骨折の労災と損害賠償|会社に請求できる費用と手続きを弁護士が解説

2026年05月25日

骨折の労災と損害賠償|会社に請求できる費用と手続きを弁護士が解説

仕事中に骨折してしまった場合、激しい痛みや治療による苦痛だけでなく、「仕事に復帰できるのか」「生活費や治療費はどうなるのか」といった大きな不安を抱えることでしょう。業務中の事故による骨折は「労災」として認定される可能性が高く、労災保険から様々な給付を受け取ることができます。

しかし、労災保険からの給付だけでは、被った損害をすべてカバーできるわけではありません。会社に安全配慮義務違反などの責任がある場合は、労災保険とは別に、会社に対して損害賠償請求を行うことが可能です。

この記事では、仕事中の骨折で会社に請求できる費用や手続きの流れについて、弁護士が詳しく解説します。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士 春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内法律事務所勤務
当事務所開設
資格
宅地建物取引士
情報処理安全確保支援士
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目次

仕事中の骨折で受けられる2種類の補償とは?

業務中に骨折などのケガを負った場合、労働者が受けられる補償は大きく分けて以下の2種類があります。

国の制度である「労災保険」からの給付

労災保険(労働者災害補償保険)は、労働者が業務中や通勤中にケガや病気をした場合に、国が必要な給付を行う制度です。正社員だけでなく、パートやアルバイトであっても適用されます。労働者に過失があった場合でも、原則として給付を受けられるのが特徴です。

会社に対する「損害賠償請求」

労災事故の原因が会社側の安全管理の不備などにあった場合、労働者は会社に対して民法上の損害賠償請求を行うことができます。労災保険ではカバーされない慰謝料などの項目について、会社に直接請求して補償を求める手続きです。

労災保険から給付される主な補償内容

労災保険からは、骨折の治療や生活を支えるための様々な給付が行われます。代表的なものは以下の通りです。

療養(補償)給付:治療費や薬代など

骨折の治療にかかる診察費、手術代、薬代、入院費用などが全額支給されます。労災指定病院で治療を受ける場合は、窓口での支払いが不要(現物給付)となります。指定病院以外の場合は、一旦立て替えた後に請求して還付を受けます。

休業(補償)給付:仕事を休んでいる間の収入補償

骨折の治療のために仕事を休み、給与が支払われない場合に支給されます。休業4日目から、給付基礎日額(平均賃金)の60%の休業補償給付と、20%の休業特別支給金が支払われ、合計で実質的に給与の約80%が補償されます。

障害(補償)給付:後遺障害が残った場合の補償

骨折の治療を続けても完治せず、関節の可動域制限や痛みなどの後遺症(後遺障害)が残ってしまった場合に支給されます。労働基準監督署によって後遺障害等級が認定されると、その等級に応じた年金または一時金が支払われます。

労災保険だけでは不十分!会社に損害賠償請求できるケース

労災保険は労働者を守る重要な制度ですが、すべての損害が補償されるわけではありません。次のようなケースでは、会社に対する損害賠償請求を検討すべきです。

会社に「安全配慮義務違反」がある場合

会社には、労働者が安全かつ健康に働けるように配慮する義務(安全配慮義務)があります。この義務に違反した結果として骨折などの労災事故が発生した場合、会社は労働者に対して損害賠償責任を負います。

安全配慮義務違反と認められる具体例

  • 高所作業において、安全帯や命綱などの落下防止措置を怠っていた
  • 機械の安全カバーが外れたまま作業をさせていた
  • 新人に対して十分な安全教育や機械の操作指導を行わずに危険な作業をさせた
  • ヘルメットや安全靴などの保護具を支給していなかった

労災保険では慰謝料は支払われない

労災保険からは、治療費や休業補償などは支払われますが、骨折の痛みや後遺症に対する精神的苦痛を慰謝するための「慰謝料」は一切支給されません。そのため、慰謝料を受け取るには、会社に対して損害賠償請求を行う必要があります。

会社に請求できる損害賠償の内訳

会社に対して損害賠償請求を行う場合、具体的に以下のような項目を請求できます。

治療関係費(労災保険でカバーされない費用)

労災保険で全額カバーされなかった差額の入院雑費、交通費、家族の付添看護費などを請求できます。

休業損害(休業補償給付では足りない差額分)

労災保険の休業補償給付では平均賃金の60%しか支払われません(特別支給金の20%は損害賠償から控除されません)。残りの40%の差額分について、会社に休業損害として請求することが可能です。

入通院慰謝料(入院・通院による精神的苦痛への補償)

骨折により入院や通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する慰謝料です。治療期間や入院日数に応じて、裁判基準(弁護士基準)に基づき適正な金額を算定して請求します。

後遺障害慰謝料(後遺障害が残ったことによる精神的苦痛への補償)

骨折によって後遺障害が残ってしまった場合の精神的苦痛に対する慰謝料です。認定された後遺障害等級に応じて相場が決まっており、重度の等級であるほど金額は高くなります。

逸失利益(後遺障害によって将来得られなくなった収入)

後遺障害が残ったことで労働能力が低下し、将来得られるはずだったのに得られなくなってしまった収入(減収分)を補償するものです。事故前の収入、労働能力喪失率、稼働可能期間などを基に計算されます。

労災による骨折で損害賠償を請求する手続きの流れ

会社に対して損害賠償を請求する一般的な流れは以下の通りです。

労災申請と治療への専念

まずは速やかに労働基準監督署へ労災申請を行い、労災保険の給付を受けながら骨折の治療に専念します。医師の指示に従い、定期的に通院することが重要です。

会社に責任があることを示す証拠の収集

会社への損害賠償請求を見据え、事故直後から証拠を集めます。現場の写真、同僚の証言、作業マニュアル、労働時間の記録など、会社の安全配慮義務違反を裏付ける証拠を確保します。

後遺障害等級認定の申請(症状固定後)

これ以上治療を続けても症状が改善しない状態(症状固定)になったら、後遺障害等級認定の申請を行います。医師に適切な後遺障害診断書を作成してもらうことが認定の鍵となります。

損害額を計算し、会社との示談交渉を開始

後遺障害等級が確定したら、慰謝料や逸失利益などの損害額を正確に計算し、会社(または会社が加入する任意労災保険会社)に対して請求を行い、示談交渉を開始します。

交渉がまとまらなければ訴訟(裁判)を提起

会社側が責任を否定したり、提示された賠償額が不当に低かったりして示談交渉が決裂した場合は、裁判所へ労働審判の申し立てや損害賠償請求訴訟(裁判)を提起して解決を図ります。

労災による骨折を弁護士に相談するメリット

労災事故で骨折した場合、個人で会社と交渉するのは非常に困難です。弁護士に依頼することで以下のメリットがあります。

会社との交渉や手続きをすべて任せられる

複雑な損害額の計算や、証拠の収集、会社との厳しい交渉を弁護士が代理で行います。労働者は精神的な負担から解放され、治療やリハビリ、仕事への復帰に専念できます。

適切な後遺障害等級の獲得をサポートしてもらえる

骨折による可動域制限や神経症状などの後遺障害等級を適正に認定してもらうため、医師への診断書作成の依頼方法や必要な検査について、医学的・法的な観点から的確なアドバイスを受けられます。

裁判基準での計算により賠償金の増額が期待できる

会社側は自社の負担を減らすために低い金額を提示してくる傾向があります。弁護士が介入することで、過去の裁判例に基づいた最も高額な「裁判基準」で損害額を再計算して交渉するため、賠償金の大幅な増額が期待できます。

労災の骨折に関するよくある質問

Q:疲労骨折も労災になりますか?

A:業務の過重性や反復動作が原因で疲労骨折を発症したと医学的に証明できれば、労災として認定される可能性があります。業務内容と骨折の因果関係を客観的なデータで示すことが重要です。

Q:会社が労災申請に協力してくれません。どうすればいいですか?

A:会社が労災申請書への事業主印の押印を拒否する(労災隠し)場合でも、労働者自身で労働基準監督署に申請を行うことができます。その際、会社が協力してくれない旨を「事業主証明拒否理由書」として添付して提出します。

Q:会社から見舞金をもらいましたが、損害賠償請求はできますか?

A:見舞金を受け取っていても、原則として損害賠償請求は可能です。ただし、見舞金の趣旨が「損害賠償の一部」として支払われた性質のものである場合は、最終的な損害賠償額からその金額が差し引かれる(控除される)ことがあります。示談書などにサインをする前に弁護士に確認することをお勧めします。

Q:退職してしまった後でも、会社に損害賠償請求は可能ですか?

A:退職後であっても、時効の期間内であれば会社に対して損害賠償請求を行うことが可能です。安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効は、原則として権利を行使できることを知った時から5年(または10年)です。

まとめ

仕事中に骨折した場合、労災保険から治療費や休業補償が給付されますが、慰謝料などは支払われません。会社の安全管理に問題があった場合は、労災保険に加えて会社に対して損害賠償請求を行うことで、正当な補償を得ることができます。

骨折の労災事故では、後遺障害等級の認定や過失割合の争い、損害額の計算など、専門的な知識が必要な場面が多くあります。適正な賠償金を受け取るためには、早い段階で労災問題に精通した弁護士に相談し、サポートを受けることを強くお勧めします。

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