過労死の労災認定基準を弁護士が解説。申請で後悔しないための知識

2026年05月01日

過労死の労災認定基準を弁護士が解説。申請で後悔しないための知識

大切なご家族が過酷な労働によって命を落とされた場合、ご遺族の悲しみは計り知れません。「会社に責任を問いたい」「労災として認めてほしい」と考えるのは当然のことです。

しかし、過労死の労災認定は決して簡単な手続きではなく、専門的な知識と周到な準備が求められます。

本記事では、過労死の労災認定基準や申請手続きの流れ、会社への損害賠償請求について、弁護士がわかりやすく解説します。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士 春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内法律事務所勤務
当事務所開設
資格
宅地建物取引士
情報処理安全確保支援士
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目次

過労死とは?まず知っておきたい定義と「過労死ライン」

過労死等の定義

過労死とは、業務上の過度な負担が原因で引き起こされる突然死や、精神的な追い詰めによる自殺などを指します。

「過労死等防止対策推進法」では、業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡、および強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡などを「過労死等」と定義しています。

時間外労働の目安「過労死ライン」とは

過労死の認定において重要な指標となるのが「過労死ライン」です。これは、健康障害のリスクが高まるとされる時間外労働(残業)時間の目安です。

具体的には、「発症前1ヶ月間に概ね100時間」または「発症前2ヶ月ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月当たり概ね80時間」を越える時間外労働があった場合、業務と発症との関連性が強い(過労死ラインを超えている)と評価されます。

【重要】過労死の労災認定基準をケース別に解説

脳・心臓疾患の労災認定基準

対象となる疾病

過労が原因で発症しやすい脳・心臓疾患には、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)などがあります。

これらの疾病が労災の対象となります。

認定の3つの要件(過重業務)

脳・心臓疾患が労災と認められるためには、以下のいずれかの過重業務があったことが要件となります。

  • 異常な出来事
    発症直前から前日までの間に、極度の緊張、興奮、恐怖、驚愕等の強烈な精神的負荷を引き起こす突発的または予測困難な異常な事態があった場合。

  • 短期間の過重業務
    発症前およそ1週間に、日常業務に比べて特に過重な身体的・精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務に就労した場合。

  • 長期間の過重業務
    発症前の概ね6ヶ月間にわたり、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(過労死ラインを超える残業など)に就労した場合。

精神障害・過労自殺の労災認定基準

対象となる精神障害

過労や職場のストレスが原因で発症する精神障害としては、うつ病、適応障害、急性ストレス反応などが代表的です。

これらを原因とする自殺(過労自殺)も対象となります。

認定の3つの要件

精神障害の労災認定には、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  • 対象となる精神障害を発病していること。
  • 発病前のおおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷(ストレス)が認められること。
  • 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと。

【2021年改正】労災認定基準の見直しのポイント

2021年(令和3年)に脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されました。

大きなポイントとして、過労死ライン(月80時間等の残業)に至らない労働時間であっても、「労働時間以外の負荷要因(不規則な勤務、深夜勤務、休日のない連続勤務、心理的、肉体的負荷を伴う業務など)」を総合的に評価し、労災認定されやすくなったことが挙げられます。

後悔しないための過労死の労災申請手続きと流れ

証拠を収集する

労災申請において最も重要なのは客観的な証拠です。会社が協力的でないケースも多いため、ご遺族自身で証拠を集める必要があります。

労働時間を証明する証拠

タイムカード、出勤簿、業務日報、パソコンのログイン・ログオフ記録、メールの送信時刻、オフィスの入退館記録、通勤に利用した交通ICカードの履歴などが有効です。

業務の負荷を証明する証拠

手帳や日記、同僚・家族へのLINEやメール、業務上のトラブルを示す書類などが挙げられます。

労働基準監督署に労災申請を行う

集めた証拠を基に、所轄の労働基準監督署に労災保険給付の請求書を提出します。

過労死の場合は「遺族補償年金」などの請求となります。

 

※労災申請の具体的な手続きと流れについては、こちらの記事で解説しています。

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労働基準監督署による調査

請求書が提出されると、労働基準監督署が調査を開始します。

会社への事情聴取、同僚への聞き取り、カルテなどの医学的所見の収集が行われます。

労災認定または不認定の決定

調査結果に基づき、労働基準監督署長が労災と認めるかどうかの決定を下します。

過労死の調査は慎重に行われるため、申請から結果が出るまで半年から1年以上かかることも珍しくありません。

不認定の場合の不服申立て(審査請求・再審査請求)

もし「不認定」となった場合でも諦める必要はありません。

決定を知った日の翌日から3ヶ月以内に、労働者災害補償保険審査官に対して「審査請求」を行うことができます。

それでも結果が覆らない場合は、「再審査請求」や裁判(取消訴訟)へと進むことが可能です。

労災認定後に受けられる補償と会社への損害賠償請求

労災保険から支給される給付の種類

遺族(補償)給付

亡くなられた労働者の収入によって生計を維持していたご遺族に対し、「遺族補償年金」が支給されます。

要件を満たさない場合は一時金として「遺族補償一時金」が支払われます。

 

※労災保険から支給される給付金額の相場については、こちらの記事をご覧ください。

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葬祭料(葬祭給付)

お葬式を行った方(通常はご遺族)に対して、葬儀にかかる費用の一部として「葬祭料」が支給されます。

会社に対する損害賠償請求

会社の安全配慮義務違反とは

労災認定されたからといって、すべてが解決するわけではありません。

労災保険では慰謝料などは支払われないため、会社に対して損害賠償請求を行うことが考えられます。

 

※労災認定後に会社へ損害賠償請求する方法については、こちらの記事で解説しています。

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会社は労働者が安全で健康に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っており、長時間労働の放置やパワハラなどはこの義務の違反に当たります

請求できる損害賠償の内訳(逸失利益・慰謝料など)

会社に対しては、亡くなられた方の「慰謝料」、生きていれば得られたはずの将来の収入である「逸失利益」などを請求できます。

これらは数千万円から一億円を超える高額になることもあります。

 

※死亡事案における慰謝料の弁護士基準と相場について、こちらの記事で詳しく解説しています。

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過労死の労災申請で弁護士に相談するメリット

複雑な手続きや証拠収集を任せられる

過労死の労災申請は、一般的なケガの労災とは異なり、要件が複雑で膨大な証拠収集が必要です。

弁護士に依頼することで、タイムカードの開示請求や証拠保全手続きなど、的確な証拠収集を任せることができます。

医学的な因果関係の主張・立証をサポートしてもらえる

業務と死亡(発症)との因果関係を証明するには、医学的・法的な知見が不可欠です。

労災問題に精通した弁護士であれば、医師の意見書を準備するなど、強力な立証活動が可能です。

会社との損害賠償交渉を有利に進められる

会社に対する損害賠償請求は、会社側との厳しい交渉となります。

弁護士が代理人として交渉の矢面に立つことで、適切な賠償金を獲得できる可能性が高まります。

精神的な負担を軽減できる

ご遺族が悲しみの中で複雑な手続きを行い、冷淡な会社側とやり取りすることは多大な精神的苦痛を伴います。

弁護士がすべてを代行することで、ご遺族の負担を大きく軽減できます。

 

※弁護士費用特約で自己負担をゼロにする方法については、こちらの記事をご覧ください。

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過労死の労災認定に関するよくある質問(FAQ)

過労死の労災申請には期限(時効)がありますか?

はい、労災保険の給付請求には時効があります。

遺族(補償)給付は、労働者が亡くなった日の翌日から5年以内、葬祭料は亡くなった日の翌日から2年以内に申請する必要があります。時効を過ぎると請求権が消滅してしまうため、早めの準備と申請が重要です。

会社が労災申請に協力してくれない場合でも申請できますか?

はい、申請可能です。

本来、会社は労災申請に協力する義務がありますが、過労死のケースでは責任追及を恐れて協力を拒む会社も少なくありません。

会社からの事業主証明(押印)がもらえない場合でも、労働基準監督署に事情を説明して申請書を受理してもらうことができます

過労死ライン(月80時間など)に届かない残業時間でも労災認定されますか?

認定される可能性はあります。

2021年の認定基準改正により、労働時間だけでなく、労働時間以外の負荷要因(休日のない連続勤務、深夜勤務、出張の多さ、過酷なノルマや精神的緊張を伴う業務など)が総合的に評価されるようになりました。

残業が過労死ライン未満でも、他の要因との組み合わせで業務の過重性が認められるケースが増えています。

発症前に異動や転職があった場合、労災認定のための期間はどのように計算されますか?

脳・心臓疾患の労災認定においては、原則として発症前6ヶ月間の業務過重性が評価されます。

この期間内に異動や配置転換があった場合でも、前の部署での負荷を含めて総合的に評価されます。

また、複数の会社を掛け持ちしている副業・兼業の場合、すべての就業先での労働時間やストレスを合算して評価するよう制度が改正されています。

まとめ

過労死の労災認定はハードルが高いのが現実ですが、泣き寝入りする必要はありません。過労死ラインの知識や2021年の認定基準の改正を踏まえ、適切な証拠を集めることが労災認定への第一歩です。

また、労災申請から会社への損害賠償請求まで、適正な補償を受けるためには専門的な知識が欠かせません。

申請で後悔しないためにも、過労死問題に直面した際は、一人で抱え込まずに早めに労災問題に詳しい弁護士へご相談ください。

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