離婚で慰謝料などの口約束はNG?

最終更新日: 2023年07月04日

はじめに

配偶者が不倫をした場合、不倫相手との関係では慰謝料請求が問題となり、配偶者との間では離婚するかどうかが問題となります。

そして不倫をした夫(妻)と話し合った結果、離婚することになった場合、慰謝料、財産分与、養育費などの離婚条件を決めることになります。この離婚条件についてですが、契約書の作り方はわからないし、面倒だという理由で口約束したままにしてしまうケースがしばしば見られます。

しかし、口約束した内容を相手がちゃんと守ってくれなくなった場合、真にその内容で合意したことを立証することは困難です。

そこで、以下ご説明しますとおり、離婚条件について合意した場合は、速やかに書面化することが重要です。

不倫は離婚の理由になる

民法は、離婚裁判を提起できる場合として不貞行為を挙げています(770条1項1号)。

このように不倫は離婚理由になりますが、裁判所は、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは離婚請求を棄却できるとも規定しています(同条2項)。

つまり、配偶者が不倫をすれば、その一事だけをもって必ず裁判所が離婚を認めてくれるわけではなく、価値観の相違で喧嘩が絶え合い、性交渉が長期間ない等、夫婦関係の破綻を基礎づける事実について積み重ねて主張することが必要です。

もっとも、夫婦間の協議で離婚する場合には、夫婦が離婚することに納得すればその理由に制限はありません。

離婚協議書の作成

夫婦双方が離婚することに納得して、慰謝料などの離婚条件について合意したときは、必ず、その合意内容の証拠として契約書を作成しましょう。

表題

表題は、「離婚協議書」が一般的ですが、「離婚合意書」でも、単に「合意書」でも法的効力に違いはありません。

一方、「誓約書」や「念書」は、夫婦双方が合意したというよりは、一方の他方に対する約束というニュアンスが強いため適切ではないでしょう。

また、「示談書」という表題は、夫婦間で紛争が発生し、その紛争解決の和解書というニュアンスが強いため、一般的ではありません。

離婚協議書には、以下のとおり、慰謝料、財産分与、養育費、子との面会交流などの内容を記載することになります。

慰謝料請求

配偶者がよその男性(女性)と肉体関係をもった場合、法律上それは婚姻関係を侵害する不法行為(民法第709条)となりますので、不貞をされた配偶者は、有責配偶者と不貞相手双方に慰謝料請求をすることができます。なお、不貞行為となる肉体関係には、性交渉だけでなく、性交類似行為やキスも含まれます。

浮気を理由に離婚する場合、厳密には有責配偶者が他方に支払う慰謝料には、離婚することになったことによる精神的苦痛を慰謝するための「離婚慰謝料」と、不貞行為による精神的苦痛を慰謝するための「不貞慰謝料」の二つがあります。

もっとも、離婚協議書において、慰謝料について、「離婚慰謝料」は幾らで、「不貞慰謝料」は幾らと分けて記載はせず、単に「離婚に伴う慰謝料」とのみ記載するのが通常ですし、実際、離婚と不貞の精神的苦痛について、一方がどれくらいで他方がどれくらいと算定すること困難です。

不貞慰謝料については、有責配偶者と浮気相手が連帯して支払う義務を負いますので、有責配偶者から十分な支払いが得られない場合には、浮気相手に対して慰謝料請求をすることもできます。

【条項例】
 乙は、甲に対し、離婚に伴う慰謝料として金200万円の支払い義務があることを確認し、これを以下のとおり分割して、毎月末日限り、甲指定の預金口座に振り込んで支払う。
(1)令和元年1月から令和元年6月まで毎月30万円
(2)令和元年7月 20万円

財産分与

財産分与は、入籍後に夫婦それぞれが得た財産(負債も含む。)を精算するものです。その対象には預金、不動産、動産、有価証券など既にある財産のほか、退職金など将来得る可能性のある財産も含まれる可能性があります。

【条項例】

  1.  乙は、甲に対し、財産分与として、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について乙の持分3分の1の全部を譲渡し、令和元年6月20日限り、本日付財産分与を原因とする相手方の共有持分全部移転の登記手続をする。登記手続費用は乙の負担とする。
  2.  甲は、乙に対し、財産分与として金200万円を支払う義務があることを確認し、これを令和元年6月20日限り、持参して支払う。
  3.  第1項の登記移転義務と第2項の金員支払義務は同時履行とする。

親権者・監護権者

子の住まいを決めるなど子の日常生活全般の様々な事を決定する権利である監護権は親権の一内容で、通常は、離婚の際に親権者のみを定めます。

しかし、様々な事情で親権と監護権を分属させたいという要望があり得、その場合には、離婚協議書において下記条項例のような規定を設けることになります。

【条項例】
当事者間の長男太郎(平成23年1月1日生)の親権者を母である乙と定め、監護者を父である甲と定める。

養育費

養育費の金額は、夫婦間で自由に決めることができますが、その際には、家庭裁判所実務で利用されている夫婦双方の収入で養育費負担を按分する標準算定方式を参考にすると良いでしょう。

ただし、標準算定方式は公立学校(高校まで)の学費を前提としていますので、私立学校の学費負担や、大学の学費は別途に協議が必要です。

【条項例】

  1.  甲は、乙に対し、長男太郎(平成23年1月1日生)の養育費として、令和元年1月1日から同人が満20歳に達する日の属する月まで10万円を、毎月末日限り、乙指定の預金口座に振り込む方法によって支払う。
  2.  甲は、乙に対し、長男が高校卒業後、20歳に達する日までに進学したときは、当該教育機関の入学に要する費用及び年間授業料の2分の1に相当する金額を入学月の末日限り、前項の預金口座に振り込む方法によって支払う。

 

面会交流

親が子と面会交流することは、親の権利ではありませんので、法的にそれを請求する権利があるわけではありません。当事者間で折り合いがつかない場合には、家庭裁判所が子の福祉の見地から面会交流の方法について決定します。

【条項例】
乙は、甲に対し、乙が長男太郎と月2回の面会をすることを認める。その日時、場所、方法については、当事者間で協議して定める。

離婚協議書について公正証書作成を検討しましょう

慰謝料や養育費など金銭の支払いについて、特に分割払いとなっている場合には、将来、その支払いが滞る事態に備えて公証役場で公正証書にすることを検討すべきでしょう。

離婚協議書に記載の支払い義務が滞った場合、まずは訴訟をして勝訴判決を得て、その上で相手の財産に強制執行をする必要がありますが、公正証書にしておけば訴訟を経ずに強制執行が可能となります。

ただし、離婚協議書の内容によっては公正証書にできない場合や、公正証書としても直ちに強制執行に進めない内容があり得ますので、離婚協議書の内容については事前に弁護士や公証人と相談しましょう。

なお、公正証書作成の費用は数万円ですが、その内容によって異なりますので、公証役場に内容を見てもらって確認する必要があります。

最後に

以上、離婚協議書についてご説明いたしました。慰謝料の支払いだけなど単純な内容であれば、弁護士に依頼せず、公証役場にそのまま持ち込んで公正証書にしてもらうことで良いでしょう。

内容が単純ではない場合や、そもそも離婚条件について配偶者と折り合いがつかないという場合には、離婚後に後悔しないために弁護士に相談することをお勧めします。

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