求償権放棄の交渉術|示談で後悔しないための注意点【弁護士監修】

2026年04月30日

求償権放棄の交渉術|示談で後悔しないための注意点【弁護士監修】

不倫の慰謝料請求を進める中で、「求償権(きゅうしょうけん)」という聞き慣れない言葉が出てきて、戸惑っていませんか?

「不倫相手に求償権を放棄させたいけど、どう交渉すればいいの?」
「求償権を放棄させると、慰謝料が減額されるって本当?」
「示談で合意したのに、後からトラブルになるのは絶対に避けたい…」

不倫問題を完全に解決するためには、この「求償権」の扱いが非常に重要です。求償権の意味を正しく理解し、適切に対処しなければ、せっかく慰謝料を受け取っても、後々、予期せぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。

この記事では、不倫慰謝料における求償権の基本的な知識から、求償権放棄を有利に進めるための具体的な交渉術、法的に有効な示談書の作り方と文例まで、弁護士監修のもとで徹底的に解説します。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士 春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内法律事務所勤務
当事務所開設
資格
宅地建物取引士
情報処理安全確保支援士

「不倫慰謝料を請求したい」「不倫慰謝料を請求された」両方の立場から、400件以上の不倫問題のご相談に対応してきました。(※2026年3月時点)これまでの実務経験をもとに、法律のポイントを分かりやすく解説しています。

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目次

不倫慰謝料における「求償権」とは?

不倫の慰謝料問題を解決する上で、しばしば登場するのが「求償権(きゅうしょうけん)」という言葉です。少し難しく聞こえるかもしれませんが、これは問題を解決するために非常に重要な権利です。

簡単に言うと、求償権とは「共同で不法行為を行った一方が、被害者に対して損害賠償金を支払った後、もう一方の加害者に対して、その負担割合に応じた金額を請求できる権利」のことです。

共同不法行為と求償権の関係

不倫(不貞行為)は、法律上「共同不法行為」とみなされます。これは、不倫をした配偶者と、その不倫相手の2人が、共同で「貞操権」や「平穏な婚姻生活を送る権利」という、もう一方の配偶者の権利を侵害したと判断されるためです。

共同不法行為では、加害者である2人(不倫した配偶者と不倫相手)が、被害者(裏切られた配偶者)に対して、連帯して損害賠償責任を負います。つまり、被害者は、加害者2人のどちらか一方に慰謝料の全額を請求することも、それぞれに按分して請求することも可能です。

そして、この「連帯責任」があるからこそ、求償権が発生します。例えば、不倫相手だけが慰謝料の全額を支払った場合、その不倫相手は「自分だけが全額支払うのは不公平だ。もう一人の当事者であるあなたの配偶者も責任を負うべきだ」として、その配偶者に対して負担分を請求する権利、すなわち求償権を持つことになるのです。

求償権が発生するタイミングと具体例

求償権は、慰謝料の請求をされた時点ではなく、「実際に被害者へ慰謝料の支払いを完了した時点」で発生します。

【具体例】

  • 夫Aと妻Bの夫婦がおり、夫Aが女性Cと不倫をした。
  • 妻Bは、不倫相手であるCに対して300万円の慰謝料を請求した。
  • Cは、妻Bの請求に応じて300万円を全額支払った。

この場合、Cが300万円を支払った時点で、Cは夫Aに対して求償権を取得します。不倫の責任割合はケースバイケースですが、特段の事情がなければ夫婦と不倫相手で半分ずつ(50%:50%)と判断されることが多いため、CはAに対して、負担分である150万円(300万円の50%)を請求できる可能性があります。

求償権を放棄させたい!交渉で有利に進めるための知識

慰謝料を請求する側も、支払う側も、この求償権の存在を理解しておくことが、交渉を有利に進めるための鍵となります。

特に、慰謝料を請求する側(被害者)にとっては、不倫相手に「求償権を放棄」させることが、問題を根本的に解決する上で極めて重要になります。ここでは、それぞれの立場から見たメリット・デメリットを解説します。

【請求者側】求償権を放棄させるメリット・デメリット

メリット:将来のトラブルを回避し、問題を完全に解決できる

請求者側にとって、不倫相手に求償権を放棄させる最大のメリットは、不倫問題を完全に終わらせ、将来のトラブルの芽を摘めることです。

もし不倫相手が求償権を持ったままだと、慰謝料を受け取った後で、不倫相手があなたの配偶者に対して求償権を行使して接触してくる可能性があります。そうなると、

  • 夫婦関係の再構築を目指しているのに、再び不倫相手が家庭に関わってくる。
  • 配偶者が不倫相手に支払うお金が、結局は家計から支出され、慰謝料をもらった意味が薄れる。
  • 配偶者が支払いを拒否し、不倫相手から裁判を起こされる。

といった新たなトラブルに発展しかねません。求償権を放棄させることで、こうしたリスクをなくし、不倫相手との関係を完全に断ち切ることができるのです。

デメリット:慰謝料が減額される可能性がある

不倫相手にとって、求償権は本来行使できるはずの金銭的な権利です。その権利を放棄してもらうわけですから、相手は当然その見返りを求めてきます。最も一般的なのが慰謝料の減額交渉です。

「求償権を放棄するかわりに、慰謝料を〇〇円に減額してほしい」という提案は、交渉の場で頻繁に見られます。そのため、相場通りの満額の慰謝料を得ることは難しくなる可能性がある点がデメリットと言えます。

【不倫相手側】求償権を放棄するメリット・デメリット

メリット:慰謝料の減額が期待できる

不倫相手側から見て、求償権を放棄する最大のメリットは、それを交渉材料として慰謝料の減額を期待できることです。

本来であれば、慰謝料を支払った後に、その半額程度を不倫の当事者である相手の配偶者に請求できます。しかし、その請求には手間も時間もかかりますし、相手が素直に支払いに応じない可能性もあります。

そこで、「後から請求する権利をここで放棄するので、最初に支払う慰謝料の額を下げてください」と交渉することで、最終的な金銭的負担を軽減できる可能性があります。

デメリット:配偶者への請求権を失う

当然のデメリットとして、一度示談書などで求償権の放棄を約束すると、後から「やはり請求したい」と思っても、その権利を行使することはできなくなります。

例えば、300万円の慰謝料を支払い、求償権を放棄した場合、本来なら請求できたはずの150万円を回収する道を自ら断つことになります。慰謝料の減額幅が、放棄する求償権の金額に見合うものかどうかを慎重に判断する必要があります。

求償権放棄の交渉術|示談で後悔しないための3つのポイント

求償権放棄を盛り込んだ示談交渉を成功させるには、いくつかのポイントがあります。後悔しないためにも、以下の3点を押さえておきましょう。

求償権放棄を条件に慰謝料額を交渉する

求償権放棄は、慰謝料額とセットで交渉するのが基本です。

請求者側の交渉例

「本来であれば慰謝料として300万円を請求したいところですが、あなたの配偶者様への求償権を放棄していただけるのであれば、200万円に減額することを検討します。」

不倫相手側の交渉例

「ご提示いただいた300万円は厳しいですが、今後、あなたの配偶者様に対して一切の求償権を行使しないことをお約束しますので、200万円で和解させていただけないでしょうか。」

このように、求償権放棄という「相手のメリット(請求者側)/デメリット(不倫相手側)」と、慰謝料の減額という「相手のデメリット(請求者側)/メリット(不倫相手側)」を交換条件として提示することで、双方にとって納得のいく着地点を見つけやすくなります。

相手に求償権放棄の意味と効果を理解させる

交渉相手が法律に詳しくない場合、「求償権放棄」という言葉の意味を正しく理解していないことがあります。言葉だけを伝えても、「何のこと?」と話が進まなかったり、後から「そんな意味だとは知らなかった」とトラブルになったりする恐れがあります。

交渉の際は、「この条項に合意していただくことで、あなたは今後、私の夫(妻)に対して、今回支払う慰謝料の負担分を請求することができなくなります。その代わりとして、慰謝料の額を減額します」というように、具体的な言葉でメリットとデメリットを丁寧に説明し、相手に正しく理解・納得してもらうことが非常に重要です。

示談書に求償権放棄の条項を明確に記載する

口約束は絶対に避けましょう。交渉で合意した内容は、必ず書面に残す必要があります。特に求償権放棄に関する合意は、示談書の最も重要な部分の一つです。

「求償権を放棄する」という文言を、誰が誰に対する権利を放棄するのかが明確にわかるように記載しなければなりません。曖昧な表現では、後になって解釈をめぐる争いが生じるリスクがあります。法的に有効な形で、明確な条項として示談書に盛り込むことが不可欠です。

【弁護士監修】求償権放棄を明記した示談書の作り方と文例

求償権放棄について合意ができたら、その内容を正確に反映した示談書を作成します。ここでは、示談書の基本的な構成と、求償権放棄に関する条項の具体的な文例をご紹介します。

示談書に必ず盛り込むべき項目

不倫慰謝料に関する示談書には、一般的に以下の項目を盛り込みます。

  1. 表題:「示談書」「合意書」など
  2. 当事者の特定:氏名、住所、署名、押印
  3. 示談の対象となる事実:誰と誰が、いつ頃、不貞行為を行ったかを特定
  4. 慰謝料の支払い:金額、支払期日、支払方法(一括/分割、振込口座など)
  5. 求償権放棄条項:本記事の核心部分
  6. 接触禁止条項:今後、私的・公的な連絡や接触を一切しないことの約束
  7. 口外禁止条項:示談内容や不倫の事実を正当な理由なく第三者に漏らさないことの約束
  8. 清算条項:「本示談書に定めるほか、当事者間には何らの債権債務も存在しないことを相互に確認する」という最終確認の文言
  9. 作成年月日

求償権放棄に関する条項の文例

二者間合意の場合の文例

慰謝料を請求する配偶者(甲)と、不倫相手(乙)の2名で示談する場合の文例です。

(文例) 第〇条(求償権の放棄) 乙は、本件不貞行為が甲の配偶者である〇〇(氏名)との共同不法行為であることを理解した上で、同人に対する求償権その他一切の請求権を放棄し、将来にわたりこれを行使しないことを確約する。

示談書作成時の注意点|公正証書にするべきか?

作成した示談書は、公正証書にしておくことを強くお勧めします。 公正証書とは、公証役場の公証人が作成する公文書のことで、以下のような強力なメリットがあります。

  • 高い証明力:
    当事者が合意した内容を公的に証明してくれるため、後から「そんな約束はしていない」という言い逃れを防げます。
  • 強制執行力:
    慰謝料の支払いが滞った場合に、「強制執行認諾文言」を付けておけば、裁判を起こすことなく、相手の給与や財産を差し押さえる(強制執行する)ことが可能です。

特に、慰謝料が分割払いの場合は、必ず公正証書にしておくべきでしょう。作成には費用と手間がかかりますが、将来の安心を買うという意味で非常に価値があります。

求償権放棄の交渉で注意すべきこと

求償権放棄の交渉は、必ずしもスムーズに進むとは限りません。事前に注意点を把握し、対策を考えておくことが重要です。

求償権放棄を拒否された場合の対処法

相手に求償権の放棄を拒否されるケースもあります。

請求者側として拒否された場合

まずは、慰謝料の減額幅を大きくするなど、相手にとってのメリットを増やして再交渉を試みましょう。それでも拒否された場合は、「満額の慰謝料を受け取り、その後の求償権行使は覚悟する」という選択肢を取ることになります。

不倫相手側として拒否された場合

慰謝料の減額は見込めなくなるため、相場通りの金額を支払うことになります。その上で、慰謝料を支払った後に、不倫の当事者である相手の配偶者に対して、法的な手続き(内容証明郵便での請求、支払督促、訴訟など)に則って求償権を行使していくことになります。

離婚しない場合は特に求償権放棄が重要

前述の通り、離婚せずに夫婦関係を再構築する道を選ぶのであれば、求償権放棄の条項は極めて重要です。求償権が残ったままだと、不倫相手があなたの配偶者に接触する口実を与えてしまい、不倫相手が配偶者と連絡をとりあう等、関係再構築の大きな障害となります。また、家計が同一であるため、配偶者が支払うお金は結局あなたの家庭の負担となり、慰謝料をもらった意味が半減してしまいます。

多少、慰謝料額が減額になったとしても、将来の平穏な生活を取り戻し、問題を完全に終結させるために、求償権放棄を優先して交渉する価値は非常に高いと言えるでしょう。

求償権行使には時効がある

求償権も、永久に行使できるわけではなく、消滅時効があります。時効期間は、原則として「求償権を行使することができる時(=慰謝料を支払った時など)から5年間」です。時効があるからといって問題を放置するのは得策ではありません。記憶が曖昧になったり、証拠が散逸したりする前に、早期に解決することが望ましいです。

求償権放棄の交渉は弁護士に相談すべき理由

求償権放棄をめぐる交渉や示談書の作成は、法律知識と交渉経験が求められる複雑なプロセスです。当事者だけで進めると、感情的な対立から話がこじれたり、法的に不備のある示談書を作成してしまったりするリスクがあります。不安な場合は、迷わず弁護士に相談しましょう。

相手との交渉をすべて任せられる

弁護士に依頼すれば、精神的負担の大きい相手との交渉をすべて代理人として行ってくれます。冷静かつ法的な根拠に基づいて交渉を進めるため、感情的にならずに有利な条件での解決が期待できます。相手と直接顔を合わせる必要もありません。

法的に有効で後々トラブルにならない示談書を作成できる

求償権放棄の条項はもちろん、その他必要な条項をすべて網羅した、法的に抜け漏れのない示談書を作成してもらえます。将来、示談書の解釈をめぐって再びトラブルになるリスクを最小限に抑えることができます。公正証書の作成手続きも代行してもらえます。

精神的な負担を大幅に軽減できる

不倫問題への対応は、多大な精神的ストレスを伴います。複雑な交渉や書面作成といった煩雑な手続きから解放されることで、精神的な負担が大幅に軽減され、ご自身の生活の立て直しに集中することができます。

弁護士に相談・依頼するタイミングと費用

弁護士への相談は、相手への慰謝料請求を考え始めた段階や、相手から請求を受けた段階など、できるだけ早いタイミングで行うことをお勧めします。交渉がこじれてしまう前に相談することで、スムーズな解決につながりやすくなります。

費用は法律事務所によって異なりますが、一般的には「相談料」「着手金」「成功報酬」などで構成されています。最近では初回相談を無料で行っている事務所も多いので、まずは一度、専門家の意見を聞いてみてはいかがでしょうか。

求償権放棄に関するよくある質問(FAQ)

Q:求償権放棄を条件に、慰謝料はいくら減額できますか?

A:明確な相場や計算式があるわけではありませんが、一般的には「放棄させる求償権の額」が減額交渉の一つの目安になります。不倫の責任割合はケースバイケースですが、特段の事情がなければ50%と見なされることが多いため、例えば300万円の慰謝料であれば、その半額の150万円が求償できる額となります。この150万円を基準に、「100万円減額する代わりに求償権を放棄する」といった交渉が行われることが多いです。最終的な金額は、双方の交渉次第で決まります。

Q:求償権を放棄させないと、具体的にどんなリスクがありますか?

A:主に2つの大きなリスクがあります。

  1. 金銭的なリスク:慰謝料を支払った不倫相手が、あなたの配偶者に求償権を行使した場合、配偶者はその支払いに応じる義務があります。特に離婚しない場合、その支払いは家計から支出されることになり、結果的にあなたが受け取った慰謝料が目減りするのと同じことになってしまいます。
  2. 関係継続のリスク:求償権の話し合いを口実に、不倫相手とあなたの配偶者が再び接触する機会が生まれてしまいます。これは、夫婦関係の再構築を目指す上で大きな障害となり、精神的な苦痛が続く原因にもなりかねません。

Q:不倫相手から慰謝料の支払いを受けた後、その不倫相手が私の配偶者に求償権を行使してきました。どうすればいいですか?

A:示談書で求償権放棄の取り決めをしていない限り、あなたの配偶者は不倫相手からの求償請求に対して、原則として支払い義務を負います。ただし、請求された金額が妥当かどうかは争う余地があります。例えば、不倫関係を主導していたのがどちらかといった事情によって、負担割合は変動する可能性があります。まずは請求を無視せず、請求額の根拠や妥当性について弁護士に相談することをお勧めします。

Q:一度成立した示談書に、後から求償権放棄の条項を追加できますか?

A:理論上は、相手方が合意すれば「変更合意書」などの形で条項を追加することは可能です。しかし、一度解決した問題について、相手方が自分に不利な(=権利を放棄する)合意に応じる可能性は極めて低く、現実的には非常に困難です。だからこそ、最初の示談交渉の段階で、将来のリスクをすべて想定し、求償権放棄を含めた完全な内容の示談書を作成することが極めて重要なのです。

Q:自分で作った示談書に「求償権を放棄する」と書いても有効ですか?

A:当事者双方が内容に合意して署名・押印すれば、ご自身で作成した示談書であっても法的な効力は持ちます。しかし、「誰が、誰に対する、どの権利を放棄するのか」が法的に明確に特定できる言葉で記載されていないと、後から解釈をめぐって争いになったり、条項自体が無効と判断されたりするリスクが伴います。後々のトラブルを確実に防ぐためには、弁護士に作成を依頼するか、少なくとも専門家のリーガルチェックを受けることを強く推奨します。

まとめ

不倫慰謝料における「求償権放棄」は、問題を完全に終結させ、将来のトラブルを防ぐために非常に重要な交渉事項です。

  • 求償権とは、慰謝料を支払った不倫相手が、あなたの配偶者に対して負担分を請求する権利です。
  • 請求者側は、慰謝料を多少減額してでも求償権を放棄させることで、問題を根本的に解決できる大きなメリットがあります。
  • 交渉は、求償権放棄と慰謝料額をセットで行い、その内容は示談書に明確に記載することが不可欠です。
  • 特に離婚せずに関係再構築を目指す場合、求償権放棄の重要性は格段に高まります。

求償権をめぐる交渉や法的に有効な示談書の作成には、専門的な知識が欠かせません。もし少しでも不安を感じたら、一人で抱え込まず、不倫問題に詳しい弁護士に相談することが、後悔のない解決への一番の近道です。

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