような形で問題となり、またどれくらいの金額のキャンセル料となるのかについて説明します。

キャンセル料は返金額の形で問題になる

実務上は、契約解除に際して、注文者から施工者に対して、「キャンセル料」なるものが支払われるのではなく、注文者が施工者に対して既に支払った代金がどれくらい返金されるかという争いになることが多いです。

リフォーム工事では通常、着工前に工事代金の全部または一部を前金として支払っています。そして、契約解除がなされるとこの前払金は、注文者に返還されることになりますが、その際に、先ほど説明しました材料費や人件費などの損害賠償金額をそこから差し引かれることになります。

また、後述するように、仕事の完成の度合い(出来高)によっては、当該出来高に対する工事代金を支払う必要があるためその分も返金額から差し引かれることになります。

このように、多くの場合、リフォーム工事のキャンセル料の問題は、契約解除によってどれくらいのお金が返金されるかという形をとります。

リフォーム工事の着工前の契約解除

まずは、着工前にリフォーム工事の契約解除をした場合について、具体的なケースをもとにキャンセル料相場の考え方を見てみましょう。

<ケース>

注文者Aと施工業者Bは、A宅のリフォームを目的としたリフォーム工事契約を締結しました。

当該契約にかかる請負代金額は1000万円と決められました。そして、契約時に100万円、仕事の半分が完成したときに500万円、仕事全体が完成した時に残りの400万円を支払うことを合意し、契約時にとともに、AはBに100万円を支払いました。

Bは、契約後、作業員を手配して30万円の人件費がかかりました。また、材料代として120万円を支出しました。なお、Bは本件工事から100万円の利益を見込んでいました。

ところが、Bが着工する前にAは自己都合で契約解除をしました。

AはBに対して契約時に100万円を支払っています。この100万円は契約解除によってBからAに返金されることになります。

しかし、Bは既に合計150万円の支出をしておりこれらは損害となります。また、契約解除によって得られる予定だった100万円の利益も失われました。

そこで、BはAに対して損害賠償として合計250万円のキャンセル料を請求することになるでしょう。既に受領していた100万円は損害賠償に充てられ、実際には残りの150万円の請求がなされます。

これに対してAとしては材料費や人件費のうち無駄にならなかったものはないか、本当に100万円の利益が見込まれたのかという点を精査して減額交渉をしていくこととなります。

リフォーム工事の着工後の契約解除

次は上記のケースで、Bが仕事の半分を完成させた段階でAがリフォーム工事の契約解除した場合を考えます。

AとBとの契約では仕事の半分を完成させた段階で500万円が支払われることになっています。また、下記のとおり、民法では、割合的な仕事の完成を理由とした報酬支払請求権が認められています(民法第634条2号)。よって、Bは仕事の半分を完成させたことを主張、立証して500万円の代金請求をすることになります。

次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。」

ただ、仕事がどの程度完成しているのか、仕事の出来高の評価については争点となることが多いです。この評価方法には「積算方式」と「割合方式」の二つがあります。

「積算方式」とは、業務に実際に要した経費を積み上げた金額をもって出来高と評価する方式であるのに対し、「割合方式」とは、契約上の業務全体のうち完成部分の業務に占める割合を算出し、業務報酬総額のうちその割合に応じた金額をもって出来高と評価する方式のことを言います。

当然工事業者側としては代金請求ができるように自分に有利な主張をしてきますので、注文者側としてはいずれの方式によるとしても、工事内容や明細を一つ一つ厳密に精査していくことが重要です。

リフォーム工事の契約解除(キャンセル)の方法

ここまで、リフォーム工事契約のキャンセル料について見てきました。最後にキャンセルをするときの注意点を確認しておきましょう。

  • いつ契約解除したのかを明確に
  • 契約解除は内容証明郵便で行う
  • リフォーム工事契約は消費者契約法によるキャンセルも検討

いつ契約解除したのかを明確に

リフォーム工事の契約解除においては、いつの時点で契約解除の意思表示をしたのかが重要です。

通常、施工者は、次々と資材を発注したり、職人・作業員を現場に派遣したりするなどして、工事の費用を積み上げていきます。

しかし、注文者の解除意思が施工者に伝わっていないがために、解除があったことを知らず、必要のなかった資材を発注するなどして損害が拡大してしまう恐れがあります。

契約解除の意思表示について、「言った」「言っていない」という問題になってしまうと、裁判では原則として「言っていない」と扱われますので、解除通知を怠ったがために莫大な損害賠償義務を負うこともありえます。

そのため、リフォーム工事契約においては、契約解除の意思表示を証拠として残すことが重要です。

契約解除は内容証明郵便で行う

いつの時点で契約解除の意思表示をしたのかを証明する最も確実な手段が内容証明郵便です。そのため、リフォーム工事の契約解除をしたいと考えた場合、まずは、内容証明郵便の方法によって契約解除を行うことが必須となります。

なお、内容証明郵便による解除の場合、紙面にどのような内容を盛り込めばよいのか、事案ごとに専門的な判断を要するため、一概に説明することは困難ですが、最低限盛り込んでおく必要がある記載としては、以下2点です。

  • 解除対象となるリフォーム工事契約を特定する情報(契約日、工事名、工事場所など)
  • 当該契約を解除する意思表示

早急に解除する必要があるものの、弁護士に相談する時間がない場合は、ひとまず上記の事実だけでも施工者に通知しておき、その後、解除通知の内容について弁護士の意見を踏まえて、補充すべき内容があれば後日補充の通知書を送付するという対応も検討すべきでしょう。

リフォーム工事契約は消費者契約法によるキャンセルも検討

リフォーム工事契約が消費者と事業者との消費者契約に該当する場合には、消費者契約法上、契約の解除に関して消費者を保護する規定があり、事業者の債務不履行または施工の瑕疵を理由とする注文者の解除権を制限する規定などを無効としています(消費者契約法第8条の2)。

また、解除と似た方法として、消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示の取消しという制度もあります。たとえば、重要な事項について事実と異なることを告げ、消費者がそれによって誤認した場合、意思表示を取り消すことができます(消費者契約法第4条第1項)。

解除も取消しも、リフォーム契約の効力を失わせるという点では効果が共通しており、前述した解除権の行使と同様に内容証明郵便による方法によって通知します。

まとめ

以上、リフォーム工事の契約解除、キャンセル料について説明しました。

キャンセル料の算定については、その方式にも種類があり、また、損害項目ごとに当事者の公平をどう図るのか、個別的な事情を踏まえた専門的な判断が不可欠です。

リフォーム工事の契約解除、キャンセル料でお困りの方は、まずは専門弁護士にご相談ください。

建築・リフォームに強い弁護士はこちら

建築・リフォームのコラムをもっと読む