著作権侵害は親告罪?告訴の流れから対策までプロが詳しく解説
最終更新日: 2025年01月31日
- 自分の著作物が無断使用されている。自分で告訴しなければいけないのだろうか?
- 著作権侵害で親告罪にあたらないケースはあるのだろうか?
- 著作権侵害で有罪判決を受けた場合、問われる罪を知りたい。
自分の著作物が他人によって無断使用されている場合、刑事告訴や損害賠償請求が可能です。
刑事責任を追及する場合、基本的に被害者が刑事告訴しなければなりません。
被害者は慎重に証拠収集等を行い、刑事告訴の手続きを進めていく必要があります。
そこで今回は、数多くの著作権問題の解決をサポートしてきた専門弁護士が、著作権侵害が親告罪にあたる主な理由、著作権侵害で親告罪にあたらないケース等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 著作権を侵害された場合、基本的には親告罪となり被害者が告訴する必要があるが、例外的に非親告罪となる可能性もある
- 著作権を侵害した加害者を特定するために、発信者開示請求・命令の手続きを行う
- 弁護士にサポートを依頼した方が、刑事告訴をスムーズに進められる
著作権侵害と親告罪
自分の著作物が無断で使用されていた場合、使用した相手に対して民事・刑事上の責任追及が可能です。
民事上は著作権侵害を理由とした損害賠償請求訴訟等の提起、刑事上は基本的に刑事告訴を行い、問題解決を目指していきます。
著作権侵害とは
著作権侵害とは、自分(自社)が創作した音楽・動画・画像・プログラム・イラスト・テキスト等の「著作物」を、他人(他社)が無断で使用する行為を指します。
著作権侵害となるのは、主に次の3つのケースです。
- 自分(自社)の著作物が無断でコピーされ、インターネット上に掲載された
- 自分(自社)の著作物に対し、無断で修正を加えられている
- 他人(他社)が勝手に、自分(自社)の著作物と類似の著作物をつくった
著作権侵害に対し被害者は、民事上では差止請求や損害賠償請求を行い、刑事上では基本的に告訴して、加害者の責任追及を進めていきます。
親告罪とは
親告罪とは、被害者からの訴えがなければ、警察や検察の捜査が行われない罪です。著作権侵害の罪は基本的に親告罪となります(著作権法第123条第1項)。
被害者が警察に加害者の処罰を求めない限り、警察が捜査を開始することや検察が加害者を起訴する刑事手続は行われません。
著作権侵害の発見後、加害者に対し刑事責任を追及したいのであれば、速やかに刑事告訴を行う必要があります。
著作権侵害が親告罪にあたる主な理由
著作権侵害は、国家が主導的に処罰することは不適切と判断されているため被害者が訴えない限り、捜査機関側による捜査・逮捕・起訴は行われません。
親告罪とされる主な理由として「プライバシーの保護」「被害者の意思尊重」があげられます。
プライバシー保護
著作権侵害が親告罪にあたるのは、被害者のプライバシー保護を優先するためです。
捜査機関が主導的に著作権侵害の捜査等を行うと、著作物に関する法的なトラブルが世間に周知されてしまい、逆に被害者が不利益を被る可能性があります。
たとえば、被害者がネット上で次のような誹謗中傷にさらされるリスクが考えられます。
- 警察が動くほど価値の高い著作物ではないという中傷
- 著作物の話題性をあげるため、わざと相手と共謀して著作権侵害を演出したという憶測 等
ネット上で加害者が非難されるだけでなく、被害者も誹謗中傷の対象となる場合があるのです。
被害者の意思尊重
次に、被害者が不問に付すことを希望しているにもかかわらず、わざわざ捜査機関が乗り出して事件とする必要はないと考えられるからです。
著作権侵害は、他人から暴力を受けた、物を破壊された等の犯罪と異なります。
被害者・加害者同士の交渉により、加害者の謝罪・損害賠償で解決できるケースもあるでしょう。
著作権侵害について刑事責任を追及するかどうかは、被害者の対応に委ねることが適当と判断されるためです。
著作権侵害で親告罪にあたらないケース
著作権侵害のすべてが親告罪となるわけではありません。
次の3要件すべてに該当すると「非親告罪」として、捜査機関が告訴を待たずに著作権侵害の捜査等を行うケースもあります(著作権法第123条第2項)。
- 加害者に、対価を得る目的や著作権者の利益を害する目的がある
- 有償著作物等を原作のまま譲渡・公衆送信した、またはこれらの目的のために複製した
- 有償著作物等の提供・提示によって、見込まれる著作権者の利益が不当に害されてしまう
非親告罪となる具体的なケースは、次の通りです。
- 販売中の漫画や小説の海賊版をつくって販売している
- 映画の海賊版をネット上で配信する行為 等
著作権侵害の親告罪で問われる罪
著作権侵害をした加害者は、民事・刑事両面で責任を追及される可能性があります。
もちろん、被害者が民事・刑事のいずれか一方のみを選んで訴えることも可能です。
民事責任
民事責任を追及する場合、被害者は加害者に次のような請求が可能です。
- 著作権侵害の差止め:著作物の販売や配信を停止させる措置
- 損害賠償:金銭による賠償
- 不当利得の返還:被害者が損失を被った分の返還
- 名誉回復措置:被害者が名誉を回復するための措置
被害者が請求可能な損害賠償金額は法律で明記されていませんが、相場は数十万円〜100万円程度とされています。
ただし、著作権侵害の重大性や損失等を考慮し、賠償金額が数億円に上るケースもあるでしょう。
刑事罰
加害者が著作権侵害により逮捕・起訴され、刑事裁判で有罪判決が言い渡されると、次のような重い罰を受ける可能性があります(著作権法第119条第1項)。
- 10年以下の懲役(2025年6月1日以降は拘禁刑)
- 1,000万円以下の罰金
- これらの刑を併科
加害者は最悪の場合、10年にわたり刑事施設へ収容されるだけでなく、1,000万円の罰金も支払わなければなりません。
なお、法人の代表者等が著作権侵害で有罪判決を受けた場合、著作権を侵害した加害者本人が罰せられる他、法人も3億円以下の罰金刑に処されます(著作権法第124条)。
著作権侵害で親告罪の告訴を行うまでの流れ
著作権侵害で刑事告訴するのであれば、まず十分な証拠を収集する等、いろいろな準備が必要となります。
被害者本人が自力で告訴することも可能ですが、前もって弁護士と相談すれば円滑に手続きを進められます。
弁護士への相談
著作権侵害による刑事告訴をしようと思っても、被害者はどのように手続きを進めていけばよいかわからない場合もあるでしょう。
そのような場合は、事前に弁護士と相談して対応方法のアドバイスを受けましょう。弁護士は被害者から事情をヒアリングし、次のようなアドバイスを行います。
- 加害者の行為が著作権侵害にあたるか
- 著作権侵害の証拠収集の方法
- ネット上で著作権侵害が行われている場合の加害者の特定方法
- 告訴状の作成・提出方法
- その他の対応方法の説明
弁護士に相談をして「この弁護士に著作権侵害の対応を任せたい」と思ったときは、そのまま弁護士に委任してもよいでしょう。
弁護士は被害者の代理人となり著作権問題の解決のため、様々な手続きを進めていきます。
証拠収集
著作権が侵害されている証拠を収集しましょう。たとえば、次のような証拠を揃えます。
- 侵害している著作物(海賊版)の販売状況を撮影した画像や動画
- 著作物が無断でアップロードされている画面のスクリーンショット
- 著作権を侵害した加害者とやり取りしたメッセージの記録
- 著作権を侵害した加害者との通話の録音
画像や動画・音声・書面など多角的に証拠を収集し、捜査機関に提出すれば、著作権侵害の捜査が開始される可能性が高くなります。
発信者情報開示請求・命令
ネット上で著作権侵害を発見した場合、刑事告訴や損害賠償請求を行う前提として、「発信者情報開示請求(プロバイダ責任制限法第5条)」または「発信者情報開示命令(同法第8条)」を行いましょう。
早急にいずれかの手続きを行えば、著作権侵害を行った加害者を特定できる可能性が高くなります。
発信者開示請求・命令の手続き方法は、次の通りです。
- 発信者情報開示請求:無断で著作物を掲載されたサイトの運営者に対して、加害者に関するIPアドレスの任意開示請求が可能。開示されたIPアドレス情報からプロバイダを特定後、裁判所に「発信者情報開示請求訴訟」を提起し、プロバイダへ加害者の個人情報開示を求めていく。
- 発信者情報開示命令:裁判所に個人情報開示の申立手続きを進める。裁判所を通し、無断で著作物が掲載されたサイトの運営者とプロバイダに対して、まとめて加害者の個人情報開示を求めていく。
発信者情報開示請求・命令、どちらの手続きを選ぶかは、著作権侵害を受けた被害者次第です。
申立てが認められた場合、加害者の情報を管理するプロバイダから、加害者氏名・住所・電話番号・メールアドレス等が開示されます。
告訴状の作成・提出
証拠を揃えて加害者を特定してから、警察に刑事告訴します。
刑事告訴するときは、証拠の提示はもちろん告訴状の作成・提出も必要です。告訴状には次のような内容を記載します。
- 告訴人(被害者)の住所・氏名や職業、生年月日、電話番号
- 被告訴人(加害者)の住所・氏名や職業、生年月日
- 告訴の趣旨:被告訴人による著作権侵害があったため告訴する旨
- 告訴の事実:著作権侵害を発見した経緯の明記
- 告訴の事情:著作権侵害の内容の明記
- 立証方法:得られた証拠による著作権侵害の立証を明記
- 添付書類:得られた証拠
被告訴人(加害者)の個人情報が特定できていない場合でも、告訴状の提出は可能です。
ただし、加害者の特徴を明記できなければ、警察が加害者を見つけ出すことが困難になり、逮捕にまで至らない場合もあるでしょう。
著作権侵害を親告罪として訴えるときの注意点
著作権侵害は親告罪のため基本的に刑事告訴をしなければ、捜査機関による捜査は開始されません。
被害者が刑事告訴を行うときに、注意しなければならない点があります。
一人で対応しない
著作権を侵害されたと憤るだけでは、問題の解決を円滑に行えなくなります。
冷静に発信者開示請求・命令の手続きを進めなければ、加害者の個人情報は得られません。
また、告訴状に客観的な事実を明確に記載し、証拠も提示しなければ、警察に受理されない可能性が高いでしょう。
自分だけでは冷静な対応ができない・手続きの進め方に不安を感じるという場合は、法律の専門家である弁護士の助けを借りましょう。
弁護士が代理人となれば依頼者に代わり、著作権侵害の解決に必要な手続きを進めていきます。
時効への注意
著作権侵害で民事責任・刑事責任を追及する場合、いずれも時効等に注意しましょう。
民事責任を問う場合、損害賠償請求権(民法第724条)の時効・除斥期間は次の通りです。
- 時効:著作権侵害または加害者を知った時から3年
- 除斥期間:著作権侵害の時から20年
いずれかの期間を経過すると損害賠償請求権は消滅してしまいます。
一方、刑事責任を問う場合の時効は、次の通りです。
- 親告罪の場合(刑事訴訟法第235条):加害者を知った時から6か月
- 非親告罪の場合(同法第250条):10年以内の懲役(拘禁刑)にあたる罪7年、5年以内の懲役(拘禁刑)にあたる罪5年
著作権侵害の親告罪を受けた後の対策
著作権侵害で刑事告訴された側である場合も、冷静に状況を把握し、弁護士と相談しながら、今後どのように対応していくべきかを検討しましょう。
弁護士への相談
著作権侵害で刑事告訴された場合、どのように対応してよいかわからない場合、弁護士に相談し、アドバイスを受けましょう。
弁護士は著作権侵害の内容についてよく確認し、次のアドバイスを行います。
- 相談者の行為が著作権侵害にあたるか
- 過失(不注意)だったという事実を主張するコツ
- 示談による解決を目指す必要性
- 示談交渉が決裂した場合の対応
- 逮捕された場合の対処法等
相手方からの刑事告訴により、逮捕されるおそれが出てきた場合は、相談だけではなく私選弁護人として依頼しましょう。
たとえ逮捕されても、弁護士は代理人として、捜査機関に早期の釈放を働きかける等、様々な弁護活動を行います。
過失の有無の確認
速やかに指摘された著作権侵害の内容を確認しましょう。自分の過失(不注意)で、結果的に著作権侵害のような事態となったときは、民事と刑事で対応が分かれます。
- 民事責任:故意(わざと)または過失(不注意)により、著作権侵害を行った場合、賠償責任等が生じる
- 刑事責任:処罰されるのは故意(わざと)の場合のみ、過失(不注意)の場合は罰せられない
過失による著作権侵害の場合は、民事責任だけが問われます。
証拠の確保
わざと著作権侵害をしたわけではない場合や、著作権侵害を主張する側に誤解がある場合は、それらを明らかにする証拠の収集が必要です。
著作権侵害を主張する側とのメールのやりとり、著作権に係る契約書、著作物の制作過程の記録等をできるだけ確保しておきましょう。
これらの証拠は捜査機関への説明や訴訟のときに、著作権侵害を主張する側にとって有効な反論材料となります。
示談交渉
示談による和解ができれば、著作権侵害を主張する側からの損害賠償請求訴訟や刑事告訴のとりやめ(取下げ)が期待できます。
そのため、示談交渉が成立すると最小限の負担で問題を解決できるでしょう。交渉のときは次のように条件をとりまとめます。
- 相手に著作権侵害を謝罪し、二度と侵害しないと誓う
- 示談金額、支払い方法、支払い期限を決める
- 著作権を侵害している画像や動画の削除、出版物の停止等
- 示談成立後はお互いが問題を蒸し返さない旨
- 取り決めた約束を破った場合の法的措置 等
示談がまとまれば弁護士は示談書(合意書)を2通作成し、示談当事者が1通ずつ大切に保管します。
著作権侵害の親告罪でお困りなら弁護士にご相談を
今回は多くの著作権問題の解決に尽力してきた専門弁護士が、著作権問題を解決するポイント等について詳しく解説しました。
著作権侵害の解決にはいろいろな法律の知識が必要です。法律の専門家である弁護士のサポートを受け、迅速に解決を進めましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。