立退き正当事由が認められないケースとは?理不尽な要求をされた時の対処法
2026年04月24日

ある日突然、賃貸物件のオーナーから「立ち退いてほしい」と告げられたとき、あなたはどのように感じられるでしょうか。長年営業してきた店舗や、大切な家族と暮らす住まいを失うかもしれないという不安は計り知れません。
しかし、貸主(賃貸人)の要求が必ずしも法的に有効とは限らないことをご存じでしょうか。その鍵となるのが、法律で定められた「正当事由」という要件です。
本記事では、この「正当事由」がどのような場合に認められ、どのような場合に認められにくいのかを具体的に解説します。特に、賃借人(借りている側)の立場からすると「理不尽だ」と感じるような立ち退き要求に対して、どのように法的に対抗できるのか、具体的なケースを紹介しながら深掘りしていきます。
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そもそも「立退きの正当事由」とは?
賃貸物件のオーナーから立退きを求められた際に、その要求が法的に有効かどうかを判断する上で中心となるのが「正当事由」という概念です。
これは、借地借家法第28条に定められた法的要件で、貸主が賃貸借契約の更新を拒絶したり、期間満了前に解約を申し入れたりするために必要とされます。単に「貸主が物件を使いたい」という都合だけでは、法的に立退きを強制することはできません。
この正当事由の判断は、「〇〇があれば必ず認められる」といった単純なものではありません。裁判所は、後ほど詳しくご説明する複数の要素を総合的に比較検討し、個々のケースに応じて判断を下します。貸主側の事情と借主側の事情を「天秤にかける」ように評価するため、一筋縄ではいかない複雑な概念であることを理解しておくことが大切です。
ただし、契約の種類が『定期借家契約』である場合は、原則として期間満了により契約が終了します。まずはご自身の契約書がどちらの形式かを確認しましょう。
正当事由を判断する5つの要素
立退きの正当事由が認められるかどうかは、裁判所が様々な事情を総合的に評価して判断します。主に考慮されるのは、以下の5つの要素です。①貸主と借主の建物使用の必要性、②賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況、④建物の現況、⑤財産上の給付(立退料)の提供です。
これらの要素は、それぞれが独立して「〇か×か」を判断するものではありません。貸主側の事情と借主側の事情を比較し、どちらの必要性や合理性が高いか、不利益が大きいかなどを総合的に天秤にかけて評価されます。これからそれぞれの要素について詳しく見ていきましょう。
貸主と借主の建物使用の必要性
正当事由を判断する上で最も重要視されるのが、貸主と借主がそれぞれ、その建物をどれだけ必要としているか、という点です。貸主側の必要性としては、「他に住む家がなく、その物件に住まなければならない」「事業のためにどうしてもその場所が不可欠」といった具体的な事情が挙げられます。
一方で、借主側の必要性も同様に考慮されます。「唯一の住居として長年暮らしている」「その店舗でしか生計を立てられず、移転すると事業が立ち行かなくなる」といった事情は、借主にとって非常に重い必要性として評価されます。
例えば、複数の不動産を所有する裕福な貸主が自己使用を主張するケースと、その店舗でしか生計を立てられない店主が立ち退きを迫られるケースでは、借主側の必要性がより高く評価され、貸主の正当事由が認められにくくなる傾向にあります。
賃貸借に関する従前の経過
賃貸借契約が締結されてから現在に至るまでの貸主と借主の関係性や、契約の運用状況も正当事由の判断に影響を与えます。例えば、借主が家賃を滞納したり、契約に違反して無断で物件の用途を変更したり、近隣に迷惑をかけるような行為を繰り返したりしていた場合は、借主にとって不利な事情となります。
一方で、借主が長年にわたり家賃をきちんと支払い、契約内容を遵守し、物件を丁寧に利用してきた模範的な賃借人であった場合は、借主にとって有利な事情として考慮されます。また、契約締結時に将来の建て替えを前提とした定期借家契約であったかどうかなども、従前の経過として判断材料に含まれることがあります。
建物の利用状況
契約内容に従って、例えば長年にわたり地域に根差した店舗として活発に営業を続け、地域社会に貢献しているような場合は、借主の利用の正当性を補強する材料となります。建物が有効に活用されているかどうか、契約内容と現状に乖離がないかといった点が評価の対象となります。
建物の現況(老朽化など)
建物の物理的な状態、特に「老朽化」は、貸主が立退きを求める理由としてよく挙げられます。しかし、「単に建物が古い」というだけでは、正当事由として認められることはほとんどありません。裁判所が重視するのは、築年数ではなく、建物の安全性や経済的合理性です。
具体的には、「耐震基準を満たさず、倒壊の危険性が客観的に存在する」「構造上の重大な欠陥があり、大規模な補修をしても安全性が確保できない、または補修費用が経済的に見て非合理的である」といった、客観的な危険性や合理的な建て替えの必要性が証明されなければ、強い理由にはなりません。
貸主が老朽化を主張する際には、建築士による耐震診断報告書や構造計算書など、客観的な証拠の提示を求めることが重要です。貸主の主張を鵜呑みにせず、専門家による客観的な判断を仰ぐようにしましょう。
財産上の給付(立退料)の提供
「立退料」は、貸主が立退きを求める際に借主に支払う金銭であり、正当事由を判断する上での重要な要素の一つです。しかし、立退料は「お金を払えば借主を強制的に立ち退かせられる権利」ではありません。むしろ、他の正当事由の要素が弱い場合に、その弱さを「補完する」役割を持つものと理解してください。
つまり、貸主側の立退きの必要性がそれほど高くないと判断されるようなケースでも、相当な立退料を提供することで、全体として正当事由が認められやすくなることがあります。
立退料の申し出の有無やその金額は、借主が立ち退くことによって被る不利益、例えば移転費用、新しい物件を探す費用、事業上の損失、精神的苦痛などと見合っているかどうかが厳しく判断されます。借主が被る損失に見合わない低額な立退料では、正当事由を補完する効果は期待できません。
立退料は正当事由を補完する役割を持つ
立退料は、貸主からの立退き要求の正当性を強化するための重要な要素ですが、その役割を正確に理解しておくことが肝心です。立退料は、天秤の片側に乗せる「重り」のようなものと考えると分かりやすいでしょう。
貸主側の建物使用の必要性や老朽化の程度といった他の正当事由の要素がそれほど強くない場合、いくら高額な立退料を提示したとしても、全体としての正当事由が認められない可能性があります。例えば、老朽化が全くなく、貸主も他に住む場所があるようなケースでは、高額な立退料があっても立退きが認められないことがあります。
その一方で、貸主側に一定程度の立退きの必要性(例えば中程度の老朽化など)が認められる場合に、適正な立退料を提供することで、正当事由が肯定される決定的な要素となることがあります。この場合、立退料は借主が被る移転費用や新たな店舗探しにかかる費用、さらには事業用物件であれば営業補償(休業補償や逸失利益)なども含めて、実損害に見合う形で算定される必要があります。
裁判所は、立退料の金額が借主の受ける不利益を十分に填補(てんぽ)するものであるかを厳しく審査します。単に「お金を払う」というだけでなく、その金額が客観的に見て妥当かどうかが、正当事由を補完する上で非常に重要なポイントとなるのです。
立退きの正当事由が認められにくい主な4つのケース
貸主から立退きを求められたとき、その要求が法的に「正当な理由」に基づいているのかどうかは、非常に重要なポイントです。借地借家法によって借主の権利は強く保護されており、貸主の一方的な都合だけでは立退きは認められません。
ここでは、具体的にどのような状況であれば、貸主の立退き要求が法的に認められにくいのか、典型的な4つのケースをご紹介します。ご自身の状況と照らし合わせて、理不尽な要求ではないか判断する際の参考にしてください。
単なる建物の老朽化
「建物が古いから」という理由だけで立退きが認められることは、ほとんどありません。裁判所が重視するのは、築年数そのものではなく、客観的な観点から「建物の倒壊の危険性が高いこと」や、「補修が物理的に不可能、または経済的に著しく不合理であること」といった具体的な危険性や合理性です。単に古いというだけでは、適切な修繕によって継続使用が可能であると判断される場合が多いでしょう。
もし貸主から老朽化を理由に立退きを求められた場合は、安易に応じる前に、耐震診断報告書や構造計算書など、建物の安全性を客観的に示す証拠の提示を求めるべきです。
こうした具体的な証拠なしに「古いから」という主張を鵜呑みにする必要はありません。専門家による適切な診断がなければ、その主張は法的な正当性を持ちにくいのです。
貸主の自己使用の必要性が低い
貸主が「自分がこの建物を使いたいから」と主張するケースも多く見受けられますが、その必要性が低いと判断されれば、正当事由は認められにくくなります。
たとえば、貸主が既に他にも居住可能な不動産を所有しているにもかかわらず、現在賃貸している物件に住みたいと主張する場合や、「息子夫婦のために使いたい」と言っているものの、その息子夫婦が既に近隣に住宅を持っている場合などがこれに当たります。
このような場合、貸主の主張する「自己使用の必要性」は、借主が長年住み慣れた住居や、生計を立てている店舗を失うことによって被る不利益と比べて、弱いと判断される傾向にあります。裁判所は、双方の事情を天秤にかけ、より切迫した必要性があるのはどちらかを総合的に判断しますので、貸主の都合だけで立退きが強制されることは稀なのです。
収益性向上が目的の建て替え
「古いアパートを取り壊して、もっと賃料の高い新しいマンションを建てたい」といった、貸主の経済的な収益性向上が主目的である建て替え計画は、正当事由として認められるハードルが非常に高いケースです。
確かに、貸主にとってより多くの収益を得たいという気持ちは理解できますが、それは借主の生活基盤や事業の継続を脅かすほどの強い正当事由とは見なされにくいからです。
裁判所は、このようなケースにおいて、貸主の一方的な都合を優先して借主を立退かせることが、借地借家法の趣旨に反すると判断する傾向にあります。
特に、長年その場所で営業を続けてきた小規模店舗の店主や、他に代替となる住居を見つけることが困難な借主の場合、経済的な利益追求だけを理由とした立退き要求は、極めて弱いと判断される可能性が高いでしょう。借地借家法は、経済的弱者である借主を保護するために存在していることを忘れてはなりません。
オーナーチェンジ(物件売却)
物件が売却されて所有者が変わった、いわゆる「オーナーチェンジ」の際に、「新しいオーナーになったから出ていってほしい」と要求されることがあります。
しかし、これは多くの人が誤解しがちな点ですが、オーナーチェンジ自体が立退きの正当事由になることはありません。賃貸借契約は、物件の所有者が変わっても、新しいオーナーにそのまま引き継がれるのが原則です(賃貸人たる地位の承継)。
したがって、新しいオーナーが立退きを求める場合でも、その新オーナー自身の事情に基づいて、改めて「正当事由」を具備する必要があります。単に「オーナーが変わったから」という理由では、法的な立退き要求として認められませんので、もしそのような要求を受けた場合は、慌てずに専門家へ相談することをおすすめします。
理不尽な立退き要求をされた場合の対処法と流れ
賃貸物件のオーナーから突然の立退き要求を受けたとき、多くの方が不安や混乱を感じることでしょう。しかし、理不尽だと感じる要求に対して、安易に諦める必要はありません。冷静に対応することで、状況をコントロールし、ご自身の権利を守ることが十分に可能です。
ここでは、立退き要求を受けた際に、まずどのようなステップで対応していくべきか、その具体的な対処法と流れを順を追って解説していきます。
通知書の内容を精査する
立退き要求の通知を受け取った際、慌てて対応する前に、まずは送られてきた「建物明渡通知書」の内容を冷静に確認することが非常に重要です。この通知書には、貸主が立退きを求める理由や、今後の交渉の出発点となる情報が含まれています。
具体的には、「立退きを求める理由(正当事由)は何か」「要求されている明渡しの期限はいつか」「立退料の提示はあるか、その金額はいくらか」「内容証明郵便など、どのような形式で送られてきているか」といった点を詳細に確認してください。これらの情報は、後の交渉や法的主張の根拠となるため、一つ一つ丁寧に精査することが大切です。
安易に合意せず、まずは専門家に相談する
立退き要求への対応において、最も重要な行動指針となるのが、「安易に合意しない」ことです。貸主からのプレッシャーや不安から、合意書にサインしたり、口頭で承諾したりすることは絶対に避けてください。一度合意してしまうと、後からその内容を覆すことは非常に困難になります。
貸主に返答をする前に、必ず立退き問題に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。弁護士は、あなたの状況や貸主の主張が法的にどのように評価されるか、客観的な「見立て」を提供してくれます。
貸主と交渉する(立ち退き料・時期など)
弁護士への相談を終え、ご自身の権利と状況を正確に把握した上で、次のステップは貸主との交渉です。多くの場合、この交渉は弁護士を代理人として行うことになります。弁護士が間に入ることで、感情的になりがちな直接交渉を避け、冷静かつ法的な根拠に基づいた話し合いを進めることが可能になります。
交渉の目的は、立退き要求そのものを撤回させるか、あるいは、より有利な条件を引き出すことにあります。
例えば、立退料の大幅な増額、移転準備のための十分な期間の確保、新しい賃貸物件のあっせんなどです。弁護士のサポートを受けることで、あなたは受け身の立場から、能動的に自身の権利を主張し、最適な解決策へと導くことができるようになるでしょう。
交渉が決裂した場合は法的手続きへ(建物明渡請求訴訟)
もし貸主との交渉がまとまらなかった場合でも、絶望する必要はありません。次の段階として、貸主側が裁判所に対し、建物の明渡しを求める訴訟(建物明渡請求訴訟)を提起する可能性があります。これは、公正な第三者である裁判官が、法律に基づいて正当事由の有無を判断する正式な手続きの始まりです。
この段階になっても、弁護士と共に法廷で貸主の主張に反論し、ご自身の権利を主張していくことになります。裁判の過程で、改めて双方の主張や証拠が吟味され、裁判上の和解が成立することも少なくありません。法的手続きは複雑に思えるかもしれませんが、弁護士の助けを借りることで、あなたは冷静に、そして法的に守られた状況で問題解決を目指すことができるのです。
立退き問題で弁護士に相談する3つのメリット
正当事由の有無を法的に正確に判断できる
インターネットで立退きに関する情報を調べていると、断片的な知識や一般論に触れる機会も多いかと思います。しかし、立退き問題は個々の状況によって判断が大きく異なり、「ご自身のケースにその情報が当てはまるのか」という具体的な判断は非常に難しいものです。
弁護士は、皆さんの具体的な状況、つまり賃貸借契約書の内容、建物の状態、貸主さんとのこれまでのやり取り、そして皆さんの生活や事業の状況などを詳細にヒアリングし、借地借家法や過去の判例に照らし合わせて、貸主さんが主張する「正当事由」が法的に認められる可能性を客観的かつ正確に判断してくれます。
この専門家による「見立て」は、今後の交渉や法的手続きを進める上で、皆さんが理不尽な要求に屈することなく、自信を持って対応するための羅針盤となるでしょう。
立ち退き料の増額など有利な条件で交渉を進められる
立退き問題において、立退料は非常に重要な要素です。しかし、立退料の相場や適正な金額、その算定方法は一般の方にはわかりにくいものです。特に事業用物件の場合、移転費用だけでなく、長年築き上げた顧客基盤や「のれん」といった無形の財産的価値、休業による営業損失なども考慮する必要があり、その算定は複雑を極めます。
弁護士は、これらの法的知識と実務経験に基づき、皆さんが被るであろう損害を具体的に算出し、貸主さんに対して適正な立退料を主張することができます。個人で交渉するよりも、弁護士が代理人として交渉に臨むことで、立退料の大幅な増額や、移転準備のための十分な期間の確保など、より有利な条件を引き出せる可能性が格段に高まります。
結果として、弁護士費用を支払ったとしても、それを上回る経済的な利益を得られるケースは少なくありません。これは、費用対効果を重視する皆さんにとって、非常に合理的な投資であると言えるでしょう。
貸主との直接交渉による精神的ストレスを軽減できる
貸主さんとの直接交渉は、精神的に大きな負担となることがあります。特に、相手が高圧的な態度であったり、専門用語を並べ立てたりするような場合、感情的になってしまい、冷静な判断が難しくなることも少なくありません。ご自身が「理不尽に押し切られる」と感じることは、大きな屈辱感となり、本業である店の経営やご家族との生活に悪影響を及ぼす可能性もあります。
弁護士に依頼することで、皆さんは貸主さんとの直接交渉から解放されます。弁護士が皆さんの代理人として、全ての窓口となり、法律に基づいた冷静な交渉を進めてくれます。これにより、精神的なストレスから解放され、安心して普段の生活や仕事に集中できるようになります。法的専門家が間に入ることで、皆さんの尊厳が守られ、対等な立場で問題解決を図れるという、心理的なメリットも非常に大きいと言えるでしょう。
まとめ
貸主からの立退き要求は、必ずしも法的に有効とは限りません。法律上、「正当事由」という非常に厳格な要件が定められており、これが認められない限り、借主は立退きに応じる義務はないのです。
本記事では、この正当事由を判断する際に考慮される貸主と借主の必要性、賃貸借の経緯、建物の利用状況、建物の現況、そして立退料の提供という5つの要素を詳しく解説しました。
もし、あなたが今、貸主から理不尽な立退き要求を受けているのであれば、決して一人で抱え込まず、まずは専門家である弁護士に相談してください。
弁護士は、あなたの状況が法的にどのように評価されるのかを正確に判断し、適切な交渉戦略を立て、場合によっては裁判を通じてあなたの権利を守ってくれます。弁護士のサポートを得ることで、精神的な負担を軽減し、金銭的にも有利な解決を目指すことができるでしょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。
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