トレントで請求されても示談せずに無視?専門弁護士が徹底解説

最終更新日: 2024年01月07日

  • 発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いた。示談するべき?
  • 無視したらどうなるの?
  • 示談金は減額できる?

ここ数年、トレントでアダルトビデオやアニメなどをダウンロードしたら、発信者情報開示請求をされ、その後に損害賠償請求や刑事告訴をされる事例が増えています。

ほとんどのトレント利用者は違法行為や犯罪をしている意識はないため、発信者情報開示請求に係る意見照会書が届くと驚き、不安を覚えます。そして掲示板の不確かな情報をもとに適切でない対応をとってしまい事態を悪化させています。

今回は、トレントを利用して開示請求を受けた場合の示談について専門弁護士が徹底解説します。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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トレントで示談金を請求される理由とその流れ

まずは、なぜトレントを利用すると示談金を請求されるのか、またどのような流れで請求されるのかついて確認しましょう。

請求される理由とその流れ
  1. トレントの仕組み
  2. 示談金を請求される理由
  3. 示談金を請求される流れ

トレントの仕組み

トレント(BitTorrent)は、中央サーバーを設けないP2P方式によってネットワーク参加者同士でファイルを共有するクライアントソフトです。BitTorrentの他にもμTorrentなどは利用者の多いクライアントソフトです。

トレントでは、複数のネットワーク参加者それぞれからファイルの断片化された一部を送信してもらい、最終的にそのファイルの100%のデータを受領する方法によってファイルをダウンロードします。

そして、ダウンロードをすると今度は自身も他のネットワーク参加者から要求があればいつでも、保有しているファイルのデータを自動的に送信(アップロード)する主体となるのです。

よく相談者から、「確かにダウンロードはしましたが、アップロードはしていません」とお聞きしますが、このようにダウンロードをすることで自身も自動的にアップロードをすることになってしまうのです。

なお、利用開始にあたり、このようにアップロードもすることになる点についてポップアップで説明して、利用者の同意を得ているクライアントソフトもあります。

示談金を請求される理由

トレントの仕組みについてお分かりいただけたかと思います。では、なぜトレントを利用して、発信者情報開示、そして示談金の請求を受けるのでしょうか。

自身の作品を広く公衆に送信する権利、すなわち公衆送信権(送信可能化権)が著作権者にはあります(著作権法23条)。そのため、著作権者の許可を得ることなく勝手にその作品をインターネット上で送信(アップロード)すると、公衆送信権(送信可能化権)を侵害する違法行為となってしまいます。

トレント自体は何ら違法ではありません。トレントを利用し、著作権で保護されたアダルトビデオや漫画、アニメなどの作品をアップロードする行為が違法となるのです。

なお、著作権で保護された作品のダウンロード自体が違法となる場合もあります。

(公衆送信権等)
第二十三条 著作権者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作権者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

示談金を請求される流れ

このようにトレントを利用して著作権を侵害された著作権者は、どのようにして権利侵害者に示談金を請求してくるのでしょうか。

P2PFINDERなどのP2Pネットワークの監視システムがあります。これを利用すれば、著作権者は、トレントで著作権侵害をしているIPアドレスを特定することができます。

そして、OCNやニフティなどそのIPアドレスを保有するインターネットサービスプロバイダに対し、そのIPアドレスを割り当てた契約者の氏名や住所などの個人情報を開示するよう請求します。これが発信者情報開示請求です。

プロバイダは発信者情報開示請求を受けると、発信者情報開示をしても良いか契約者に確認します(プロバイダ責任制限法第4条2項)。これが「発信者情報開示請求に係る意見照会書」です。

発信者情報開示に同意をするとそこから示談交渉が始まります。一方、発信者情報開示を拒否した場合には、著作権者は訴訟提起をして発信者情報の開示を受け、その後、示談金を請求してきます。

トレントで示談を無視したらどうなる?

なぜトレントを利用すると示談金を請求されるのか、示談金を請求される流れについてご説明しました。次に、著作権者から示談金を請求され、それを一切拒否した場合や示談交渉はしたものの示談が成立しなかった場合にその後どうなるのかについてご説明します。

示談をしなかった場合、著作権者は損害賠償を求めて裁判を起こしてきます。著作権法第114条1項に損害賠償金額の推定規定があります。

この規定によると、損害賠償の金額は、ダウンロード回数×販売利益で計算されます。つまり、著作権侵害によって失われた利益を賠償せよということです。なお、ダウンロード回数×販売価格という計算によって過大な請求をしてくる著作権者もいます。

人気作品であれば自ずとダウンロード回数は多くなり、賠償金額は数千万円となることもあります。また、意見照会書を無視する、発信者情報開示を拒否する態度をとった場合、発信者情報開示請求の訴訟にかかった弁護士費用全額の賠償を求められることがあります。

さらに、示談をしなかった場合には、刑事告訴をされることもあります。逮捕されるかどうかは警察次第ですが、起訴され、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金又はこれを併科するという刑事罰を受け、前科が付いてしまします(著作権法第119条1項)。

実際、無視しておけば大丈夫というインターネット掲示板の投稿を信じて示談せずに無視していたところ、1年ほどしたある日警察が急に家宅捜索に来てそのまま連行されてしまったというケースもあります。

トレントの利用で示談すべき?示談金の相場は?

このように示談をしなかった場合には、高額な損害賠償請求をされたり、刑事告訴されて前科が付く恐れがあります。では、著作権者と示談すべきなのか、また示談金の相場はどれ位なのかについて以下ご説明します。

トレントでの著作権侵害が全くの事実無根で、そのことを十分に立証できる場合には争うべきです。それ以外の場合は、示談をするのが得策です。

著作権者が求める示談金は高額になるのが通常ですが、必ずその金額を払わなければならないわけではありません。法的主張を踏まえて示談交渉をすることで、示談金額は相当減額することが可能です。

一部の著作権者は、1作品あたり20万円から30万円ほどの示談金で示談することができ、複数の著作権侵害がある場合には50万円から100万円ほどの示談金で包括的に示談することができる可能性があります。

その他の著作権者も、適切に示談交渉を進めることで、50万円から100万円ほどの示談金で示談できるケースは多くあります。

適切に示談交渉を進め、最大限に減額した金額で示談を成立させる可能性を高めるためには、発信者情報開示の意見照会書への回答から戦略的に進めることが重要です。

トレントを利用して示談した事例

最後に、トレントを利用して著作権者から発信者情報開示請求や損害賠償請求をされ、示談した事例について見て行きましょう。

トレントで楽曲をダウンロードした事例

A様はトレントで楽曲を違法にアップロードした行為について著作権法違反の罪に問われ、罰金刑の刑事罰を受けていました。刑事手続が終わり安心していたところ、今度は、著作権者から損害賠償請求を受けたことから、当事務所に依頼をしました。

多数の楽曲をトレントでダウンロードし、その結果多数の楽曲をアップロードしてしまっていたことから、多額の損害賠償になることが想定されましたが、真摯に示談交渉をした結果、50万円以下の示談金にて示談が成立しました。

このように刑事責任と民事責任はあくまで別個です。そのため、著作権者と示談をして両者を一回で解決することが重要です。

トレントでアダルトビデオをダウンロードした事例

B様は多数のアダルトビデオをトレントでダウンロードしていました。ある日、プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書が送られてきたことから、当事務所に依頼をしました。

著作権者と示談交渉を始めていたところ、同じ著作権者の発信者情報開示請求に係る意見照会書がいくつもB様のもとに届きました。

多数の著作権侵害があることから高額な賠償金額になるのではないかと思われましたが、損害額について十分に検討したところ、損害額は数十万円程度にとどまると考えられました。

そこで、著作権者と示談交渉をした結果、全ての著作権侵害についてまとめて100万円以下の示談金にて示談が成立しました。

多くのトレント利用者は多数の作品をダウンロードしていることから、B様のように何通もの意見照会書が届くことがしばしばあります。

トレントでアニメや漫画作品をダウンロードした事例

C様は、トレントで多数のアニメや漫画作品をダウンロードしていたところ、プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書が送られてきたので、当事務所に依頼をしました。

著作権者は1000万円を超える損害賠償を請求してきました。刑事告訴を積極的にしている著作権者だったことから、早期に示談して刑事事件化を回避したいところでした。

示談交渉は難航しましたが、最終的には100万円以下の示談金にて示談が成立し、刑事事件化も回避できました。

なお、C様のもとにはプロバイダからファイル共有ソフトを使用しないよう予め警告が届いていたそうですが、C様はそれを無視してトレントを利用し続けていたそうです。必ずこのような警告が来るものではありませんが、もしこのような警告があったときはトレントの利用は控えるのが無難でしょう。

まとめ

以上、トレントを利用して開示請求を受けた場合の示談について解説しました。

トレントの著作権侵害のケースは、多くの場合、早期に示談交渉を始めることが得策です。一方、著作権侵害を争うべきケースもあります。

いずれの対応をとるべきなのか正しく判断するためには、発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いた時点で速やかに専門弁護士に相談すべきです。

意見照会書の回答期限は1、2週間ほどですから、一日も早く、当事務所の専門弁護士に無料でご相談ください。

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