漫画家が発信者情報開示請求を行うことも!?事例と解決方法を解説

最終更新日: 2023年06月22日

漫画家が発信者情報開示請求を行うことも!?事例と解決方法を解説

  • 漫画家から無断転載による発信者情報開示請求をされた
  • 発信者情報開示請求はどのような場合に行うことができるのかを知りたい
  • 漫画家とトラブルになったらどのように問題を解決するべきか知りたい

漫画・書籍等の静止画コンテンツは、2021年に改正された著作権法により、同法の保護対象となっています。

漫画等の静止画コンテンツを継続的にSNSやWebサイト等へ無断転載すれば、漫画の著作権者から著作権侵害で損害賠償請求や刑事告訴されるおそれがあります。

その前段階として発信者を特定する作業が「発信者情報開示請求」です。

そこで本記事では、多くの著作権問題に携わってきた専門弁護士が、発信者情報開示請求とは何か、開示請求の事例や適切な対応等について詳しく解説します。

本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。

  • 漫画の著作権者が発信者情報開示請求した場合、その主張が通る可能性は高い
  • 発信者情報開示請求を受けたプロバイダから「意見照会書」を通知された場合、速やかに弁護士へ相談すべき
  • 発信者が漫画の著作権者とトラブルとなったときは、弁護士を介して示談で解決するのが最善の方法

発信者情報開示・削除に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

詳しくはこちら

漫画家による発信者情報開示請求の事例

発信者情報開示請求とは、インターネット上で著作物が無断転載された場合、著作権者の権利を侵害した発信者の住所、氏名、電話番号等を、プロバイダに開示するよう求める手続きです。

この請求が通れば、著作権者は発信者を特定でき、著作権侵害で損害賠償請求や刑事告訴が可能となります。

ここでは、漫画の著作権者が発信者情報開示請求に関する訴えを行い、裁判所側がこれを認めた判例を紹介します(東京地裁平成26年1月17日判決)。

出典:東京地裁平成26年1月17日判決 裁判例結果詳細 | 裁判所

発信者情報開示請求

原告(漫画の著作権者)は、インターネット上にあるブログで、原告の漫画本および本の表紙の画像が無断転載されたことに気付きます。

そこで、原告は発信者に対し損害賠償請求を行うべく、発信者の特定のため被告であるプロバイダに、IPアドレスをタイムスタンプの時刻に使用し、インターネットへ接続していた者の発信者情報開示請求を行いました。

東京地方裁判所の判断

裁判所は原告の主張を認め、被告であるプロバイダに発信者情報開示を命じました

理由は以下の通りです。

  • 被告は無断転載に使用されたIPアドレスを管理する経由プロバイダである
  • 発信者は原告の本件漫画を送信可能にし、自動公衆送信できるようにしていた(パスワードは公開)ため、原告の著作権侵害(公衆送信権侵害)は明らか
  • 本件記事を投稿した発信者は、ダウンロードサーバーに本件漫画の電子ファイルをアップロードした者と同一人であると認めるのが相当

原告は発信者に対し損害賠償請求の予定があり、発信者を特定するために、その発信者の住所・氏名・メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由がある、と判示しています。

漫画家の権利を守るための発信者情報開示請求

発信者情報開示請求は漫画家等の著作権者の権利を守るための方法の一つです。請求対象は著作物の無断転載に限らず、漫画の内容・作者の誹謗中傷も含まれます。

SNSやWebサイトに継続的に無断転載した

漫画の無断転載に関しては、SNSやWebサイト等へ1回程度アップロードしただけで、すぐに削除した場合、漫画の著作権者が発信者情報開示請求を行う可能性は低いでしょう。

しかし、発信者が継続的に漫画の無断転載を繰り返すと、著作権侵害を理由として、プロバイダに発信者情報開示請求を行う可能性が高くなります。

プロバイダが開示を拒否しても、漫画の著作権者が裁判で開示の訴えを提起し、裁判所が認めれば、発信者の氏名・メールアドレス等は特定されてしまいます。

漫画の内容や作者を誹謗中傷している場合

漫画の内容・作者等をSNSやWebサイト等で誹謗中傷する行為も、発信者情報開示請求の対象です。

誹謗中傷とみなされる発言は、たとえば根拠もなく作者が漫画の登場人物やストーリーを盗用したと言いふらす、漫画のストーリー展開に腹を立て作者を侮辱した、等があげられます。

一方、漫画のストーリー展開への正当な批判や、このような結末なら良かった等の感想は、誹謗中傷とはいえません。

漫画の著作権者も読者の正当な批判なのか、それとも単なる誹謗中傷かをよく見きわめる必要があるでしょう。

漫画家から発信者情報開示請求を受けたらすべきこと

漫画の著作権者はたとえ発信者のIPアドレス等を突き止めていたとしても、それだけでは発信者の住所、氏名、電話番号等はわかりません。プロバイダの開示ではじめて発信者の情報がわかります。

そのため、漫画の著作権者がプロバイダに発信者情報開示請求を行った場合、基本的にはプロバイダから発信者へ「意見照会書」が送付されます。

こちらでは身に覚えがある場合・ない場合に分けて、意見照会書への対応を解説しましょう。

書類内容の確認

発信者情報開示請求に係る意見照会書では、主に次のような内容が明記されています。

  • 開示請求者の氏名
  • プロバイダが管理する特定電気通信設備(無断転載等に使用されたURLが記載)
  • 掲載情報(URLに記載されている内容)
  • 漫画の著作権者が侵害された権利
  • 漫画の著作権者の権利が明らかに侵害されたとする理由
  • 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由
  • 開示を請求されている発信者情報

意見照会書は書面で送付されるほか、登録しているメールアドレスにプロバイダから意見照会メールとして届く可能性もあります。

なお、著作権トラブルに便乗した偽物の可能性もあるので、意見照会書が本物かどうかを弁護士に判断してもらいましょう。

身に覚えがない場合

意見照会書が届いても全く身に覚えがない場合は、開示を拒否しても構いません。ただし、次のようなケースが想定されるので、慎重な確認が必要です。

たとえば、インターネットサービスの契約者と発信者が別というケースに注意しましょう。契約者は父親で利用料も支払っているが、著作権を侵害した発信者は他の家族というような場合もあるからです。

プロバイダは、漫画の無断転載等の発信に用いられたインターネット回線契約者を把握していますが、具体的な発信者は契約者本人なのか、その家族なのかという事実を把握できません。

契約者本人と発信した家族が異なったとしても、意見照会書は契約者宛てに送付されます。

そのため、家族の誰かがインターネットサービスを利用している場合は、いきなり開示を拒否せずに、思い当たる人へ発信の事実の有無を尋ねてみましょう。

身に覚えがある場合

意見照会書が届いた場合は、記載内容を確認したうえで、開示を許可するか拒否するかを回答します。

漫画の無断転載等について身に覚えがある場合、発信者は訴えられる事態をおそれて開示を拒否したり、回答しなかったりするかもしれません。

しかし、漫画の著作権者側が発信者情報開示請求の訴えを提起すれば、裁判所の命令で情報が開示されてしまいます。

また、権利侵害が明白である場合、訴えを提起されなくてもプロバイダが開示請求に応じる可能性もあります。

そのため、意見照会書が届いた場合は、まず弁護士に相談し、開示を許可すべきか、その後の対応を決めた方がよいでしょう。

漫画家から発信者情報開示請求を受けたときの解決方法

発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いた段階で、発信者はなるべく早く弁護士に相談し、対応を話し合った方がよいです。

こちらでは、意見照会書の通知を受けた後の対応について解説します。

専門弁護士への相談

意見照会書が届いたら、まずは著作権に詳しい弁護士に相談しましょう。

発信者の事情を詳しくヒアリングした後で、意見照会書の回答やその後の対応をアドバイスしてくれます。初回相談を無料で受け付けている法律事務所もあります。

意見照会書への回答

漫画の無断転載等について身に覚えがある場合は、意見照会書で開示に同意する旨を回答し、被害者側(漫画の著作権者)の心情を悪化させないよう、弁護士から助言されます。

また、たとえ身に覚えがなくても、契約している本人の他にインターネットを利用している家族がいるのか等、いろいろな可能性を弁護士とともに検討し、開示に同意するか否かの回答を行いましょう。

弁護士に任せれば、説得力のある回答書や意見書を作成してくれます。冷静に弁護士と話し合い、トラブルを解決するための手続きを進めましょう。

和解交渉

民事裁判による損害賠償請求や刑事告訴前であれば、弁護士を介して和解交渉を行い、トラブルを解決した方がよいでしょう。

訴えられる前に被害者側と示談が成立すれば、裁判に発展せず、刑事罰を受ける事態も回避できます。

示談に向けた和解の条件・示談金額が調整できたら、示談書を作成するのが一般的です。示談書の内容としては、主に加害者が二度と無断転載を行わない旨、示談金額、示談金の支払い方法、被害者が告訴をしない等、が明記されます。

裁判

和解交渉が決裂すると、被害者側が損害賠償請求や刑事告訴を行うケースもあります。

その場合、弁護士は加害者側に立って、請求された賠償金額の軽減や不起訴処分・減刑がなされるように弁明します。

加害者本人も誠心誠意、被害者に謝罪する旨を伝え、二度と違法行為は行わないという姿勢で裁判に臨む必要があります。

漫画家による発信者情報開示請求なら弁護士に相談を

今回は多くの著作権問題に携わってきた専門弁護士が、漫画の著作権者による発信者情報開示請求や、プロバイダから意見照会書が届いた場合の対応策等について詳しく解説しました。意見照会書が届いても慌てずに内容を確認し、自分に思い当たる点があるのか考えましょう。

発信者情報開示請求について悩んだら、専門の弁護士と相談することが問題解決の第一歩です。

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