立ち退き要請に困ったら?進め方と賃借人・賃貸人の対策を解説
最終更新日: 2024年12月17日
- 賃借人に立ち退き要請したいが、どのように要請すればよいのだろう?
- 賃貸人の都合だけで立ち退き要請できるのか?立退料の支払いは必要だろうか?
- 賃借人との立ち退き交渉が決裂した後の対応を知りたい
何らかの理由で、賃貸人が賃借人に賃貸物件の立ち退きを要請したい場合もあるでしょう。
立ち退きを要請するときは、いろいろな条件を確認しておかなければなりません。
そこで今回は、立ち退き問題の解決に携わってきた専門弁護士が、立ち退き要請の主な方法や進め方等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 立ち退き要請の主な理由として、賃貸人側の都合・賃借人の契約違反等がある
- 賃借人への立ち退き要請がうまくいかなかった場合、最終的には強制執行で解決を図る
- 立ち退き問題に詳しい弁護士からアドバイスを受け、立ち退き交渉を進めた方がよい
立ち退き要請の主な理由
立ち退き要請の理由としては、そもそも契約期間の更新がない場合や、賃貸人の都合、賃借人の契約違反といろいろなケースがあります。
賃貸人は立ち退きが本当に必要な状態か、よく検討したうえで要請しましょう。
契約期間の満了
賃貸借契約期間が満了するときは、立ち退き要請が可能です。
賃貸借契約には主に次の2種類があります。
- 普通借家契約:基本的に更新がある賃貸借契約。契約の更新を拒絶するには正当な事由が必要
- 定期借家契約:更新がない賃貸借契約。賃貸人は契約終了後、賃借人に立ち退き要請が可能
普通借家契約の場合に契約更新を拒否するときは、賃貸人は期間満了日の1年前から6か月前までに、賃借人に対して更新しない旨の通知が必要です(借地借家法第26条)。
少なくとも6か月前までに通知をしないと、以前の賃貸借契約と同一の条件で契約を更新したとみなされます。
建物の老朽化
賃貸物件の老朽化が深刻で、建て替えないと耐久性や耐震性に影響が出る状況の場合は、賃借人に立ち退き要請が可能です。
賃貸物件の安全上やむを得ない措置のため、正当な事由に該当する可能性があります。ただし、賃貸人は賃借人に原則として立退料を支払う必要があります。
賃貸物件の外壁を補強すれば、建て替えをせずに耐久性や耐震性を確保できるときは、立ち退き要請は認められないでしょう。
賃貸人による物件利用
賃貸人の都合で賃貸物件を利用する場合、立ち退き要請が認められる場合もあります。
次のようなケースであれば、正当な事由に該当する可能性があります。
- 賃貸人の自宅が自然災害で倒壊し、賃貸物件を自宅として利用する必要がある
- 賃貸人本人や家族が、ガン等の重大な病気になり、医療機関に近い賃貸物件を利用したい
賃貸人が賃貸物件を利用する場合でも、賃借人に立退料の支払いが必要となることがあります。
賃借人の契約違反
賃借人に重大な賃貸借契約違反があれば、賃貸人が立ち退きを要請する正当な事由として認められる可能性が高まります。この場合、立退料の支払いは不要となる場合も多いです。
- 賃借人が3か月以上にわたり家賃を滞納している
- 賃借人が無断で賃貸物件を増改築し、原状回復が不可能になった
- 賃借人が賃貸物件内で騒音や異臭を発生させ、賃貸人や周辺住民に多大な迷惑をかけ、注意しても改善に応じない
- 賃借人が賃貸物件で違法薬物を製造する等、犯罪目的に利用している
ただし、家賃滞納期間が3か月未満である場合や、増改築した賃貸物件の原状回復が可能な場合、裁判所は「賃貸人との信頼関係回復は可能」と判断し、賃貸人の立ち退き要請を認めない可能性があります。
立ち退き要請の主な方法
立ち退き要請を行うには、賃貸借契約を終了させる措置が必要です。
普通借家契約の場合に賃貸借契約を解消させる方法として、「契約解除」「更新拒絶」の2つがあります。
賃貸借契約の解除
賃貸借契約を途中で解除する方法です。賃貸借契約期間満了前の解除は、賃借人の同意がない限り基本的に認められません。
ただし、次のようなケースでは解除が認められる可能性もあります。
- 賃借人が重大な契約違反をし、賃貸人との信頼関係がすでに崩壊している
- 賃貸物件の老朽化が激しく、速やかに取り壊さないと、賃借人や周辺住民の生命・身体・財産に重大な事態を招く 等
いずれのケースも、解除のハードルは高いとみた方がよいでしょう。
更新を拒絶
賃貸借契約期間満了後は、契約更新しないという方法です。
更新拒絶が認められるためには、正当な事由が必要です。正当な事由の有無を判断するときに、立退料の支払いも考慮されます。
賃貸人が正当な事由の主張や、立退料の支払いを提案しても、賃借人が立ち退きに応じるとは限りません。交渉が決裂した場合は、裁判により解決を図ることになります。
ケースによっては正当な事由に該当しないと裁判所から判断されることや、立退料の増額を命じられることもあります。
立ち退き要請の進め方
立ち退き要請するときは、賃借人にも配慮して交渉し、合意に達するよう心がけましょう。
交渉がうまくいかない場合は、裁判所に訴訟を提起します。最終的には強制執行で立ち退き問題の解決を図りましょう。
更新拒絶の通知
更新拒絶の方法で賃貸借契約を解消する場合は、期間満了日の1年前から6か月前までに、賃借人に対して更新しない旨を通知します。
通知内容として基本的に次の事項を明記しましょう。
- 賃貸借契約を更新しない旨
- 正当な事由
- 希望する立ち退き日
- 立退料を支払う用意がある旨
- 交渉予定日
通知したからといって、賃借人が通知内容に拘束されるわけではありません。賃借人が提示した交渉予定日に都合が悪ければ、賃貸人は別の日を検討する必要があります。
交渉によっては、立ち退き日を猶予しなければならない場合もあるでしょう。
交渉
交渉するときは、正当な事由をわかりやすく説明し、賃借人に理解を求めましょう。
また、賃貸人が用意している立退料を提示しましょう。ただし、立退料の支払いを準備しても、それだけで正当な事由となるわけではないので注意が必要です。
立ち退き料は正当な事由を補完するための措置であり、または賃借人からの立ち退きの同意を得るための手段といえます。
ただし、賃貸人に正当な事由が全くない場合、立ち退き料をいくら上乗せしても、賃借人に立ち退く意思がなければ、交渉をまとめることは困難です。
たとえ立ち退きを裁判で争っても、正当な事由がなければ、賃貸人の主張は通りません。
裁判
交渉が決裂した場合は、裁判所に賃貸物件の「明け渡し請求訴訟」を提起しましょう。
訴えの提起は所在地を管轄する地方裁判所、または簡易裁判所(賃貸物件の価額が140万円以下の場合)に行います。
民事訴訟では、判決前に裁判官から和解を提案される場合が多いです。和解案に双方が合意したときは、和解調書が作成され裁判は終了します。
判決
原告(賃貸人)・被告(賃借人)が和解に応じない場合は、判決が下されます。
原告である賃貸人が勝訴した場合、裁判所から被告となった賃借人へ、賃貸物件の明け渡しを命じる判決が下されます。その後、判決書が作成され裁判は終了です。
被告が判決に不満があるときは、判決日の翌日から2週間以内であれば控訴が可能です。
任意明け渡し
賃貸人が明け渡し請求訴訟の勝訴判決を理由に、賃借人に任意の明け渡しを求めましょう。
自主的な退去が実現できれば、強制執行の申立ては不要です。賃借人の契約違反を理由にした立ち退き要求でない場合は、通常、賃貸人は立退料を支払い、賃借人は立ち退きます。
明け渡しを命じる判決が出ても、賃借人が明け渡しを拒否し、賃貸物件に居座り続けている場合は、賃貸人は強制執行の申立てが可能です。
強制執行
賃貸物件明け渡しの強制執行を申し立てるときは、裁判所の執行官室で手続きを行いましょう。
申立てを裁判所が認めた場合、裁判所から賃借人に催告書が送付され、指定期日までに明け渡されなければ、いよいよ強制執行です。
執行官・専門業者が賃貸物件に向かい、賃借人を強制退去させ、家財道具を撤去します。賃借人が激しく抵抗する場合、執行官は警察に応援を要請する等の対応を行い、強制執行を進めます。
立ち退き要請を受けたときの対処法
あなたが立ち退き要請を受ける賃借人の側の場合は、慌てずに立ち退き通知を確認し、内容を把握する必要があります。
賃貸人とどのように交渉してよいかわからない場合は、弁護士に相談し対応を協議しましょう。
立退料の交渉
賃貸人から提示された立退料が妥当かどうか、慎重に検討しましょう。
賃貸人に言われるがまま安易に交渉に同意すると、後日、相場よりも立退料が低額だったと気付き、後悔する場合もあります。
賃借している物件がマンションやアパートの場合は、「家賃×6か月分」が立退料の簡易的な目安とされることも多いです。
たとえば、家賃が6万円の場合は、36万円程度が立退料の目安になります。賃貸人から提示された立退料が、自分の目安よりも低い場合は、上乗せを要求しましょう。
弁護士への相談
交渉前に法律の専門家である弁護士に相談し、対応を協議しておくのもよい方法です。
弁護士は立ち退き通知を確認し、賃借人の不安や希望を聴いたうえで、次のアドバイスを行います。
- 正当な事由の有無
- 立退料は適正か
- 賃借人の都合に見合う立退料の算定
- 交渉を拒否した場合のリスク
賃貸人との直接交渉に不安を感じるときは、弁護士に交渉を任せた方がよいです。弁護士は依頼者の立場にたって交渉し、賃貸人との合意に尽力します。
立ち退き要請をスムーズに進めるためのポイント
賃貸人が立ち退き要請を円滑に進めたいときは、立ち退きの内容を書面でわかりやすく賃借人に伝える必要があります。
また、立ち退き条件に賃借人の希望も受け入れ、譲歩する姿勢も大切です。
理由の明確化
賃貸人は賃借人に立ち退き要請を明確かつ簡潔に伝えましょう。
正当な事由がある旨を伝え、賃借人に立ち退きへの理解を求めます。当然ながら正当な事由がなければ、賃借人の同意は得られません。
たとえば、建物の老朽化が原因なら、外壁の補強だけでは安全性が保てない旨を説明しましょう。また、賃借人の契約違反が原因であれば、感情を抑えつつ、その重大性を率直に指摘する必要があります。
書面でのやり取り
立ち退き要請の通知はもとより、立ち退き料の金額の提示も書面で行いましょう。
賃貸人と賃借人が立ち退きの条件内容を共有しやすくなります。
立ち退きに合意したら「合意書」の作成も必要です。合意書には取り決めた立ち退き期日、立退料の額・支払方法、立ち退かない場合の法的措置等を明記します。
合意書は2通作成し、賃貸人と賃借人がそれぞれ1通ずつ保管しましょう。
譲歩ポイントの用意
賃貸人は賃借人の不満・不安を想定し、譲歩案をあらかじめ用意しておきましょう。
- 新たな賃貸物件の家賃が現在の家賃よりも高い→立退料の上乗せの用意
- 新たな賃貸物件が見つかるのか不安だ→同規模・賃料がほぼ同額の賃貸物件の紹介・斡旋
賃借人にある程度譲歩する姿勢を示せば、立ち退き要求に応じる可能性も高くなります。
弁護士への相談
賃貸人も立ち退き要請前に、弁護士と相談し交渉のポイントを聞いておきましょう。
弁護士は次のようなアドバイスを提供します。
- 立ち退き要請の手順について
- 賃借人との交渉のポイント
- 立退料は適正な金額か
- 譲歩案の整理
- 合意書を作成する必要性
- 交渉決裂の場合の法的措置
賃貸人も弁護士に交渉役を依頼可能です。交渉不成立となった場合は、裁判手続き等の準備を弁護士に任せられます。
立ち退き要請でお困りなら春田法律事務所にご相談を
今回は立ち退き問題の解決に尽力してきた専門弁護士が、立ち退き要請のポイント等を詳しく解説しました。
春田法律事務所は立ち退き交渉を得意とする事務所です。まずは気軽に弁護士と相談し、立ち退き要請に関するアドバイスを受けてみましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。