労災でも損害賠償請求はできる?労災に強い弁護士が徹底的に解説!
2023年05月23日
ご自身やご家族が労災事故に遭って、大けがをしたり、働けなくなってしまった場合、国の労災保険の補償だけで今後の生活をしていかなければならないのでしょうか。
怪我をさせた会社などに、生活の補償や、損害賠償を求めることはできないのでしょうか。
今回は、労災事故で損害賠償が可能な場合について、詳しく解説していきます。
時間の無い人はここを読むだけでOK!詳細は弁護士が無料相談でお答えします。
●労災事故について会社や第三者に損害賠償請求をする場合の法的な根拠や構成について説明しています。
●損害賠償請求をする場合の各損害費目や、過失相殺や損益相殺など、損害額の計算方法の概要を説明しています。
●損害賠償請求のタイミングについて説明しています。
労災事故で損害賠償請求ができる4つのケース
労災保険から支払われる給付だけでは、労災事故で受けた被害や損害のすべてを補填するには不十分なことが多いです。
会社や第三者に法的責任がある場合には、労災保険から受け取った給付以外にも、当該会社や第三者に損害賠償請求が可能となります。
では、いったい、どのような場合には、会社や第三者に損害賠償請求ができるのでしょうか。
今回は、会社や第三者に対して損害賠償請求ができる場合として、以下の4つのケースをご紹介します。
- 安全配慮義務違反の場合
- 使用者責任の場合
- 工作物責任の場合
- 第三者行為災害による場合
安全配慮義務違反による損害賠償請求
まずは安全配慮義務違反による損害賠償請求です。
安全配慮義務とは、労働者を雇用する会社に課される義務の1つで、「労働者がその生命や身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮」をする義務をいいます。
この義務は、使用者(会社)が、労働契約に基づいて賃金支払義務を負うだけでなく、労働契約に特段の根拠規定や記載がなくても、労働契約に付随する義務として、当然に負う義務であり、労働契約法5条にも記載があります。
つまり、安全配慮義務違反とは、この義務が果たされなかった場合をさします。
たとえば、以下のような場合が典型的な例です。
- 高所作業の際に、落下防止用の柵を設置していなかったことで、転落事故が起きた
- 高温の室内での作業を長時間継続させたことで熱中症が生じた
- 月平均100時間もの残業を継続させたことで、うつ病になった
このように、会社が、労働者の生命・身体の安全等を確保するよう配慮する義務を怠っていた場合には、安全配慮義務違反を理由に、損害賠償請求を行うことができます。
法的な構成としては、「民法709条の不法行為による損害賠償請求」または「民法415条の債務不履行による損害賠償請求」です。
いずれの請求権を行使することも可能ですが、時効や遅延損害金などの考え方に差異がありますので、詳細は弁護士に相談するようにしてください。
なお、直接の雇用契約をしていなくとも、たとえば元請業者と下請業者との間に、実質的な指揮監督関係が存在するのであれば、元請業者は安全配慮義務を負うことがあります。
派遣社員についても同様で、原則として派遣元の企業が安全配慮義務を負っていますが、派遣先において実質的に指揮監督していると認められれば、派遣先企業が安全配慮義務を負うこともあります。
さらに、解雇などで退職した後であっても、在職中に安全配慮義務違反による事故が発生していたのであれば、損害賠償請求を行うことが可能です。
使用者責任による損害賠償請求
次に、使用者責任による損害賠償請求について説明いたします。
民法715条1項は、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。
簡単に言えば、使用者責任は、業務中に、他の労働者・従業員が起こした不法行為について、使用者である会社が責任を負うということを意味します。
たとえば、以下のようなケースが考えられます。
- 同僚の機械操作の不注意で、自分が怪我をさせられてしまった
- 上司が誤った指示をしたことで、自分が怪我をした
つまり、怪我をした労働者は、直接の怪我の原因となった同僚などの他の労働者に対してだけでなく、会社にも損害賠償を求めることができるのです。
工作物責任による損害賠償請求
民法717条1項は、工作物責任として、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」と規定します。
土地の工作物が、通常有するべき安全性を欠いていた場合に、その安全性の欠如が原因となって事故が発生した場合には、労働者は、工作物の占有者に対して、その事故で受けた損害の賠償を求めることが可能です。
たとえば、以下のようなケースが考えられます。
- 会社の建物内で火災が発生したが避難経路が確保されておらず大けがをした。
- 工事現場の足場の組立てが不十分で、足場が倒壊した
- 会社の看板が落下して怪我をした
第三者行為災害による損害賠償請求
最後は、第三者災害による損害賠償です。
これは、会社への請求ではなく、第三者の行為によって被災した場合に当該第三者に対して損害賠償請求をすることを意味します。
たとえば、通勤中に自動車事故に巻き込まれた場合の加害車両の運転手などが、この「第三者」にあたります。
法律上の根拠は、民法709条の不法行為によると考えられます。
労災事故で損害賠償ができる「損害」とは?
これまで、労災事故で損害賠償をするための法律上の根拠について、検討を加えました。
では、会社や第三者に対して請求ができる「損害」には何が含まれるのでしょうか。
損害賠償の対象となる主な費目
主な項目としては、治療費・治療関係費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料、逸失利益などが想定されます。
ただし、先に労災保険からの給付を受けている費目については、労災保険からの支払では不十分な部分(労災保険の給付を超える部分)についてのみ請求が可能です。
以下、それぞれ確認してみましょう。
治療費・治療関係費
治療関連費としては、災害によって受傷した怪我の治療費・入院費、また、通院に関る交通費などがあります。
労災保険から全額について給付を受けている場合もありますので、労災保険からの受給額を把握する必要があります。
休業損害
休業損害とは、労働災害によって怪我を負った被害者が、入院期間、通院期間に仕事を休んだことにより、収入が減少した場合の減収分の補償です。
労災保険からは、事故直近の3か月の平均賃金の60%を休業(補償)給付として、20%を特別支給金として受け取ることが可能です。
ただし、特別支給金は、損害の補填を受けたという扱いではなく、あくまでも労働福祉事業の一環として特別に支給をしてもらったという扱いになるため、会社への請求時に差し引きをする必要はありません。
つまり、会社には、40%分の休業損害を請求することが可能です。
入通院慰謝料
入院・治療・怪我に対する慰謝料は、災害によって被害者が受けた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
入院・治療・怪我に対する慰謝料の計算は、入通院の日数や症状の程度によって決まります。
詳しくは、こちらの記事をご参照ください。
慰謝料は、労災保険からは出ませんので、安全配慮義務違反のある事業主に対して全額請求することになります。
後遺障害慰謝料
労災により後遺障害が認定された場合には、認定された後遺障害等級に応じて、後遺障害慰謝料を請求することができます。
実務上は、障害等級に応じて慰謝料額が定められています。
各等級の具体的な慰謝料額については、こちらの記事をご参照ください。
死亡慰謝料
労災事故によって労働者が死亡してしまう死亡事故が発生した場合には、その死亡という結果に対する精神的損害に対して、慰謝料が発生するとされています。
なお、この時点で、労働者本人は死亡していますから、労働者本人の慰謝料請求権は相続人に相続されます。また、この労働者本人の慰謝料とは別に、近親者が自らの立場において固有の慰謝料(近親者慰謝料)を有する場合もあります。
逸失利益
労災により後遺障害が認定された場合には、後遺障害によって今後の労働能力の低下が認められ、本来得られたはずの収入が得られないおそれが生じます。
この得られたはずの収入を、「逸失利益」として請求することができます。
この労働能力の低下は、特殊な事案を除いて、後遺障害等級に応じて労働能力喪失率が認められることとなります。
労災からは、障害(補償給付)が支払われることになるので、この金額を控除する必要があります。
ただし、年金払いの場合など、細かな計算が必要になることも多く、弁護士に相談することをお勧めします。
労災の損害賠償の計算方法
さて、様々な損害について説明をいたしましたが、具体的な損害賠償額は、どのように計算すればよいのでしょうか。
1 まずは、先ほど説明をした各損害項目を計算し、これを積算します。
2 次に過失相殺や素因減額を行います。
過失相殺とは、労災事故の発生について従業員にも落ち度がある場合に、その過失に応じた損害賠償額の減額を行うことです。
民法722条2項は、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と規定しており、これが過失相殺の根拠とされています。
素因減額は、損害の発生や拡大について、当該労働者がもともと持っていた私傷病や習慣などが原因となっている場合に、その点を考慮した賠償がなされることをいいます。
たとえば、脳梗塞が発症した事例について、従業員の飲酒や喫煙の習慣が考慮される場合などがあります。
3 最後に損益相殺を行います。
損益相殺は、労働者が労災保険や公的年金から支給を受けている場合は、これを差し引きすることをいいます。
ただし、労災保険からの支給についても差し引きをすることが認められている費目と認められていない費目があります。
たとえば、休業損害における特別支給金は、差し引きをされない費目とされています。
また、差し引きをする対象となる費目についても限定されている場合があり、専門的な知識がなければ、正確な計算をすることは困難です。
以上の1から3の流れで、最終的に請求をする損害額が確定いたします。
労災の損害賠償が可能になるタイミングは?
では、損害賠償請求は、いつから可能なのでしょうか。
上記のとおり、実際の損害額の計算では、被災者が被った損害の額から、被災者が労災保険などから受け取った支給金の額を控除する必要があります。
したがって、被災者が被った損害の額が確定し、被災者の受給額などが確定した段階で、損害賠償額を提示することが適切です。
まず、死亡事故について見ていきます。
死亡事故の場合、死亡という結果が発生した時点で、被災者及びその遺族が被った損害を具体的に確定させることができます。
したがって、あとは遺族(補償)年金や葬祭料の支給が決まった段階で、賠償金額を算定し、会社側へ請求することが可能となります。
次に、病気や怪我などの場合です。
治療が必要な病気や怪我などの場合には、「治ゆ」(病気や怪我が治ったというだけでなく、症状が残存したまま変わらないという「症状固定」も含む概念です)とされる時点まで治療を受けることが必要です。
そして、その時点で後遺障害が残存しているのであれば、障害(補償)給付を請求し、後遺障害の等級認定を受けることとなります。
これを待って初めて、損害額が確定し、また労災などからの受給額も確定することになりますので、この時点で損害賠償請求をすることが適切です。
ただし、治療が長期間にわたる場合には、時効によって権利が消滅してしまうおそれがありますので、管理を徹底しておく必要があります。
時効の期間は、法的構成によって様々ですので、専門家である弁護士に相談しながら進めるようにしてください。
労災の損害賠償の相場と事例
これまで、損害の内容や請求のタイミングや流れについて説明してまいりました。
損害の額は、後遺障害の程度や逸失利益の額によって変動しますが、やはり後遺障害等級によって、おおよその傾向があります。
- 後遺障害14級相当:300万円程度
- 後遺障害12級相当:800万円~1000万円程度
- 後遺障害10級相当:1500万円~2000万円程度
ただし、これはあくまでも損害額を積算した段階での金額であり、ここから、個別の事案に応じて、過失相殺や素因減額、損益相殺がなされますから、実際に受け取る金額は、上記金額よりも低くなりますのでご留意ください。
最後に、実際の裁判例をいくつかご紹介したいと思います。
裁判例1 東京地裁平成27年4月27日判決
プレス機械で指切断の怪我を負ったケースです。
後遺障害等級8級相当、過失相殺4割、約1651万円の支払いが命じられました。
裁判例2 名古屋高判昭和58年12月26日判決
鉄スクラップの溶解業務に従事中、溶解液の飛沫が飛来し、労働者が、左眼角膜火傷等の傷害を負ったケースです。
後遺障害13級相当、過失相殺3割、約353万円の支払いが命じられました。
なお、後遺障害は眼の障害として評価されているようです。
裁判例3 横浜地裁平成19年6月28日判決
草刈り作業に従事していたアルバイト作業員が、他の作業員の刈払機が飛散させた石様の異物が左目に当たって失明したケースです。
後遺障害等級8級相当、過失相殺なし(主張されたか否かも不明)、約4794万円の支払が命じられました。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は、労災の損害賠償の法的根拠や、具体的な損害の算定方法について説明をいたしました。
法的な主張・立証や損害額の計算は専門的な知識を必要としますので、少しでもお困りの場合には、弁護士への相談をおすすめいたします。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。