婚前契約の法的効力について弁護士が徹底解説!

最終更新日: 2024年02月28日

婚前契約の法的効力について弁護士が徹底解説!

婚前契約(プレナップ、プリナップともいいます。)は、日本ではあまり一般的ではありませんでした。

そのため、日本でも法的効力が認められるのか、どのような内容は有効で、どのような内容は無効なのかについて情報が不足しています。

そこで、今回は婚前契約の法的効力について婚前契約の専門弁護士が解説します。

婚前契約に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

詳しくはこちら

婚前契約に法的効力は認められるのか

契約書の「法的効力」とは、その契約内容に契約をした当事者が拘束される、つまりその契約内容に従わなければ裁判を経てその履行を強制することができるということです。

婚前契約も売買契約書や不動産賃貸契約書と同様、「契約書」である以上、婚前契約だからという理由で法的効力が認められないことはありません。

もっとも、婚前契約に定めれば何でも法的効力が認められるわけではありません。他の契約と同様、法律に違反する内容や公序良俗に違反する内容には法的効力は認められません。

婚前契約の各種条項の効力

婚前契約も他の契約と同様、原則として、どのような内容の契約にするか自由に決めることができます。もっとも、以下のような内容は無効となります。

なお、無効とはいえ、当事者が自由にそれに従う分には差し支えありません。あくまで裁判で強制はできないということです。

離婚できる場合を拡張する内容

例えば、慰謝料100万円を支払えば相手は離婚に応じなければならないという内容や、別居期間が1年を超えたら相手は離婚に応じなければならないという婚前契約の内容が考えられます。

法律は、不貞行為、悪意の遺棄など婚姻関係を継続し難いと認められる場合を離婚原因として限定して規定していますので、離婚できる場合を拡張する契約内容は無効となります。

離婚できる場合を制限する内容

例えば、別居期間が3年を超えない限り離婚はできないという内容の婚前契約が考えられます。

法律は、婚姻関係を継続し難いと認められる場合を離婚原因として規定しています。そのため、このような離婚原因があるにもかかわらず離婚をできなくして、夫婦関係の継続を強いるような内容は無効となります。

夫婦の扶養義務を否定する内容

民法は、婚姻中、夫婦は相互に扶養義務を負うと定めていますので、原則として、扶養義務を否定する内容の婚前契約は無効です。

もっとも、例えば、ともに経済的に裕福なカップルが別居時の婚姻費用の分担を求めないという内容の婚前契約や、婚姻費用の分担に代わる経済的援助を定める内容の婚前契約の有効性が認められる余地はありそうです。

子に関する内容

子の親権や養育費に関することは、子の利益の観点から決定されるべきもので、夫婦が婚前契約において自由に決めることはできません。そのため、親権や養育費に関して婚前契約に定めても原則として無効となります。

もっとも、私学の学費を負担する、大学を卒業するまでは学費を負担するなど、家庭裁判所で認められる以上の水準の養育費を内容とする契約の場合には、子の利益は侵害されませんので、その有効性は認められる可能性はあるでしょう。

結婚生活に関する内容

土日のいずれかは仕事をせずに家族と過ごす、健康診断は年に1度は受ける、親の介護は各自が責任をもって行うなど、結婚生活に関する内容は法的に強制できるものではありません。

とはいえ、結婚前に結婚生活に関する事柄を話し合い、婚前契約に定めることで、その約束を守ろうという動機付けになりますから、法的効力はなくとも婚前契約に定める意味はあると考えられます。

その他公序良俗に反する内容

例えば、不倫をしたら慰謝料1億円を支払うという内容は法外な金額の支払いをさせるものですし、不倫をしても異議を述べず慰謝料請求はしないという内容は不貞行為を容認するものです。

このような内容はいずれも公序良俗に反し無効です。

自作の婚前契約にも法的効力はあるか?

ふたりだけで作成した婚前契約も、弁護士などの専門家に依頼していないというだけで法的効力が否定されるわけではありません。

もっとも、婚前契約は、第三者の監督が行き届かないカップル間で交わされる特性があります。そのため、自由な意思で書面にサインしたのか、内容を十分に理解して書面にサインしたのかという作成手続の適正さについて、後日争いになる可能性が高い契約です。

また、婚前契約は、ふたりが夫婦生活、夫婦関係という本来自由に決められる事柄を対象とする特性上、法に違反する無効な内容となりやすい契約です。

したがって、内容面、手続面での有効性を確保するという観点からは、自作の婚前契約は後日その効力が争われる、法的効力が否定されるリスクが高いといえます。

弁護士に依頼をすれば費用はかかりますが、後日争いになったときの経済的損失の方がはるかに大きなものとなりますし、せっかく作成する一生に一度の重要な契約書ですから、作成費用をかけても専門の弁護士に依頼することをお勧めします。

婚前契約の効力と専門家や公正証書との関係

最後に、作成を依頼する専門家や公正証書と婚前契約の法的効力との関係について説明します。

弁護士でなくても効力はある?

弁護士以外にも婚前契約の作成サービスを提供している行政書士や司法書士はいます。確かに、行政書士も司法書士も法律サービスを提供する点では弁護士と同じです。しかし、行政書士は行政手続の申請が本来的な業務ですし、司法書士は登記申請が本来的な業務です。

そのため、婚前契約の作成は本来的業務ではないことから、内容面、表現面で法的に十分でない婚前契約が多くみられます。

また、行政書士や司法書士は、離婚協議、離婚調停・訴訟の経験はありませんので、弁護士のように実際の紛争でどのような点がポイントになるのかについて知識、経験が不足しています。

したがって、作成料金の面では行政書士や司法書士の方が弁護士よりも安価な場合が多いですが、せっかくお金を支払って第三者に作成してもらう以上は、専門の弁護士に依頼をしましょう。

公正証書にしなくても効力はある?

契約書の内容に相手が違反した場合、通常は、まず裁判をして、勝訴判決を得て、その上で強制執行をする必要があります。

契約書を公証役場で公正証書にする一番のメリットは、契約内容に違反があれば、裁判をすることなく、公正証書に基づいて強制執行が可能になる点にあります。そのため、別居する際に婚姻費用の支払いに関する契約書を公正証書にしたり、離婚する際に慰謝料、養育費、財産分与などの支払いに関する離婚協議書を公正証書にすることが多くあります。

もっとも、婚前契約に婚姻費用や養育費、慰謝料などの支払いを定めていたとしても、未だその前提となる別居や離婚が発生していないこともあり、公証人は強制執行を可能にする公正証書を作成してくれません。

このように婚前契約は公正証書にすることができません。

まとめ

以上、婚前契約の法的効力について解説しました。

婚前契約は入籍前にしか作成できない特殊な契約書です。法的効力が認められずに入籍後に後悔することにならないよう、婚前契約の作成は専門弁護士にご相談ください。

婚前契約に強い弁護士はこちら

婚前契約のコラムをもっと読む