立ち退きを求められる理由と対応 │道路拡張・再開発・老朽化・売却など、ケース別の立退料・補償金を弁護士が解説
最終更新日: 2026年06月30日

立ち退きを求められたとき、最初に確認すべきことは「なぜ立ち退きを求められているのか」です。
道路拡張・再開発・区画整理などの公共事業によるものか、建物の老朽化・売却・建て替えなど貸主の都合によるものかで、受け取れる補償金・立退料の枠組みと金額、そして立ち退きを断ることができるかどうかが、大きく変わるためです。
本記事では、立ち退きを求められる主な理由をケース別に整理し、それぞれで受け取れる立退料・補償金の考え方と、とるべき対応を弁護士が解説します。
「提示された金額が妥当かわからない」「拒否できるのか」「どこに相談すればよいのか」といった疑問にも、理由ごとにお答えします。
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立ち退きを求められる理由は大きく2つに分かれる
立ち退きを求められたとき、最初に確認すべきは「どの理由による立ち退きか」です。
理由によって、補償の枠組み・拒否できるかどうか・受け取れる金額が大きく変わるため、自分のケースがどれにあたるかを把握することが、適切な対応の出発点になります。
立ち退きの理由は、大きく「公共事業によるもの」と「貸主都合によるもの」の2つに分けられます。
公共事業による立ち退き(補償が手厚い)
道路拡張・再開発・区画整理など、都市計画に基づく公共事業を理由とする立ち退きです。
土地収用法などの法律に沿って補償が行われるため、土地・建物そのものの価値に加え、移転にかかる費用まで補償の対象になります。
補償が比較的手厚い一方、計画が正式に決定している場合は、正当な理由なく立ち退きを拒み続けることは困難です。対応の力点は、「応じるかどうか」よりも「提示された補償が適正か」を見極める点に置かれます。
該当する場合は、道路拡張は本記事「道路拡張による立退き」、再開発は「再開発による立退き」、区画整理は「区画整理による立退き」の各セクションをご覧ください。
貸主都合による立ち退き(正当事由と立退料が必要)
建物の老朽化・建て替え・売却・オーナーチェンジ・借地の返還など、貸主側の事情による立ち退きです。
賃貸借契約は更新されるのが原則であり、貸主から退去を求めるには、借地借家法上の「正当事由」が必要です。
貸主の事情だけでは正当事由として不十分なことが多く、立退料を支払うことでこれを補い、退去について合意するのが一般的な進め方です。
このタイプでは、借主の側に「正当な理由がなければ応じる義務はない」という立場があるため、慌てて退去せず、まず退去を求める理由と条件を確認することが重要です。
該当する場合は、本記事の「老朽化・建替えによる立退き」「売却・オーナーチェンジによる立退き」「借地の明渡し」の各セクションをご覧ください。
なお、住宅ローンの滞納などで物件が競売にかけられた場合の立ち退きは、上記2つとは性質が異なり、買受人との関係になります。詳しくは本記事「競売物件の立退き」をご覧ください。
[重要]賃貸借か使用貸借かで扱いが大きく変わる
見落とされがちですが、「賃料を払って借りているのか(賃貸借)」「無償で借りているのか(使用貸借)」によって、適用される法律がまったく異なります。
賃料を払って建物や土地を借りている賃貸借には、借地借家法が適用され、借主は手厚く保護されます。
一方、親族間などで無償で貸し借りしている使用貸借には、借地借家法が適用されません。そのため、貸主の都合で立ち退きを求めやすく、立退料が支払われるかどうかも当事者間の合意によって決まります。
無償で借りている物件の立ち退きについては、こちらの記事で詳しく解説しています。ご自身のケースが使用貸借にあたる場合は、まずこちらをご確認ください。
立退料・補償金の内訳(理由を問わず共通)
立ち退きで受け取れるお金は、ひとくちに「立退料」といっても複数の項目で構成されています。
立ち退きを求められた理由が公共事業か貸主都合かにかかわらず、考え方の土台は共通しています。
補償の基本思想「原状回復の原則」
立退料・補償金の根底にあるのは、「立ち退きによって、その人が経済的・生活的に損をしないようにする」という考え方です。
区画整理などの公共事業では、立ち退きがなかった場合の生活状態を金銭で回復させることが補償の目的とされ、法律によってその権利が保障されています。
貸主都合による立ち退きでも、借主が被る不利益を埋め合わせる趣旨は変わりません。
つまり立退料は「迷惑料」ではなく、引っ越しや住み替えで実際に発生する費用と不利益を積み上げて算定するものだと理解しておくと、提示額の妥当性を判断しやすくなります。
立退料・補償金を構成する主な項目
立退料・補償金は、おおむね次の項目を組み合わせて算定されます。
- 土地に関する補償(土地を手放す場合の所有権・借地権の補償)
- 建物に関する補償(建物の移転料・再築費用)
- 動産移転料(引っ越し費用など家財の移転にかかる費用)
- 仮住まいに関する補償(建て替え期間中の仮住まい家賃や敷金・礼金)
- 営業に関する補償(店舗・事業の場合の休業損失や移転先での減収)
- 移転雑費(各種手続き費用などの諸経費)
- 借家権の補償(借家人が受け取る借家権相当額)
どの項目がいくら認められるかは、住居か事業用か、所有か賃借か、立ち退きの理由によって変わります。
自分のケースでどの項目が対象になるかを把握することが、交渉の出発点になります。
立退料の相場の目安
金額の大まかな目安として、住居であれば家賃の半年から1年分程度、店舗・テナントであれば家賃の2年分程度が一つの目安とされます。
ただし、これはあくまで賃貸物件における簡易な目安であり、土地・建物の所有者の場合や公共事業による補償では、算定の考え方が大きく異なります。
立退料の具体的な計算方法や、住居・事業用ごとの相場、裁判例での認定額については、こちらの記事で詳しく解説しています。
[公共事業①]道路拡張による立退き
道路拡張は、都市計画に基づいて行われる公共事業による立ち退きの代表例です。
公共性が高く、土地収用法などの法律に沿って補償が行われるため、貸主都合の立ち退きとは補償の枠組みが異なります。
道路拡張による立ち退きとは
道路を広げるために、計画区域にかかる土地・建物の所有者や借家人に対して、行政(または事業者)から立ち退きが求められるものです。
任意の交渉での合意を基本としますが、合意に至らない場合は土地収用法に基づく手続きに進むことがあります。
公共事業による補償は、土地・建物そのものの価値だけでなく、移転に伴って生じる費用も対象になる点が特徴です。
立退料・補償金の考え方と算定例
道路拡張の補償額は、手放す土地の評価を基礎に算定されます。土地の評価には公示価格などが用いられ、これに建物や移転費用の補償を加えて全体額が決まります。
たとえば、失う土地が200㎡で、周辺の公示価格が1㎡あたり30万円の場合、土地部分だけで「200㎡×30万円=6,000万円」が一つの基準になります。ここに建物の移転料や引っ越し費用などが加わります。
補償額は行政側の提示で確定するものではなく、交渉によって増額の余地があります。
立退料・補償金がどのような項目で構成されるかは本記事「立退料・補償金の内訳」ををご参照ください。
道路拡張による立ち退きの主な流れ
道路拡張の立ち退きは、おおむね次の流れで進みます。
- 道路拡張計画の決定・公表
- 用地の調査・物件の評価
- 事業者側の資金(補償予算)の確保
- 立ち退き・補償についての交渉
- 補償契約の締結
- 建物の移転・立ち退き
- 補償金の支払い
- 拡張工事の実施
計画の公表から実際の立ち退きまでには相応の期間があります。交渉の段階で補償内容を十分に確認することが、納得のいく結果につながります。
立退料にかかる税金と特別控除
公共事業による立ち退きで受け取る補償金には、税金が関係します。
土地・建物の対価補償金は譲渡所得として扱われるのが原則ですが、収用などの一定の要件を満たす場合には、譲渡所得から最大5,000万円を差し引ける特別控除を利用できる可能性があります。
また、補償金の性質(対価補償・移転補償・収益補償など)によって、譲渡所得・一時所得・事業所得など課税上の扱いが分かれます。
税務の取り扱いは個別性が高いため、補償金を受け取る際は、控除の適用可否を含めて事前に確認しておくことをおすすめします。
[公共事業②]再開発による立退き
再開発による立ち退きは、市街地再開発事業として進められる公共性の高い立ち退きです。
道路拡張と同じく補償が手厚い一方、「権利変換」という再開発特有の仕組みがあり、ケースによっては立退料が発生しないこともあります。
市街地再開発事業と「権利変換」の仕組み
市街地再開発事業とは、老朽化した建物が密集する区域などを整理し、新しいビルや公共空間を一体的に整備する事業です。この事業には、「権利変換」という独自の制度があります。
権利変換とは、土地や建物の所有者、店舗の貸主・借主などが、再開発後に新しく建てられる建物に権利を得て入居する仕組みです。
従来の権利を新しいビルの床(権利床)に置き換えるかたちになるため、この場合は立ち退き料の支払いは行われません。
建て替え工事の期間中は、施行者側が用意する仮店舗で営業を続けるといった措置が検討されることもあります。
立退料が必要なケース・必要でないケース
再開発で立退料が支払われるかどうかは、権利変換に参加するかどうかで分かれます。
- 権利変換に参加して新しいビルに入居する場合:
立退料は支払われない(従来の権利が新ビルの床に引き継がれる) - 権利変換に参加せず、補償を受けて区域外へ転出する場合:
立退料・補償金が支払われる
どちらを選ぶかによって受け取るお金と今後の生活が大きく変わるため、早い段階で選択肢を整理しておくことが重要です。
再開発における補償の特徴
権利変換に参加せず転出する場合の補償は、移転に伴う費用に加え、事業を営んでいる場合の営業補償や、借家人に対する借家権の補償など、複数の項目で構成されます。
住居かテナントかによって対象や金額が変わる点は、ほかの理由による立ち退きと同様です(補償の項目については本記事「立退料・補償金の内訳」をご参照ください)。
提示された補償額が、新しい生活や事業の再建に十分かどうかは慎重に見極める必要があります。
当初の提示額から増額が認められた事例もあり、交渉のポイントや弁護士に相談するメリットは本記事「立退料・補償金を増額する交渉のポイント」で解説しています。
[公共事業③]区画整理による立退き
土地区画整理事業に伴う立ち退きは、道路拡張や再開発と同じく公共性の高い事業として進められ、補償の枠組みも法律に基づいて整理されています。
土地区画整理事業とは
土地区画整理事業とは、道路や公園などの公共施設を整備し、土地の利用価値を高めるために、区域内の土地を整理し直す事業です。
事業にあたっては、地権者が所有する土地の一部を提供する「減歩(げんぶ)」が行われ、整理後の新しい土地として「仮換地」が割り当てられます。
提供した分だけ各人の土地面積は小さくなりますが、道路や公園が整備されることで区域全体の利便性が向上することが前提とされています。
区画整理による立ち退きは拒否できるのか
事業計画が正式に決定され、法的な手続きが踏まれている場合、正当な理由なく立ち退きを拒否し続けることは困難です。
話し合いがまとまらないまま拒否を続けると、最終的には行政代執行などの強制的な手続きに進むリスクがあります。
もっとも、これは「補償の内容に異議を述べてはいけない」という意味ではありません。立ち退きそのものに応じる前提で、補償金額が適正かどうかを検討し、必要に応じて増額を求めることは正当な権利です。
持ち家の補償金はどう計算されるか(試算例)
持ち家の場合、補償金は建物の評価額を中心に、引っ越しや仮住まいの費用を積み上げて算定されます。考え方をイメージしやすいよう、簡略化した試算例を示します。
(試算例:築40年・木造一戸建て・延床面積120㎡・4人家族)
- 建物の新築費用の想定:約3,000万円
- 築年数に応じた減価償却後の評価額:約1,500万円
- 引っ越し費用の概算:約50万円
- 仮住まいの家賃(月15万円×12か月):約180万円
- 敷金・礼金などの初期費用:別途加算
- 移転雑費:数十万円程度
このように、建物の評価額だけでなく、住み替えに伴う費用が補償の対象になります。
建物の評価は、木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造といった構造や仕様、築年数によって変わるため、専門的な算定が必要です。提示された金額の内訳を確認し、生活再建に不足がないかを見極めることが重要です。
[貸主都合①]老朽化・建替えによる立退き
建物の老朽化や建て替えを理由に立ち退きを求められるケースは、賃貸住宅で特に多く見られます。
貸主都合による立ち退きの典型であり、退去を求めるには「正当事由」と立退料が必要になります。
老朽化だけでは退去を求められない
賃貸借契約は更新されるのが基本であり、貸主の側から退去を求めるには、借地借家法上の「正当事由」が必要です。「建物が古くなったから」という抽象的な理由だけでは、正当事由として認められません。
老朽化を理由とする場合は、単に築年数が古いというだけでなく、倒壊の危険があるなど耐震性に相当の問題があることを具体的に示す必要があります。
建物の安全性に関する診断結果など、危険性を裏づける客観的な事情があってはじめて、退去を求める根拠として認められやすくなります。
正当事由の考え方についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
立退料が正当事由を補う
正当事由は、貸主側の事情だけで判断されるわけではなく、借主が受ける不利益とのバランスで判断されます。
多くのケースでは、貸主の事情だけでは正当事由として不十分なため、立退料を支払うことでこれを補い、退去について合意するという進め方がとられます。
立退料の相場と考え方
老朽化・建て替えを理由とする一般的な住居の立退料は、100万円から200万円程度が一つの目安とされます。
金額は、引っ越し費用に加え、新旧の住居の家賃差額(おおむね1年分から3年分)などを積み上げて算定されます。実際の解決事例では、立退料150万円で合意に至ったケースもあります。
ただし、金額は物件の立地・築年数・入居期間や、退去を求める理由の強さによって変動します。
店舗・テナントの場合は住居と算定が異なります。テナントビルの老朽化による立退料の相場と判例についてはこちらの記事をご参照ください。
建て替えをスムーズに進めるためのポイント
老朽化・建て替えによる立ち退きを円滑に進めるには、次の点が大切です。
- 住民への告知を、退去希望時期から逆算して早い段階で行う
- 退去を求める理由(建物の危険性や建て替え計画)を、わかりやすくていねいに説明する
- 立退料や退去時期の条件を整理し、合意内容を書面に残す
一方的な通告は反発を招きやすく、かえって交渉が長期化します。
早めに弁護士に相談し、説明と条件提示の進め方を整えておくと、トラブルを抑えられます。
[貸主都合②]売却・オーナーチェンジによる立退き
物件の売却やオーナーチェンジを理由に立ち退きを求められるケースがあります。
この類型では、「そもそも立ち退きを求められるのか」という法的な原則を正しく理解しておくことが、貸主・借主の双方にとって出発点になります。
所有者が変わったこと自体は「正当事由」にならない
まず押さえておきたいのは、物件の所有者が変わったという事情それ自体は、立ち退きを求める正当事由にはならないという点です。
貸主が借主に退去を求めるには、借地借家法上の「正当事由」が必要であり、所有者の交代や「売却したいから」という理由だけでは、これを満たしません。
建物の老朽化など、退去を求める実質的な理由と、立退料による補償が併せて求められます。
賃貸借契約は新しいオーナーに引き継がれる
賃貸物件が売却されても、借主の賃貸借契約は新しいオーナーにそのまま引き継がれます(地位の承継)。
借主は、新オーナーに対しても従来どおりの契約内容を主張でき、正当な理由なく退去を求められても、これに応じる義務はありません。
新オーナーから立ち退きを求められた場合でも、慌てて退去する必要はなく、まず契約内容と退去を求める理由を確認することが大切です。
売却を予定するオーナーが踏むべき交渉の手順
入居者がいる物件を売却したい場合、オーナーは次の手順で立ち退き交渉を進めると、トラブルを抑えやすくなります。
- 売却の時期・希望する退去時期・立退料の予算など、立ち退きの条件を先に固める
- 入居者に立ち退きを依頼し、事情をていねいに説明する
- 立退料を提示し、退去時期や金額について交渉する
- 合意した内容を「立ち退き合意書」として書面に残す
- 退去・引き渡しを確認し、敷金の精算などを行う
口頭の合意だけではトラブルのもとになります。特に金額と退去時期は、必ず書面化しておきます。
立退料の内訳
売却・オーナーチェンジに伴う立退料は、借主が住み替えで負担する費用を積み上げて算定するのが一般的です。
- 引っ越し費用(実費)
- 新居の敷金・礼金・仲介手数料などの初期費用
- 新旧住居の家賃差額(一定期間分の補填)
- 転居に伴う迷惑料
なお、契約期間満了を機に更新を拒絶して退去を求める場合の正当事由については、こちらの記事で詳しく解説しています。
[貸主都合③]借地の明渡し
借地(土地を借りてその上に自分の建物を所有しているケース)の明け渡しは、建物を借りる場合とは法律関係が異なります。
借地権は手厚く保護されており、地主の都合だけで明け渡しを求めることはできません。
地主の都合だけでは明け渡しを求められない
借地契約も、期間が満了しても更新されるのが原則です。
地主の側から明け渡しを求めるには、借地借家法上の正当事由が必要であり、「地主が土地を使いたい」という事情だけでは、借地権者は明け渡しを拒否できます。
明け渡しが認められる主なケースは、次のとおりです。
- 契約期間が満了し、更新を拒絶する正当事由がある場合
- 地主と借地権者が合意して契約を解除する場合
- 地代の不払いなど、借地権者に重大な契約違反(債務不履行)がある場合
借地権の種類によって扱いが変わる
借地権は、種類によって存続期間や更新の有無が異なります。
- 普通借地権:
当初の存続期間は30年。更新後は1回目が20年、2回目以降が10年。更新が認められるのが原則 - 定期借地権:
契約で定めた期間(一般定期借地権は50年以上)の満了で、更新されずに明け渡しとなる - 事業用定期借地権:
存続期間は10年以上50年未満。事業用の建物所有を目的とする - 建物譲渡特約付借地権:
30年以上経過後に地主が建物を買い取ることで借地権が消滅する
建物買取請求権
普通借地権で更新が認められず契約が終了する場合、借地権者は、地主に対して建物を時価で買い取るよう請求できます(建物買取請求権)。これにより、借地権者は建物を取り壊さずに投下資本を回収できる場合があります。
明け渡しを検討する際は、この権利を行使できるかどうかが重要な判断材料になります。
借地明渡しにかかる費用
借地の明け渡しに関連する費用には、立退料のほか、建物を取り壊す場合の解体費用などがあります。
- 立退料:
地代の数か月分を一つの目安として算定する例があります(たとえば月額地代100万円×6か月分=600万円など、事案により幅があります) - 建物の解体費用:
延床面積1㎡あたり5万円〜5万円程度(100㎡の平屋で約150万円〜500万円) - 法的手続きの費用:
郵便切手代(約6,000円)、訴訟の印紙代、弁護士費用(おおむね60万円〜120万円) - 引っ越し費用:
10万円〜数十万円程度
交渉がまとまらない場合
話し合いで解決しない場合は、明け渡し請求訴訟を提起し、判決を得たうえで、応じないときは強制執行に進むことになります。訴訟・強制執行の進め方はこちらの記事で解説しています。
[競売]競売物件の立退き
住んでいる、または借りている物件が競売にかけられた場合の立ち退きは、これまでの理由とは性質が異なります。
買受人(落札者)との関係になるため、賃借人や占有者の保護は薄く、立退料もほとんど期待できないのが実情です。
競売による立ち退きとは
競売とは、住宅ローンなどの返済が滞った際に、債権者の申立てによって裁判所が物件を売却する手続きです。
物件を借りていた人や占有していた人は、買受人が代金を納付して所有権を取得した時点で、原則としてその物件を明け渡さなければなりません。
賃貸借契約に基づく借家人であっても、契約が買受人に当然に引き継がれるわけではない点が、通常の売却・オーナーチェンジとの大きな違いです。
競売による立ち退きまでの流れ
競売は、おおむね次の流れで進みます。
- 競売の開始決定
- 執行官による現地調査・物件の評価
- 入札の実施
- 買受人(落札者)の決定・代金納付
- 買受人からの立ち退き要求
- 応じない場合、買受人による引渡命令・強制執行の申立て
- 強制執行による明け渡し
明渡猶予期間(6か月)
一定の要件を満たす賃借人や占有者には、すぐに退去しなくてよい「明渡猶予」が認められています。
買受人が代金を納付した日から6か月間は、明け渡しを猶予されます。ただし、これはあくまで猶予であり、立ち退きを免れるものではありません。
引渡命令と強制執行
引渡命令とは、買受人の申立てにより裁判所が占有者に明け渡しを命じる決定で、強制執行の根拠となる債務名義になります。
強制執行に至ると、家財を含めて室内のものがすべて撤去され、費用も100万円以上かかる場合があります。
立退料はほとんど期待できない
競売による立ち退きでは、買受人に立退料を支払う義務はなく、支払われたとしても数万円程度にとどまるのが一般的です。
早期かつ円満な退去に応じることで、引っ越しの実費程度を引き出せる余地がある程度と考えておくのが現実的です。
立退料・補償金を増額する交渉のポイント
提示された立退料・補償金は、そのまま受け入れなければならないものではありません。多くのケースで、交渉によって増額の余地があります。
当初の提示額が低めに設定されやすい理由
立ち退きを求める側(行政・事業者・貸主)は、まず予算の範囲内で金額を提示するのが通常です。
提示額は、補償項目を最小限に見積もって算定されていることがあり、移転先の確保や生活・事業の再建に必要な費用が十分に反映されていない場合があります。
そのため、提示された金額が適正かどうかを、内訳に立ち返って検討することが出発点になります。
増額交渉で押さえる3つのポイント
増額を求める際は、次の点を意識すると交渉を有利に進めやすくなります。
- 補償・立退料の内訳を確認する(どの項目がいくらで、抜けている項目はないか)
- 自分のケースで必要な費用を具体的に積み上げる(引っ越し・仮住まい・家賃差額・営業損失など)
- 提示額との差額を、根拠を示して提示する(「不足しているから上げてほしい」ではなく、必要額を裏づける)
交渉による増額の事例
弁護士が介入することで、実際に補償金が大幅に増額されたケースは数多く存在します。
当初提示額:1,200万円
相談内容:老朽化した自宅だが、新しいマンションを購入するには全く足りない。
弁護士の対応:弁護士が不動産鑑定士と連携して土地・建物の価値を再評価。さらに、仮住まい費用や移転雑費の算定に漏れがあることを指摘し、粘り強く交渉。
→ 最終的な補償金額:2,000万円(800万円増額)
当初提示額:2,500万円(営業補償含む)
相談内容:常連客が多く、移転すると客が離れてしまう。提示額では新しい店舗の内装費にもならない。
弁護士の対応:弁護士が営業補償の算定方法が事業者に有利な計算になっていることを発見。得意客の喪失による将来的な減収分(逸失利益)も法的に主張。
→ 最終的な補償金額:4,500万円(2,000万円増額)
金額の妥当性に疑問がある場合は、交渉の余地を検討する価値があります。
弁護士に相談するメリットと費用
立ち退きの交渉は当事者同士でも進められますが、金額が大きい場合や交渉が難航している場合は、弁護士に相談することで負担を抑えられます。
弁護士に相談すべきケース
次のような場合は、弁護士への相談を検討してください。
- 提示された補償金・立退料の内訳や計算根拠が不明確で、妥当かどうか判断できない
- 事業者や貸主との交渉が精神的な負担になっている
- 提示された金額では、移転先の確保や生活・事業の再建に足りない
- 立ち退きに応じる前提だが、できるだけ条件を改善したい
弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼すると、補償項目の精査や増額交渉の代理、書面のやり取りまでを任せられます。
相手方との直接のやり取りから解放され、感情的な対立を避けながら、専門的な根拠に基づいて交渉を進められます。
弁護士費用の目安
立ち退きの増額交渉を依頼する場合の費用は、おおむね次のとおりです。
- 相談料:
30分5,000円〜1万円程度(初回無料の事務所もあります) - 報酬金:
増額できた金額の10〜20%程度(税別)を基準とする例があります
費用体系は事務所によって異なるため、依頼前に確認しておくことをおすすめします。春田法律事務所では、立ち退き・補償に関するご相談を承っています。
よくある質問(FAQ)
Q.立ち退きは拒否できますか。
理由によって変わります。道路拡張・再開発・区画整理など公共事業による立ち退きは、計画が正式に決定していれば拒否し続けることは困難です。
一方、老朽化・売却・建て替えなど貸主都合の立ち退きは、正当事由と立退料がそろわなければ、借主は退去を拒むことができます。
Q.立退料は必ずもらえますか。
理由によります。公共事業では補償金が、貸主都合の立ち退きでは立退料が支払われるのが一般的です。
一方、競売による立ち退きでは立退料はほとんど期待できず、支払われても数万円程度にとどまります。
Q.無償で借りている(使用貸借の)場合でも立退料はもらえますか。
使用貸借は賃貸借とは法律関係が異なり、借地借家法が適用されません。立退料が支払われるかは当事者間の合意によります。
Q.立退料・補償金に税金はかかりますか。
公共事業による収用などで受け取る補償金は、譲渡所得として扱われるのが原則ですが、一定の要件を満たせば最大5,000万円の特別控除を利用できる可能性があります。
補償金の性質によって課税上の扱いが変わるため、事前の確認をおすすめします。
Q.いつまでに退去すればよいですか。
退去時期は交渉によって調整できることが多く、一方的に短期の退去を求められても、すぐに応じる義務があるとは限りません。
なお、競売の場合は、買受人の代金納付日から6か月間の明渡猶予が認められることがあります。
Q.提示された立退料が低いと感じます。増額できますか。
増額の余地があります。補償の内訳を確認し、自分のケースで必要な費用を具体的に積み上げて根拠を示すことがポイントです。
詳しくは本記事「立退料・補償金を増額する交渉のポイント」をご参照ください。
まとめ
立ち退きを求められたときは、まず「どの理由による立ち退きか」を確認することが出発点になります。理由によって、補償の枠組みも、拒否できるかどうかも、受け取れる金額も大きく変わるためです。
対応のポイントを整理します。
理由によって枠組みが変わる
道路拡張・再開発・区画整理などの公共事業では補償が手厚く、老朽化・売却・建て替えなどの貸主都合では正当事由と立退料が必要になります。
競売は契約が当然には引き継がれず立退料も期待しにくく、使用貸借は借地借家法が適用されない別の枠組みです。
補償・立退料の内訳を把握する
立退料は「迷惑料」ではなく、引っ越し・仮住まい・家賃差額・営業損失などの費用を積み上げて算定するものです。
内訳を理解することが、金額の妥当性を判断する土台になります。
拒否できるかは理由次第
公共事業の立ち退きを正当な理由なく拒み続けることは困難ですが、貸主都合の立ち退きは、正当事由がなければ応じる義務はありません。
慌てて退去せず、まず理由と条件を確認してください。
提示額には増額の余地がある
当初の提示額は低めに設定されていることがあります。必要な費用を根拠とともに示すことで、増額が認められた事例もあります。
迷ったら早めに相談する
金額が大きい、交渉が難航している、内訳の妥当性が判断できない——そのような場合は、早い段階で弁護士に相談することで、納得のいく条件での解決につながりやすくなります。
春田法律事務所では、立ち退き・補償に関するご相談を承っています。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。
職員が丁寧にお話を伺います初回無料
立退料の実績










