賃貸物件の取り壊しで直ぐに退去?立退料も専門弁護士が解説
最終更新日: 2023年12月21日
- 賃貸物件の取り壊しの話がでているが、すぐに退去する必要があるのか
- 賃貸物件の取り壊しによる退去にはどのような事由が必要なのか
- 賃貸物件の取り壊しの決定から退去までをスムーズに進めるポイントを知りたい
賃貸物件の取り壊しをする場合、実際に住んでいる賃借人の間で退去の話し合いが必要となります。賃貸人としては、退去に関する法律を理解していなければ交渉がスムーズに進みません。
他方、賃借人も賃貸人から退去を求められたときに法律の知識がないと思わぬ損をしてしまうかもしれません。
今回は、賃貸物件の取り壊しによる退去について基本的な法律知識を解説します。
賃貸アパートなどの取り壊しで直ぐに退去勧告できる?
建物の老朽化や欠陥などで建て替えを検討する場合であっても、賃貸人は、賃貸借契約を即時に解除できるわけではありません。借地借家法によって賃借人は強く保護されているので、借地借家法に従って退去の手続きを進める必要があります。
ここでは、以下の2つの点から取り壊しのときの退去について解説します。
- 賃貸物件は契約更新が基本
- 退去を求めるのに必要な正当事由
1つずつ見ていきましょう。
賃貸物件は契約更新が基本
賃貸物件の契約は更新が基本です。契約更新には「合意による更新」と「法定更新」があります。
合意による更新
合意による更新は、不動産賃貸実務の現場において用いられることが最も多い方法です。賃貸人と賃借人は事前に合意することで契約を更新します。
賃貸借契約の更新期間は2年ごとが多いですが、契約期間が満了する前に、賃貸人と賃借人が合意し更新契約書を作成します。賃貸人と賃借人は、賃貸借契約期間内に合意を行なうことでトラブルを防ぐことできます。
法定更新
法定更新は、契約期間内に更新の合意が行なわれない場合であっても借地借家法によって、賃貸借契約の効力を存続させる制度のことです。たとえば、2年間の契約期間が越えたにもかかわらず、前述した「合意による更新」が成立しなかった場合でも、従前と同一の条件で賃貸借契約の効力が残ります。
ただし、法定更新による場合には「期間の定めのない契約」になるため注意が必要です。賃貸人はいつでも契約終了の申込みができ、契約終了を申込んだ日から6か月が経つと賃貸借契約は終了します。もっとも、契約終了には法律上の「正当事由」が求められますので、この正当事由が認められない限りは賃貸借契約は継続します。
退去を求めるのに必要な正当事由
賃貸人が賃借人に退去を求めるためには、借地借家法上の「正当事由」が必要です。正当事由の考慮要素としては下記のようなものがあります。一つずつ見ていきましょう。
- 賃貸人が居住する場合
- 住民に債務不履行がある
- 建物の老朽化
- 立ち退き料を支払う
大家が居住する場合
1つ目は、大家が居住する場合です。
大家である賃貸人が賃貸物件に住む必要性が高い場合には正当事由が認められることがあります。
賃貸人が家族と住むために立ち退きを要求した裁判例では、賃借人が現に住居として使用していなかったことを考慮しつつ、750万円の立ち退き料を条件に退去を認めました。
大家と賃借人の建物を使用する必要性の大小によって結論は異なってくるでしょう。
住民に債務不履行がある
2つ目は、住民に債務不履行がある場合です。
賃貸人は賃借人の住民に債務不履行がある場合、これを理由に賃貸借契約を解除して、強制的に退去させられるケースがあります。
過去の判例をみますと、住民の債務不履行解除が認められる条件として賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されていることが要件となっており、賃料の滞納であれば概ね3か月分は必要とされています
また、近隣住民とのトラブルが頻発しているケースやペット禁止の物件で犬や猫などを飼育しているケースでも信頼関係の破壊が認められることはあるでしょう。
信頼関係の破壊に至らない場合には賃貸借契約の解除はできませんが、賃貸借契約の更新拒絶の要件である正当事由を認める考慮要素となり、退去を求めやすくなりあす。
建物の老朽化
3つ目は、建物の老朽化です。
建物の老朽化も正当事由になり得ます。もっとも、老朽化していても修繕しつつ居住に耐える建物は多くありますので、倒壊の危険があるなど耐震性に相当の問題があることが求められます。
耐震診断の結果、耐震基準に満たしていないことがわかれば正当事由になりえます。また、現実に倒壊の危険を裏付ける事故があれば、住民に対して、説得的に建物の老朽化を伝えることができるでしょう。
抽象的に老朽化だけを指摘しても、住民を説得するとは難しく、危険性を具体的に説明していくことが重要です。
立ち退き料を支払う
4つ目は、立ち退き料を支払うことです。
上記の賃貸人による使用の必要性や老朽化という事情だけで正当事由が満たされるケースは少数で、多くのケースでは立退料を支払うことでそれらの事情による不足が補われて正当事由が認められることになります。
立ち退き料は、移転費用や移転先の契約金など実際に賃借人に発生する損失の金額に加えて、迷惑料や新旧物件の賃料差額の数年分などを加算した金額となることが多いです。
賃貸物件の取り壊しで退去には立ち退き料?
賃貸物件の取り壊しと退去にまつわる立ち退き料の問題について、以下の3つの点から解説します。
- 立ち退き料とは
- 立ち退き料の相場は
- 取り壊しが立ち退き料に与える影響
1つずつ見ていきましょう。
立ち退き料とは
立ち退き料とは先ほどの説明のとおり、賃借人への補償であり、正当事由を補完する要素です。
立ち退き料に含まれるものには引っ越し代や営業補償など、さまざまな項目があり賃貸人と賃借人の正当事由を比較して金額が決まります。賃貸人の正当事由が強く認められて、立ち退き料ゼロでの退去が認められるケースもありますが、そのようなケースは稀です。
立ち退き料の考え方の1つとして以下のような算定方法があります。
「移転先の賃料と現在の賃料との差額の1年分から3年分」+「引っ越し代」+「新規契約金(仲介手数料、礼金)」
この算定方法は絶対ではなく、実際にはその他の賃貸人と賃借人の事情を考慮して立ち退き料の金額は決まります。
立ち退き料の相場
一般的な住居であれば100万円から200万円ほどの立退料になることが多いようです。
一方、店舗など営業用物件の場合には、移転費用が多額になったり、経営状態が良好で多額の休業補償が必要となったりことがあります。ビジネスの内容、経営状態などによって立ち退き料のは大きく異なり、数千万円と高額の立退料となるケースすらあります。
取り壊しが立ち退き料に与える影響
取り壊しの理由が建物の老朽化であり、住人に危険が及ぶ程度の老朽化であれば低額の立退料での退去が認められる可能性があります。もちろん、耐震診断など客観的で信用できる資料は必要となります。
なお、市街地再開発事業など大規模な再開発計画に伴う取り壊し、退去の場合には資金が豊富なため高額な立退料となりやすい傾向にあります。
賃貸物件の取り壊し決定から退去までをスムーズに行なうポイント
賃貸物件の取り壊し決定から退去までをスムーズに行なうポイントは以下の3つです。
- 住民への告知を早い段階から行なう
- 住民への説明をわかりやすく丁寧に行なう
- 弁護士に介入を依頼する
それでは、1つずつ見ていきましょう。
住民への告知を早い段階から行なう
1つ目は、住民への告知を早い段階から行なうことです。
賃貸人は賃借人に対し、早い段階から告知することが大切です。告知のタイミングは、普通賃貸契約が満了する6か月までに行なう必要があります。転居・移転のために十分な時間的余裕を設けた方が賃借人の理解、了承は得やすくなります。6か月前とは言わずもっと前から告知は始めた方が良いです。
取り壊しの何年も前から準備を始められるのであれば、普通賃貸契約から定期賃貸借契約に切り替えていくことをおすすめします。定期賃貸借契約は更新ができない契約なので賃貸期間の満了によって必ず賃借人は退去しなければなりません。
住民への説明をわかりやすく丁寧に行なう
2つ目は、住民への説明をわかりやすく丁寧に行なうことです。
賃貸人は賃借人に対し、説明を丁寧に行なう必要があります。住民への説明は専門用語を使わず、わかりやすい言葉を選ぶことがおすすめです。たとえば、法律を説明する場合、具体的な条項を挙げながら、わかりやすい言葉や事例を挙げて説明します。
取り壊しを基礎づける正当事由について説得的にわかりやすく説明をして理解を得ることが重要です。
弁護士に介入を依頼する
3つ目は、弁護士に介入を依頼することです。
弁護士が介入することで、交渉がスムーズに進みやすくなります。賃貸人・賃借人の当事者同士が交渉した場合、感情的になりやすく話が進まない可能性があります。また、お互いが法律の知識がないと納得できるまでに時間がかかるでしょう。
弁護士は専門的知識や経験から相手が納得できるように交渉を行なってくれます。特に、退去問題について経験値の高い弁護士であれば、スムーズに解決へと導いてもらえるでしょう。
まとめ
今回は、賃貸人と賃借人が知っておくべき賃貸物件の取り壊しに関する法律の知識として、契約の基本、退去を要求するために必要な正当事由、立ち退き料を解説し、立ち退きまでの流れがスムーズに進むポイントを解説しました。
賃貸人が建物の取り壊しを行なうときには「正当事由」が必要です。このことを前提に、賃貸人は賃借人から同意を得たり、立ち退き料を決めたりと、さまざまな対応を求められます。
また、交渉にあたる賃貸人としては、丁寧かつわかりやすい説明が求められます。賃借人としても、賃貸人において受け入れがたい条件を提示し続けていては交渉が進まなくなります。
交渉が上手くいかない場合は立ち退き問題を専門とする弁護士に依頼して、双方が納得できる提案をしてもらうことが早期の解決につながります。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。