労災の不服申立て、自分でできる?弁護士に頼むメリット・デメリット

2026年04月28日

労災の不服申立て、自分でできる?弁護士に頼むメリット・デメリット

仕事中のケガや通勤中の事故、あるいは業務が原因の病気。これらに対して補償を行うのが労働者災害補償保険(労災保険)制度です。しかし、勇気を出して労災申請をしたものの、労働基準監督署から届いた決定内容に「どうして?」「納得できない…」と不満や疑問を感じるケースは少なくありません。

もし、労災の決定に納得がいかないのであれば、諦める必要はありません。「不服申立て」という、決定の見直しを求める正当な権利があります。

この記事では、労災の不服申立て制度の全体像から、ご自身で手続きを進める場合の注意点、そして法律の専門家である弁護士に依頼するメリット・デメリットまで、詳しく解説します。あなたの状況に合った最善の選択をするための一助となれば幸いです。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士 春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内法律事務所勤務
当事務所開設
資格
宅地建物取引士
情報処理安全確保支援士
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目次

労災の決定に不服があるときは「不服申立て」ができる

労災申請に対する決定は、労働基準監督署長が行います。しかし、その判断が常に正しいとは限りません。提出された資料だけでは業務との関連性が十分に伝わらなかったり、医学的な判断が実態と異なっていたりすることもあります。

このような、行政庁の決定に不服がある場合に、その決定の取消しや変更を求めて不服を申し立てる手続きが「不服申立て」です。労災保険制度では、労働者の権利を守るために、この不服申立ての道がきちんと用意されています。

こんな決定に納得できない場合は不服申立てを検討しよう

具体的には、以下のような決定に対して不服申立てを検討する方が多くいらっしゃいます。ご自身の状況と照らし合わせてみてください。

労災申請が認められず「不支給決定」となった

そもそも業務による災害(業務災害)や通勤による災害(通勤災害)と認められなかったケースです。特に、過労死やうつ病などの精神障害、腰痛などのケースで争点となりやすいです。

後遺障害の等級が低い、または認定されなかった

治療を続けても完治せず、身体に障害が残ってしまった場合に請求する「障害(補償)給付」。認定された障害等級によって給付額が大きく変わるため、「残った症状の重さに見合わない低い等級に認定された」「障害等級非該当とされた」といった場合に不服申立てを検討します。

休業(補償)給付の期間や金額に納得できない

「まだ働ける状態ではないのに、一方的に給付を打ち切られた」「休業開始前の給与額(給付基礎日額)の算定が低すぎる」といったケースです。

療養(補償)給付の範囲が限定された

「治療に必要な費用の一部が認められなかった」「希望する病院での治療が認められない」など、治療費に関する決定に不満がある場合も対象となります。

遺族(補償)給付が不支給になった

亡くなった労働者の遺族が請求する給付です。労働者の死亡が業務によるものではないと判断され、不支給となった場合に不服申立てが行われます。

これらの決定通知書を受け取って「おかしい」と感じたら、次のステップである不服申立て手続きについて知ることが重要です。

労災の不服申立て手続き|3つのステップを解説

労災の不服申立ては、いきなり裁判所に訴えることはできず、法律で定められたステップを順番に踏んでいく必要があります。これを「審査請求前置主義」と呼びます。具体的には、以下の3つのステップで進んでいきます。

審査請求

最初のステップが「審査請求」です。これは、元の決定(原処分)を行った労働基準監督署の上級庁に当たる、各都道府県労働局に置かれた「労働者災害補償保険審査官」に対して行います。

  • 請求先:決定を下した労働基準監督署を管轄する「都道府県労働局」の労働者災害補償保険審査官
  • 請求期間:原処分の決定があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内
  • 手続き:「審査請求書」を作成し、必要な証拠書類を添えて提出します。口頭または文書で審理が行われ、審査官が決定(認容、棄却、却下)を下します。

この「3ヶ月」という期間は非常に重要です。1日でも過ぎてしまうと、原則として審査請求ができなくなり、その後の手続きに進む権利を失ってしまいます。決定に疑問を感じたら、まずこの期限を意識して行動を開始しましょう。

再審査請求

審査請求の結果(審査官の決定)にも不服がある場合、次のステップとして「再審査請求」ができます。

  • 請求先:厚生労働省内に設置されている「労働保険審査会」
  • 請求期間:審査請求の決定があったことを知った日の翌日から2ヶ月以内
  • 手続き:「再審査請求書」を提出します。労働保険審査会は、労働者代表、使用者代表、公益代表の各委員で構成される合議体で、より中立的・専門的な立場で審理を行います。公開審理が原則で、請求人は口頭で意見を述べる機会も与えられます。

審査請求よりも、さらに専門的で慎重な審理が期待できますが、その分、主張や立証のハードルも上がると考えた方がよいでしょう。

取消訴訟(行政訴訟)

再審査請求の裁決にも納得できない場合、最終手段として裁判所に訴えを起こす「取消訴訟」を提起することができます。

  • 提訴先:地方裁判所
  • 提訴期間:再審査請求の裁決があったことを知った日から6ヶ月以内
  • 手続き:国(所轄:厚生労働大臣)を被告として、処分の取消しを求める訴訟を提起します。ここからは完全に司法の場となり、弁護士のサポートなしに進めることは極めて困難です。

このように、労災の不服申立ては段階的に進み、各ステップで厳しい期間制限が設けられています。

労災の不服申立ては自分でできる?

結論から言うと、審査請求や再審査請求の手続きを、弁護士に依頼せず自分自身で行うことは「可能」です。しかし、それは決して「簡単」なことではありません。

自分で手続きを進める場合のポイントと注意点

もしご自身で手続きを進めるのであれば、以下の点を強く意識する必要があります。

期限の絶対厳守

何度もお伝えしますが、審査請求は3ヶ月、再審査請求は2ヶ月という期限が最も重要です。カレンダーに印をつけるなど、徹底した管理が必要です。

説得力のある請求書の作成

審査請求書や再審査請求書には、「請求の趣旨(何を求めているか)」と「請求の理由(なぜ元の決定が誤っていると考えるか)」を具体的に記載しなければなりません。単に「納得できない」といった感情的な訴えだけでは不十分です。どの事実認定が誤っているのか、どの法令解釈が間違っているのかを、論理的に説明する必要があります。

客観的な証拠の収集

決定を覆すためには、元の決定時には提出されていなかった、あるいは考慮されていなかった「新たな客観的証拠」が極めて重要になります。例えば、別の医師による詳細な意見書やカルテ、事故状況を証明する新たな証言や資料、専門家による鑑定書などが考えられます。

情報収集と学習

厚生労働省のウェブサイトや関連書籍を読み込み、労災認定の基準や過去の事例について知識を深める努力が求められます。

自分で行うのが難しいケースとは

以下のようなケースでは、ご自身だけで手続きを進めるのは特に難易度が高く、専門家である弁護士への相談を強くおすすめします。

過労死・過労自殺、精神障害など医学的知見が争点の場合

業務と発症との因果関係を医学的に証明する必要があり、高度な専門知識が求められます。

後遺障害等級の妥当性が争点の場合

現在の症状が、障害等級認定基準のどの項目に、どのように該当するのかを医学的根拠に基づいて主張する必要があります。

審査請求で一度棄却された決定を覆したい場合

一度、専門家である審査官が「棄却」と判断したものを覆すには、再審査請求や訴訟で、より強力な証拠と精緻な法的構成が必要になります。

仕事や治療で時間的・精神的な余裕がない場合

不服申立ての手続きは非常に時間がかかり、精神的にも大きな負担となります。本業や治療に専念するためにも、専門家に任せるメリットは大きいでしょう。

不服申立てを弁護士に依頼するメリット・デメリット

自分で行うべきか、弁護士に頼むべきか。判断するために、弁護士に依頼する場合のメリットとデメリットを具体的に見ていきましょう。

メリット:複雑な手続きや証拠集めを任せられる

不服申立てには、期限管理、請求書の作成、行政機関とのやり取り、証拠収集など、多くの煩雑な作業が伴います。弁護士に依頼すれば、これらすべてを代行してもらえます。あなたは治療や生活の立て直しに専念することができ、手続きのストレスから解放されます。

メリット:専門的な知見で認定の可能性を高められる

労災問題に精通した弁護士は、過去の裁判例や認定基準を熟知しています。労働基準監督署の決定のどこに問題点があるのかを法的な観点から鋭く見抜き、それを覆すためにどのような証拠が有効かを的確に判断できます。

例えば、医師に意見書を依頼する際も、ただお願いするのではなく、法的に重要なポイントを押さえた内容を記載してもらうよう働きかけることができます。これにより、決定が覆る可能性を大きく高めることが期待できます。

メリット:精神的な負担が軽くなる

「国」という大きな組織を相手に、たった一人で立ち向かうのは大変な心細さを伴います。専門家である弁護士が味方となり、あなたの代わりに主張・立証を行ってくれることは、計り知れない安心感につながります。行政機関からの難しい通知や問い合わせにも、すべて弁護士が対応してくれるため、精神的な負担が大幅に軽減されます。

デメリット:弁護士費用がかかる

唯一にして最大のデメリットは、弁護士費用が発生することです。費用体系は事務所によって異なりますが、一般的に「相談料」「着手金」「成功報酬」「実費」などで構成されます。

しかし、近年は「初回相談無料」の法律事務所がほとんどです。また、労災事件については、初期費用である着手金を無料とし、給付が認められた場合にその一部を報酬として支払う「完全成功報酬制」を採用している事務所も増えています。

費用が心配な場合でも、まずは無料相談を利用して、費用体系や見通しについて詳しく話を聞いてから依頼するかどうかを判断するのが良いでしょう。

労災の不服申立てに関するよくある質問

Q:不服申立てに費用はかかりますか?

A:ご自身で審査請求・再審査請求を行う場合、申立て自体の手数料はかかりません。

ただし、決定を覆すための証拠として、医師の診断書や意見書を取得したり、専門家に鑑定を依頼したりする場合には、その費用は自己負担となります。弁護士に依頼する場合は、前述の通り弁護士費用がかかります。

Q:申立てをすれば必ず決定が覆りますか?

A:いいえ、残念ながら必ず覆るとは限りません。不服申立てが認められる(認容される)割合は、決して高いとは言えないのが実情です。

しかし、これはあくまで全体的な統計です。適切な証拠を提出し、説得力のある主張を行うことで、決定が覆った事例も数多く存在します。諦めずに挑戦する価値は十分にあります。弁護士に相談すれば、あなたのケースでどの程度の可能性があるか、客観的な見通しを聞くことができます。

Q:会社との関係が悪化しませんか?

A:労災の不服申立ては、決定を下した「国(労働基準監督署)」に対して行うものであり、会社を直接訴える手続きではありません。

そのため、本来であれば、不服申立てをしたことによって会社との関係が悪化するべきではありません。労災保険を使うことは労働者の正当な権利です。

万が一、不服申立てを理由に会社から解雇や嫌がらせなどの不利益な扱いを受けた場合、それは不当な行為(不利益取扱い)にあたる可能性があります。その際は、不服申立ての問題とは別に、弁護士に相談することをおすすめします。

Q:いつ弁護士に相談すれば良いですか?

A:結論としては「労災の決定に納得できない、と思った時点でできるだけ早く」相談することをおすすめします。

不服申立てには「3ヶ月」という厳しい期限があるため、迷っているうちに期限が過ぎてしまうのが最も避けるべき事態です。

決定通知書が届いたら、労災問題に詳しい弁護士を探し、初回相談を予約しましょう。早い段階で相談することで、弁護士も証拠集めなどの準備に十分な時間をかけることができ、より有利に手続きを進められる可能性が高まります。

まとめ

労災保険の決定に不服がある場合、泣き寝入りする必要はありません。あなたには「審査請求」「再審査請求」「取消訴訟」という3つのステップで決定の見直しを求める権利があります。

ただし、各ステップには厳しい期間制限があり、決定を覆すためには専門的な知識と客観的な証拠に基づいた主張が不可欠です。ご自身で手続きを進めることも可能ですが、その難易度は決して低くありません。

もしあなたが、

  • 手続きの進め方がわからない
  • 決定を覆す自信がない
  • 仕事や治療で時間的・精神的な余裕がない

と感じているのであれば、労災問題に詳しい弁護士に相談することを強くおすすめします。費用はかかりますが、それを上回るメリット(認定の可能性向上、手続きの負担軽減、精神的安心感)が期待できます。

多くの法律事務所では初回相談を無料で行っています。「納得できない」というその気持ちを、まずは専門家に話してみることから始めてみてはいかがでしょうか。それが、あなたの正当な権利を取り戻すための、大きな一歩になるはずです。

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