労災の休業補償はいつもらえる?いつまでもらえる?専門弁護士が解説
最終更新日: 2024年02月21日
仕事中に病気になったりケガを負ったりした場合、治療費などの出費が発生するうえに収入が減少したり途絶えたりするおそれがあります。
仕事を休んでいる間の補償を受けられるかどうか、受けられるとしてその金額はどの程度であるかがわからない場合、将来の見通しができず、大きな不安を感じることでしょう。
仕事中の病気やケガによって休業を余儀なくされた場合には、その間の補償として、労災保険から休業補償の支給を受けることができる可能性があります。
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- 休業(補償)給付の請求の流れや具体的な方法がわかります。
- 休業(補償)給付はいつからいつまでもらえるのか、いくらもらえるのか等、休業(補償)給付に関するよくある質問について解説しています。
- 休業(補償)給付と他の制度との併用や、会社からの補償について解説しています。
労災の休業補償とは?
労災休業補償は、業務または通勤が原因となった傷病の療養のため、労働することができず、賃金を受けられないときの給付をいいます。
この休業補償制度の概要や、請求のための手続、請求の時期や流れなどを確認していきましょう。
労災休業補償制度の概要
まず、簡単に労災休業補償の制度について概要をお伝えします。
療養のために仕事を休み、賃金を受けていない場合には、休業(補償)給付を受けることができます。
支給の要件は、次のとおりです。
- 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養であること
- 労働することができないこと
- 賃金を受けていないこと
支給の内容(いつから、いくら)は、次のとおりです。
支給の内容:給付基礎日額の80%(保険給付60%+特別支給金20%)
労災保険への手続き
では、休業(補償)給付を受けるためには、どのような手続きが必要でしょうか。大きな流れは次のとおりです。
- 労働災害発生
- 請求書を労働基準監督署(労基署)に提出
- 労働基準監督署の調査
- 支給・不支給の決定
- 指定された振込口座へ保険給付が支払われる
正社員の場合
休業(補償)給付の請求は、原則として、本人が、直接、労働基準監督署に請求書を提出して行いますが、会社がこれを代行することも可能です。
また、会社には助力義務があり、被災した従業員本人が労災申請をすることが困難な場合には、従業員の申請を手伝うことが法律上義務付けられています。
労働保険法施行規則23条1項
「保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。」関連記事:労働者災害補償保険法施行規則
アルバイトやパートの場合
会社に雇用されているのであれば、アルバイトやパート、日雇い従業員も労災保険の対象となりますから、正社員と同様に、被災者本人が行うか、会社が代行します。
派遣社員の場合
派遣社員の場合は、被災者本人が労災申請を行うか、派遣元の会社がその申請の代行を行うこととされています。
手続の流れ
それでは労災申請の流れを詳細に見ていきましょう。
1 請求書を労働基準監督署(労基署)に提出
業務災害の場合には様式8号を、通勤災害の場合には様式16号の6を作成し、労基署に提出します。これが、休業(補償)給付の請求方法です。
初回の提出時には、上記の請求書に、医師の証明と事業主の証明が必要になります。
2回目以降の請求の場合には、事業主の証明は不要になりますが、医師の証明は変わらず必要です。
なお、医師の証明と医師の診断書とは異なるものであり、休業(補償)給付の請求にあたっては、医師の診断書までは不要です。
労働基準監督署の調査
必要に応じて、請求人や関係者に書類の提出や聴取の依頼がなされる場合があります。
これらを踏まえ最初に説明した3つの要件を充足するのかどうかを判断します。
- 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養であること
- 労働することができないこと
- 賃金を受けていないこと
業務が原因の負傷なのかどうか、休業が必要なのか否か、保険給付額がいくらか等が調査によって認定・判断されます。
支給・不支給の決定
請求人本人に対して、支給または不支給の決定が通知されます。具体的には、支給の場合には支給決定通知書が、不支給の場合には不支給決定通知書が送られます。
指定された振込口座へ保険給付が支払われる
概ね、請求を受け付けてから給付決定がなされるまで、おおむね1か月を要しますが、場合によっては1か月以上を要することもあります。
請求書に記載して指定した口座に振り込みの方法で支払われます。
請求に時効がある
休業(補償)給付は、いつまでに請求すればよいのでしょうか。
休業(補償)給付の、療養のために労働することができないため賃金を受けない日ごとに請求権が発生します。それぞれの日の翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅していまいます。
このように、2年の消滅時効が定められていることから、それまでには請求をしなければなりません。詳しくは、労災保保険法42条2項に定められています。
有給休暇との併用はできない
労災が原因で有給休暇を使用することはできるのでしょうか。
有給休暇とは、出勤している場合と同じように、使用者から給与が支払われる休暇をいい、100%の給与が支給されます。
労災保険の支給額は、上にも記載したとおり、特別支給金を含めても給付基礎日額の80%ですので、有給休暇を希望する方もいらっしゃるでしょう。しかし、会社からの支払いを受ければ、休業(補償)給付の要件を満たさなくなるため、休業(補償)給付は支給されません。
結論としては、労災を原因とする場合も有給休暇を使うことは可能ですが、有給休暇による会社からの給与と労災保険の休業(補償)給付を同時に受け取ることはできないので注意してください。
労災の休業補償はいつからもらえる?いつまでもらえる?
ここまでは、労災の休業(補償)給付の内容や請求方法、手続の流れについて見てきました。では、休業(補償)給付は、いつから、いつまで受給できるのでしょう。
休業(補償)給付には待期期間が存在する
休業(補償)給付は、休業が発生したらすぐに支払われるものではありません。支払われるまでの間、「待期期間」が存在しています。
休業補償の待期期間は、休業初日から3日までです。休業4日目からは休業(補償)給付を受け取ることができます。
もっとも、手続の流れの中でもお話したように、休業(補償)給付を受け取るには、請求が必要です。
そのため、休業4日目以降は休業(補償)給付の対象とはなりますが、実際に、給付を受け取ることができるようになるまで、請求から約1か月程度を要することもあります。
休業(補償)給付が打ち切りになることもある
休業(補償)給付は、支払いのための3つの要件を満たしている場合には、給付が続きます。
しかし、支払いのための要件を満たさなくなれば、たとえば、労災認定されていた病気や怪我が「治ゆ」して、再び仕事ができるようになれば打ち切りとなります。
ここでいう「治ゆ」とは、身体の諸器官・組織が健康時の状態に完全に回復した状態のみをいうものではなく、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態をいいます。
つまり、労災保険では身体が完全に回復していなくても、医学的な観点からは症状に変動が見られなくなってしまい、心身に障害が残ってしまった場合でも(症状固定)、「治ゆ」と表現しているので、注意が必要です。
まだ症状が残っていて仕事に復帰できていないときでも、医師が症状固定であると判断した場合は、休業(補償)給付は打ち切りとなります。
なお、療養開始後1年6ヶ月経過し、その負傷又は疾病が治っておらず傷病等級表の傷病等級に該当する程度の障害がある場合は、傷病(補償)年金が支給されることになり、休業(補償)給付の支払は停止されます。
骨折後の抜釘などで期間を空けた治療が必要な場合
骨折などの怪我の場合、体内にボルトやプレートを入れて患部を固定することがあります。ボルトやプレートを入れたまま職場復帰する方もいらっしゃるでしょう。
休業補償との要件の関係では、一旦職場復帰すれば、原則として休業(補償)給付の支給は停止します。
では、抜釘などで期間が空いてから再度治療をする場合に休業となる場合は、どのように考えられているのでしょうか。
こういった場合には、「症状の再発」という扱いになり、休業補償給付が再開されることが一般的です。
退職後も休業補償はもらえる
労働者災害補償保険法では「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない。」と規定しています(第12条の5)。
休業(補償)給付の受給中に会社を退職した、または定年退職した、会社が倒産したなどの理由があったとしても、支給要件を充たしていれば給付は継続されます。
労災の休業補償で給付される金額の計算方法
休業(補償)給付がいつからいつまで支払われるのか、ご確認頂けたと思います。では、休業(補償)給付は、いくら支払われるのでしょうか。
基本的な計算式としては、休業(補償)給付では、休業1日につき、「給付基礎日額の80%(=休業(補償)給付60%+休業特別支給金20%)」が支給されます。
以下、詳細に説明します。
休業補償の基礎となる給付基礎日額の計算方法
給付基礎日額とは、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。
原則として平均賃金を使用する
このように、休業(補償)給付の算定においては、基本的に「平均賃金」に相当する額を基礎としています。
平均賃金とは、原則として、事故が発生した日(賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日)の直前3か月間にその労働者に対して支払われた金額の総額を、その期間の歴日数で割った、一日当たりの賃金額のことです。
ボーナスは含まれない
この「賃金」には、臨時的支払われた賃金、賞与・ボーナスなど3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含まれません。
ボーナスなどの三か月を超える期間ごとに支払われる賃金が反映される特別支給金も存在しますが、ボーナスが反映されるのは特別支給金のうち、障害特別年金・障害特別一時金・遺族特別年金・遺族特別一時金・傷病特別年金であり、休業特別支給金にはボーナスは反映されていません。
副業など複数の会社で働いている場合
令和2年9月1日に「労働者災害補償保険法」の改正法が施行され、同日以降に発生した労災事故については、改正法の適用対象となっています。
休業をした場合には、改正前は、事故が起きた勤務先の賃金のみを基礎に給付額等が決定されていましたが、改正後は、「すべての勤務先の賃金額を合算した額」を基礎に給付額等が決定されることとなりました。
総支給額の計算方法
ここまでの説明を踏まえて、簡単に休業(補償)給付と特別支給金の計算をまとめておきます。
休業(補償)給付
休業補償給付 = 給付基礎日額 ×(休業日数 – 3日)× 60%
特別支給金
休業特別支給金=給付基礎日額 ×(休業日数 – 3日)× 20%
一部休業の場合
治療中には、通院などのために就業時間の一部のみを休業する場合もよくあります。こういった場合には、休業(補償)給付はどう扱われるのでしょうか。
このような場合には、一部休業をした日の給付基礎日額から実働したことによって支払われた賃金額を控除した金額を基準に、休業(補償)給付を計算します。
その他
その他の休業(補償)給付に関わる制度として、最低保障額と、最低・最高限度額について説明いたします。
まず、最低保障額についてです。
これまで見てきたとおり、休業(補償)給付においては、給付基礎日額を用いて計算が行われており、この給付基礎日額は、原則として労働基準法第12条に規定する平均賃金に相当する額とされています。
しかし、被災時の事情により給付基礎日額が極端に低い場合を是正し、補償の実効性を確保するため、その最低保障額である自動変更対象額を定めることとしています。
次に、最低・最高限度額についてです。
療養開始後1年6ヶ月を経過した方に支給する休業(補償)等給付については、被災時の年齢による不均衡の是正を図ることなどのため、その算定に係る給付基礎日額について年齢階層別の最低・最高限度額を設けています。
年齢階層別最低限度額が最低保障額(自動変更対象額)を下回った場合には、最低保障額(自動変更対象額)に置き換えることになっています。
労災の休業補償の実際の受取り金額(手取り)
被災者が、休業(補償)給付を労災から直接受け取る場合には、給付額から社会保険料や税金は差し引きされません。
そのため、これまでは給与から差し引きされていた社会保険料や住民税などは、被災者自身が別途支払う必要があります。
受任者払いを利用している場合
「受任者払い」とは、先に会社が被災者に対して休業(補償)給付に相当する額を立替払いし、その後に労災保険から支給される休業(補償)給付を会社が受け取る制度です。
原則として、休業(補償)給付は被災した従業員に直接支払われますが、支給までに時間を要することもあり、収入が途絶えてしまう可能性があることから、これを回避するための制度として、受任者払いの制度が存在します。
受任者払い制度を利用している場合、会社は、立替払に際して、従前の賃金の支払と同じように、休業(補償)給付相当額から社会保険料や住民税を天引きすることも可能です。
従業員が自分で社会保険料や住民税の支払い手続きをする手間を省くことができ、また、支払いを忘れることがなくなるというメリットがあります。
受任者払いを利用しない場合
受任者払いを行わない場合には、被災者は、給付基礎日額の80%に相当するお金を受け取ることとなりますが、上記のとおり、ここから社会保険料や住民税などの支払いをしなければなりません。
会社負担の労災の休業補償
労災保険からの休業(補償)給付以外に、会社は、休業について何らかの補償をしなくてもよいのでしょうか。
待期期間について
休業補償給付の対象は休業4日目からですが、休業初日から3日目までの待期期間については会社に休業補償の支払義務が課されています(使用者の災害補償責任)。これは、労働基準法76条を根拠とする義務です。
ただし、上記は、業務災害の場合に限られ、通勤災害の場合には、使用者に災害補償責任は生じません。
それ以降の期間について
待期期間以降については、どうでしょうか。
休業補償給付では、労災事故に遭う前の賃金全額が補償されるわけではなく、あくまでも給付基礎日額の80%にとどまります。
したがって、労災事故の発生原因次第では、会社や第三者に不足分(特別支給金は考慮しないため40%です)の請求が可能な場合もあり、このような場合には、会社は40%の休業損害に相当する金額を支払わなければなりません。
まとめ
いかがだったでしょうか。今日は、労災給付の中でも生活に直結する休業(補償)給付について、詳細に説明をいたしました。
休業(補償)給付の請求や、計算などにお困りであれば、弁護士へのご相談をおすすめいたします。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。