派遣社員の労災、責任は誰に?泣き寝入りしないための手続きと相談先
2026年05月21日

派遣社員として働いているときに、仕事中や通勤中にケガをしたり、病気になったりしたら…。「誰に報告すればいいの?」「治療費は?」「責任は誰がとってくれるの?」と、たくさんの不安が頭をよぎるはずです。
派遣という働き方は、雇用契約を結ぶ「派遣元(派遣会社)」と、実際に仕事の指示を受ける「派遣先」が異なるため、責任の所在が分かりにくいと感じる方も少なくありません。
しかし、結論から言えば、派遣社員も労働者として労災保険で手厚く保護されます。そして、労災の責任は派遣元と派遣先の両方が負うケースがほとんどです。
この記事では、派遣社員が労災に遭ってしまったときに、泣き寝入りせずに正当な補償を受けるための知識と具体的な行動を、分かりやすく解説します。
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派遣社員も労災保険の対象!まずは基本を知ろう
まず、最も大切なことをお伝えします。派遣社員、契約社員、パート、アルバイトといった雇用形態にかかわらず、企業に雇用されて働くすべての労働者は、労災保険の対象です。派遣社員だからといって、労災保険の適用で不利になることは一切ありません。
そもそも労災(労働災害)とは?
労災保険の対象となる労働災害には、「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。
業務災害:仕事が原因のケガや病気
業務災害とは、労働者が事業主の支配下にある状態で、業務が原因となって発生したケガや病気、死亡のことです。 具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 派遣先の工場で、機械の操作を誤って指をケガした
- 派遣先のオフィスで、コピー用紙を運んでいる最中に転倒して骨折した
- 長時間労働や上司からのパワハラが原因で、うつ病を発症した
「自分の不注意だから…」と思うようなケースでも、業務との関連性が認められれば労災と認定される可能性は十分にあります。
通勤災害:通勤中の事故
通勤災害とは、労働者が通勤中に被ったケガや病気、死亡のことです。ここでの「通勤」とは、住居と就業場所(派遣先)との間の往復などを、合理的な経路および方法で行うことを指します。
- 自宅から派遣先へ自転車で向かう途中で、車にはねられた
- 派遣先から最寄り駅へ向かう途中で、駅の階段から転落した
寄り道をした場合でも、日用品の購入など、日常生活上必要な行為であれば、元の通勤ルートに戻った後は再び通勤災害の対象となります。
派遣社員特有の複雑な関係性
派遣社員が労災に遭ったときに話が複雑になりがちなのは、下の図のように「派遣元」「派遣先」「派遣社員」という三者関係にあるからです。
- 派遣元(派遣会社)
あなたと雇用契約を結んでいる会社。給与の支払いや社会保険の手続きを行う。 - 派遣先企業
あなたが実際に働き、仕事の指示を受ける会社。 - あなた(派遣社員)
派遣元と雇用契約を結び、派遣先の指揮命令のもとで働く。
この関係性から、「労災保険の手続きは派遣元」「職場の安全管理は主に派遣先」といった役割分担が生まれます。これが「責任は誰にあるのか?」という疑問につながるのです。
【結論】労災の責任は派遣元と派遣先の両方が負う
派遣社員の労災における責任は、その内容によって異なりますが、基本的には「派遣元」と「派遣先」の両方が負います。責任は大きく分けて「労災保険の適用に関する責任」と「職場の安全を守る責任」の2つがあります。
労災保険の適用・申請窓口は「派遣元(派遣会社)」
労災保険の加入手続きを行い、保険料を納付しているのは、あなたを雇用している派遣元です。したがって、労災保険給付の申請手続きを行う際の窓口は、原則として派遣元(派遣会社)となります。
あなたが労災に遭った場合、派遣元は労働基準監督署に対して、必要な書類を提出する義務を負っています。派遣先企業が「うちは関係ない」と言っても、手続きの義務は派遣元にあります。
職場の安全を守る責任(安全配慮義務)は「派遣先」と「派遣元」の両方
労働契約法では、企業は労働者が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」を負うと定められています。派遣社員の場合、この安全配慮義務は派遣先と派遣元の両方が負います。
派遣先企業の責任
派遣先は、あなたに直接仕事の指示を出し、あなたが働く場所の環境を管理しています。そのため、労働現場の安全を確保する直接的かつ主要な責任を負います。
具体的な責任内容
- 機械や設備の安全対策(安全装置の設置、定期的なメンテナンスなど)
- 危険な作業手順の改善、適切な保護具の支給
- 整理整頓された安全な作業環境の維持
- 過重労働の防止やメンタルヘルス対策
- ハラスメントの防止措置
もし、派遣先がこれらの義務を怠った結果として労災が発生した場合、派遣先は安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。
派遣元企業の責任
派遣元は、あなたを雇用する事業主として、あなたが安全な環境で働けるように配慮する責任を負います。派遣先の現場を直接管理しているわけではありませんが、責任がゼロになるわけではありません。
具体的な責任内容
- 派遣契約を結ぶ際に、派遣先の労働環境が安全かどうかを確認する
- 派遣社員に対して、事前に安全衛生教育を行う
- 派遣社員から労働環境に関する相談や苦情があった場合に、派遣先に対して改善を求める
- 派遣先が適切な安全対策を講じていないと知った場合に、派遣を停止するなどの措置をとる
派遣元が「派遣先に任せていた」という言い分は通用せず、派遣先と連携してあなたの安全を守る義務があるのです。
労災発生!その時に派遣社員がすべき4つのステップ
実際に労災と思われる事故が発生したら、パニックにならず、落ち着いて以下の4つのステップで行動してください。
派遣元と派遣先の両方にすぐ報告
まず、事故の状況を派遣元(派遣会社の担当者)と派遣先(現場の上司や責任者)の両方に、できるだけ速やかに報告してください。
- 派遣先への報告理由
現場の状況を把握し、救護や再発防止策を講じてもらうため。 - 派遣元への報告理由
労災保険の申請手続きを進めてもらうため。
可能であれば、電話だけでなく、メールなど記録に残る形で報告しておくと、後のトラブル防止につながります。「いつ、どこで、誰が、何をしていて、どうなったか」を具体的に伝えましょう。
病院で診察を受ける(労災指定病院がおすすめ)
ケガの程度にかかわらず、必ず病院で医師の診察を受けてください。その際、「労災指定病院(労災保険指定医療機関)」を受診することをおすすめします。
労災指定病院であれば、必要な書類を提出することで、治療費などを窓口で支払う必要がなくなります。近くの労災指定病院は、厚生労働省のウェブサイトで検索できます。
もし、救急搬送された病院が労災指定病院でなかったり、近くになかったりした場合でも、一旦治療費を全額自己負担で支払い、後から労働基準監督署に請求すれば払い戻しを受けられます。
派遣元に労災保険の申請手続きを依頼する
病院での診察後、派遣元(派遣会社)に労災保険を使いたい旨を伝え、申請手続きを依頼します。
派遣元は、労働基準監督署に提出するための請求書(例:療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号))を用意してくれます。あなた自身が記入すべき箇所(事故の発生状況など)を書き込み、派遣元に提出すれば、その後の手続きは基本的に派遣元が進めてくれます。
事故の状況ややり取りの証拠を残す
万が一、会社が労災申請に非協力的だったり、後で損害賠償請求を考えたりする場合に備え、以下の様な証拠をできるだけ集めておきましょう。
- 事故現場やケガの写真
- 病院の診断書、診療明細書
- 派遣元・派遣先の担当者とのやり取りの記録(メール、通話の録音など)
- 事故を目撃した同僚の氏名や連絡先
- タイムカードや業務日報など、労働時間や業務内容がわかるもの
これらの証拠は、あなたの主張を裏付けるための重要な武器となります。
労災で受けられる2種類の補償|労災保険だけでは不十分なことも
労災に遭った場合、あなたは2種類の補償を受けられる可能性があります。1つは労災保険からの給付、もう1つは会社に対する損害賠償請求です。
労災保険から受けられる主な給付
労災保険から実際に受け取れる給付額の全体像と計算方法については、以下の記事でわかりやすく解説しています。
ここでは代表的なものを紹介します。
療養(補償)給付:治療費など
労災によるケガや病気の治療にかかる費用です。診察費、手術費、薬代、入院費、通院交通費などが、症状が治ゆ(または症状固定)するまで給付されます。
休業(補償)給付:仕事を休んだ際の生活補償
労災によるケガや病気のために仕事を休み、賃金を受けられない場合に支給されます。休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の80%(休業(補償)等給付60%+休業特別支給金20%)が支給されます。
休業給付がいつからいつまで支給されるか、期間や計算方法の詳細はこちらの記事をご覧ください。
障害(補償)給付:後遺障害が残った場合
治療を続けてもこれ以上の回復が見込めない状態(症状固定)になり、身体に障害が残った場合に支給されます。障害の程度に応じて第1級から第14級までの等級が認定され、等級に応じて年金または一時金が支払われます。
会社(派遣元・派遣先)への損害賠償請求
労災保険の給付は、治療費や最低限の生活補償が中心です。しかし、労災によって被った損害のすべてをカバーするものではありません。
もし、労災の原因が派遣元や派遣先の安全配慮義務違反にある場合、労災保険からの給付とは別に、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
労災保険給付とは別に会社へ損害賠償請求できる根拠や手続きについては、こちらをご覧ください。
慰謝料や逸失利益は損害賠償請求で対応が必要
労災保険では、精神的な苦痛に対する「慰謝料」は支払われません。また、休業補償は給与の100%ではありませんし、後遺障害によって将来得られるはずだった収入が減ってしまった分(逸失利益)の全額が補償されるわけでもありません。
これらの不足分は、会社への損害賠償請求によってのみ、補償を求めることができます。特に、後遺障害が残るような大きな事故の場合、損害賠償請求ができるかどうかで、受け取れる金額が大きく変わってきます。
労災事故で慰謝料を請求できるケースや相場については、以下の記事で詳しく解説しています。
泣き寝入りしない!会社が非協力的な場合の対処法
残念ながら、会社によっては労災保険の手続きに協力してくれなかったり、「労災隠し」をしようとしたりするケースもあります。しかし、絶対に泣き寝入りしてはいけません。
「労災隠し」は犯罪!会社の典型的な言い分と反論
会社が労災申請を嫌がるのは、労災保険料が上がる可能性や、労働基準監督署の調査が入ることを恐れるためです。しかし、労災の発生を意図的に報告しない「労災隠し」は、労働安全衛生法違反の犯罪です。
会社が使う典型的な言い分と、それに対する正しい知識を知っておきましょう。
会社の言い分①:「派遣だから、うちの会社では労災申請できない」
反論:労災申請の窓口は派遣元ですが、事故が起きたのはあなたの会社の現場です。安全配慮義務があり、無関係ではありません。派遣元に報告し、手続きを進めてもらいます。
会社の言い分②:「君の不注意が原因だろう。労災にはならない」
反論:労働者の多少の不注意(過失)があったとしても、業務中に発生した災害であれば、原則として労災は認定されます。労災認定を行うのは会社ではなく、労働基準監督署です。
会社の言い分③:「手続きが面倒だから、健康保険を使ってくれないか」
反論:業務上・通勤上のケガや病気に健康保険を使うことは、法律で禁止されています。不正利用にあたるため、応じられません。
会社の言い分④:「労災申請なんてしたら、次の契約更新はないかもしれないよ」
反論:労働者が労災申請したことを理由に、解雇や契約を更新しないといった不利益な取り扱いをすることは、労働基準法で禁止されており違法です。
会社を通さず自分で労働基準監督署に申請する
もし派遣元がどうしても労災申請の手続きに協力してくれない場合でも、諦める必要はありません。あなたは自分自身で、管轄の労働基準監督署に直接、労災保険の給付を請求することができます。
労働基準監督署の窓口で「会社が労災の手続きをしてくれない」と相談すれば、必要な書類や手続きの方法を教えてくれます。このとき、事故の状況を記録した証拠が非常に役立ちます。
損害賠償請求も視野に弁護士へ相談する
会社が労災申請に非協力的である場合、自社に何らかの落ち度(安全配慮義務違反)がある場合も多くあります。このような場合は、慰謝料などを含む損害賠償請求を積極的に検討すべきです。
損害賠償請求は、法律の専門知識が必要なため、個人で進めるのは困難です。労働問題、特に労災案件に強い弁護士に相談することをおすすめします。
派遣社員の労災問題を弁護士に相談すべき理由
「弁護士に相談するなんて大げさな…」と思うかもしれません。しかし、派遣社員の労災問題は複雑なため、専門家である弁護士に相談するメリットは非常に大きいのです。
労災問題を弁護士に依頼する具体的なメリットや費用の目安は、以下の記事でまとめています。
複雑な責任関係を整理し、誰に請求すべきか判断してくれる
派遣元と派遣先、どちらに、どの程度の責任があるのか。法的な観点から正確に分析し、損害賠償を請求すべき相手と、その根拠を明確にしてくれます。
会社との交渉や手続きをすべて任せられる
ケガの治療をしながら、会社と交渉するのは精神的にも肉体的にも大きな負担です。弁護士に依頼すれば、あなたの代理人として、会社との交渉や法的な手続きをすべて任せることができます。
適切な後遺障害等級の認定をサポートしてくれる
後遺障害が残った場合、認定される等級によって受け取れる賠償額が大きく変わります。弁護士は、適切な等級認定を得るために、医師が作成する「後遺障害診断書」の内容をチェックしたり、必要な検査についてアドバイスしたりといった専門的なサポートを提供してくれます。
慰謝料などを含めた正当な賠償額を請求できる
弁護士は、過去の裁判例に基づいた「裁判所基準」で慰謝料などを計算します。これは、個人が交渉して得られる金額よりも高額になることがほとんどです。会社側も、弁護士が出てくることで真摯な対応をせざるを得なくなります。
弁護士費用が不安な方は、費用特約を使える場合があります。詳しくはこちらをご覧ください。
派遣社員の労災に関するよくある質問
Q:治療費は一度立て替える必要がありますか?
A:労災指定病院で受診すれば、窓口での支払いは原則不要です。労災指定病院以外の病院で受診した場合は、一旦ご自身で治療費を全額立て替えて支払い、後日、労働基準監督署に「療養の費用請求書」を提出することで、かかった費用が払い戻されます。
Q:派遣契約が終了した後でも労災申請や損害賠償請求はできますか?
A:はい、できます。労災保険の請求権には時効がありますが、契約が終了しても権利が消えるわけではありません。例えば、治療費を請求する権利(療養補償給付)は2年、後遺障害が残った場合の給付(障害補償給付)は5年です。また、会社への損害賠償請求権の時効は、原則として損害および加害者を知った時から5年(人の生命または身体を害する場合)です。事故当時の雇用関係が証明できれば、契約終了後でも請求は可能です。
Q:労災申請をしたら、契約を更新してもらえなくなるのが心配です。
A:労災申請を理由として、労働者を解雇したり、契約を更新しなかったりすることは「不利益な取り扱い」として法律で固く禁じられています。もし、そのようなことを示唆されたり、実際に雇止めに遭ったりした場合は、明らかな違法行為ですので、すぐに労働基準監督署や弁護士に相談してください。
まとめ:派遣社員だからと諦めないで。労災は労働者の権利です
派遣社員として働いていて労災に遭ったとき、責任の所在が分かりにくく、不安に感じることが多いかもしれません。
しかし、この記事で解説したように、
- 派遣社員も正社員と同様に労災保険で保護される
- 労災の責任は派遣元と派遣先の両方が負う
- 会社が非協力的でも、自分で申請したり、弁護士に相談したりする道がある
ということを、ぜひ覚えておいてください。
労災にあうことは誰のせいでもありません。そして、労災保険を使って治療を受け、正当な補償を求めることは、雇用形態にかかわらない、すべての労働者に与えられた正当な権利です。
決して「派遣だから」と一人で抱え込み、泣き寝入りしないでください。あなたの身体と生活を守るために、勇気を出して一歩を踏み出し、専門家の力を借りることも検討しましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。
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